第11話 彷徨い続けてる
僕たちは歩き続けた。
鎌倉の町や江ノ島や大仏様を見て。
僕は握りしめた彼女の左手をぎゅっとしてふたたび感触を確かめた。
「ねえ。智史くん一緒に死んでくれないかな?」
五日前に出会った美しい優香さんに三日前に告げられて。
僕は「良いですよ」と笑顔で答えていた。
だけどね。
聞いてくれるかな?
ねえ優香さん。
僕は優香さんに告げたいことがあるんだ。
もし死んでしまったら伝えられないから。
これだけはあなたに言いたい。
「……です」
僕は最後にあなたの顔を確かめる。
ーーーー五日前に、戻ろうーーーーー
僕は恋結びの宿の前庭から通りに出ようと生け垣の門から足を踏み出した。
通りには女性が困り顔で立っていた。
チワワの飼い主だと思った。
美しい人だと思った。
少しきつめの瞳はとても惹きつけられる。
「あっ」
抱きかかえていたチワワは僕の腕からするりと抜けて美しい彼女のところに嬉しそうに走って行った。
「こんにちは。捕まえておいてくれてありがとうございます。この子すぐ首輪から抜け出しちゃうんですよ」
僕は見惚れていた。
好きとか嫌いとかじゃなくて単純に人間として男として、美しいこの女性に見惚れていたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。