第10話 二階の部屋からは

 二階の部屋の窓からは海が見えた。

 絵画を切り取ったみたいな景色が広がっている。

 当たり前か。海沿いを走っていて見つけた宿だもの。でも海が見えない部屋もあるのかな?

 小さな宿だ。いくつ部屋があるのだろう。僕は窓際に置かれた一人がけのソファにもたれかかりながらウトウトとし始めていた。

 そうしているうちにキャンキャンと犬の鳴き声がした。

 窓から外をのぞくとチワワがいた。

 さっきのチワワか?

 飼い主はいないみたいだ。


 どうするかな。


 だってここは民宿だ。

 僕ん家じゃない。

 拾って飼い主を探すにしたって僕は旅人だ。鎌倉の住人じゃない。時間は限られている。

「きゃんきゃんっ」

 ああっ! もうっ!


 僕は階下に降りていき民宿の外に出て車の往来の激しい海沿いの道路を見ながらチワワを探した。

「おいっ。マジかよ。またいないのか?」

 そう僕が言うと宿の植え込みからチワワが現れて足元にじゃれついてきた。僕がチワワを抱き上げてやると鼻をベロベロ舐めてきた。


「リルー?」

 女の人のきれいな声がした。

 このチワワの飼い主か?

 探しているんだろう。

 僕はチワワを抱きかかえながら通りに出て声の主を探した。


「あっ…」

 とても美しい人が犬のリード付きの小さな首輪を持ってこちらを見ていた。


 これが僕、智史さとし優香ゆうかさんの出会いだった。

 

 


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