第12話 電車

昼の通学時とは対照的に、夕方の帰宅ラッシュ時の電車は超満員だ。背中と背中がぶつかり合い、手の置き場に困る。痴漢を疑われると男性側に現状では勝ち目がないので、つり革を両手で持つようにしている。満員電車では読書すらする隙間がなく、ヘッドホンから流れてくる音楽を聞き、混み合う人の隙間から見える車窓を眺めていた。


突然肩を叩かれた。電車が揺れて、たまたまぶつかったのだろうと思ったが、再び叩かれたので右肩の後ろに目をやった。


「もしかして翔太?久しぶりだね」


「美恵?久しぶりやん。大学こっちやったっけ?」


「大学は京都だよ。今日はたまたま友達の家に行ってたの」


「そっかあ。会うの二年ぶりくらいかな?」


「それぐらいだね。翔太と付き合ってた日々が恋しいなあ」


「何を何を。今彼氏おるやろ?」


「居てるけど、やっぱり翔太と比べてしまう……」


「なんやそれ」


「翔太は自覚ないだろうけど、本当にいい男だよ」


「ありがとう」


「最近は何してるの?」


「特に何もしてないんやけど、芸能界に入った」


「すごいじゃん。どこの事務所なの?」


「太陽カンパニー」


「陽介さんの事務所じゃん。すごい大手の所だよ」


「知ってるんや。そういえば、美恵、芸能界好きやったもんなあ」


「芸能界には詳しいよ。翔太ほんとすごいなあ」


「全然すごくないわ。まだまだ始まったばっかりやし、すぐ消えるかもよ?」


「大丈夫だよ、応援してる。じゃあまたね」


「ありがとう。うん、じゃあ」


美恵と話していたらすぐに京都駅に着いた。美恵は京都で一人暮らしをしているため、電車を降りていった。美恵とは二年ほど前に別れたが、一緒に居るとなぜだか落ち着いた。もし、友達でいれたのならいい友達になっていただろう。


京都駅で多くの人が降りたため、席に座ることができた。目を瞑るとすぐに眠りに落ち、気がつくと大阪駅の一つ手前まで来ていた。危うく寝過ごす所だった。


寝起きのせいかコンタクトレンズが乾いている。僕は視界がぼやける中、窓の外に映る淀川を見ていた。昨日雨が降ったせいか、川の流れは穏やかだが、濁りがひどい。泥色だった。


僕の心は何色なのだろうか?僕はふと思った。

芸能界で頂点に達した時は何色になっているのだろうか?透明なのか、真っ黒なのか?それとも青や赤か?


こんなことを考えたのは初めてだった。心に色があるとするならば、何色が一番よく、何色が一番悪いのか?


なんだか、おじさんくさいことを考えている自分がいた。


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若き成功者 SaisenTobutaira @SaisenTobutaira0126

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