第8話 車を走らせると見えた

 家まで帰る気はしなかった。


 何時間も一人で車を運転するなんてもう今日は出来ない気がした。

 家には帰りたくなかった。


 海沿いに再び今度は愛車を走らせて向かう。水面は光を反射して時々魚が跳ねた。

 海鳥が飛んでいる。

 トンビに気をつけろと看板が立っていた。

 僕は小さな民宿が目に入りウインカーを右に出してその民宿の駐車場に停めた。

「恋結びの宿?」

 看板にはそう書いてあった。

 ハハッと心で失笑した。

 自分にだ。


 馬鹿だなあ。

 ふらっと惹き寄せられたのがこんな名前の宿だなんて。小さな民宿だ。建物は年季が入っている。

 鎌倉周辺だからってお洒落なわけでもない。

 だが僕はもう他に行く気力はなくてここに泊まれたらラッキーだなと思っていた。

 

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