第15話 七里ヶ浜
江ノ電から鳥居が見えた。
僕はすっかり芝居と現実がごちゃまぜになっていたのかもしれない。
優香さんの恋人になりきる。
電車内はいろんな世代の人たちが乗っていた。表情も様々だった。
この人たちから見て疑似恋愛を演じているカップルに見えるだろうか?
僕は優香さんにあなたの悲しみの原因を教えてくださいって聞きたくなってきた。
江ノ電は七里ヶ浜を過ぎた。
「智史くんはどうして私のお願いを聞いてくれたの?」
優香さんに小声で耳元で
琴美が僕に囁く時を思い出す。
「なんでかな? 優香さんが好きだからかな」
僕は恋人の真似ごとを楽しみだしてる。こうなったら優香さんを楽しませたいし悲しみからすこしでも助けてやりたい。
会ったばかりの人が相手なのにこんなことを思うなんて日常ではなくて、旅先の非日常という魔法にでもかかっているのだろう。
僕の日常に海はこんなに近くにはない。
江ノ電は商店街のなかをゆっくりと走り抜ける。車が
優香さんの僕の手を握る手に力がこもった。
「どうしたの?」
「私ね彼に捨てられたの。もうすぐ結婚式を挙げる日だったのに」
ああっ…僕と一緒だ。
僕と一緒じゃないか。
やっぱりなと思った。この人は僕のように深い悲しみを抱いていると思っていた。
優香さんも心に傷を負っていると僕は感じ取っていたからだ。
僕は優香さんの手を握り返した。
「僕もですよ。明日が結婚式の予定でした」
優香さんはびっくりした顔で僕の顔をのぞき込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。