第61話 古今無双の大英雄

前回までから少し時間は遡り皆がノアの方舟に乗船し、それぞれの敵の元へと向かった後。


クンフーは目の前の神話の英雄を見て、歴史や神話の教養が一般レベルで充分過ぎる程にわかる強烈な存在感を感じ楽しそうに微笑んだ。


すると、クンフーは空手で使われる夫婦手の構えをとってギリシャの大英雄に話しかけた。


「はじめまして、煉獄へようこそ!

まさか、貴方程のVIPが来るなんて想像もしてなかったので、大した用意はありませんが全力でお相手しますよ」


クンフーは、そこまで言うと言いたかったと、いった様子でテンションを上げながら名乗りもしていない目の前の男の名前を呼んだ。


「ギリシャの大英雄ヘラクレス!」


クンフーがそう言うと、ヘラクレスは少し困った様子で


「いや〜やっぱり、見ただけでバレたか〜。

そうだよな〜、結構わかりやすい格好で来たしな〜。」


と言うと、クンフーは少し呆気に取られた様子で


「あれ?そう言う感じ?

自信満々の英雄気質だと思ったのに」


と驚きをヘラクレスに伝えた。すると、ヘラクレスは


「いや、まあ、流石に自分の時代から随分たった後の人に最初から偉そうにしてポカンとされたら嫌だし、謙虚に行こうと思ってね。

何たって君達日本人は、神に対する興味が低いらしいじゃ無いか。だったら、力を示して解らせてから威張った方がカッコイイだろ?」


と言って不敵に笑い、クンフーとの距離を凄まじいスピードで詰めると


「これが、大英雄の実力だ」


と、得意げに言ってクンフーの腹を殴りつけた。


「がはッ!」


クンフーは殴られると、まるで体に大穴が空いた様な感覚に陥り、凄まじい衝撃で体を即座に動かす事が出来ずに目に前にいるヘラクレスに反撃する事が出来なかった。


「はははははッ!

英雄の力を思い知ったか!」


ヘラクレスは、動けなかったクンフーを嘲笑うと続けてクンフーの顔を殴り付けようとした。ヘラクレスは楽勝だと思い、力任せにクンフーに殴りかかった。その一撃は先程の攻撃よりも力がこもっており、ヘラクレスはこれでクンフーが倒せると確信していた。


クンフーは確かにヘラクレスの動きについて行く事は出来なかった。最初の一撃をくらうまでは……


ヘラクレスはクンフーを殴りつけたが、気が付くと自分の拳は捌かれ、代わりにクンフーの手刀が自分の胸に突き刺さっている事に気付いた。


「なに……?」


ヘラクレスが突然の事に驚いていると、クンフーは呆気に取られたヘラクレスから腕を抜くと、即座にヘラクレスを一本背負いし甲板に叩き付け、全身に衝撃が走り痛みがヘラクレスを襲う前に高速でヘラクレスの顔面を踏み付けた。


「そんなもんか?大英雄?」


クンフーがヘラクレスを嘲笑してそう言うと、ヘラクレスは顔中の血管を浮き上がらせ悪鬼の様な表情になり


「この下等生物がァッ!」


と叫ぶと首の筋力だけでクンフーを持ち上げ強引に立ち上がった。


だが、クンフーはそれに即座に対処しヘラクレスが首を上げた途端を上げて避けると、ヘラクレスの背後に回って背中にそっと手を触れた。


「なんだ?ド素人らしく間合いでも間違えたのか?ただ触った様にしか感じないぞ!」


ヘラクレスが強気で首を曲げてクンフーにそう言うと、クンフーはそれを無視し深く息を吸うと


「発勁ッ!」


と叫んだ。するとヘラクレスが急に吐血した。


「がはッ!ああ!何しやがった!」


ヘラクレスはそれに激怒し、振り向きざまにクンフーにラリアットをくらわせようとしたが、クンフーはその力を利用して再びヘラクレスを投げ飛ばした。


「ああああああああッ!」


するとヘラクレスは、更に激怒し空中で一回転して着地すると、クンフーに向かって全力で突進した。


クンフーはそれを再び夫婦手の構えで待ち構えた。


ヘラクレスはクンフーに近づくと、先程までの力任せの動きをやめパンクラチオンの様な構えでクンフーを殴り付けた。


すると、クンフーはヘラクレスの動きを見きったつもりで軽く避けようとしたが、格段に洗練された動きをしたヘラクレスに対処し切れずに一撃くらった。


ヘラクレスはすかさずもう一撃を繰り出すが、クンフーは二撃目は捌いてヘラクレスの顔を殴りつけ反撃した。


そんなやり取りが一瞬の間に繰り出され、辺りには近づけぬ程の圧が浸透し完全に独立した空間の中で戦っている様な状況が数十分続いた。


まだまだ両者の集中は途切れずにいたが、相手にダメージを与えても、こちらがダメージを受けても体が強化されるクンフーに徐々にヘラクレスは押されていき、遂にクンフーの動きがヘラクレスの反応速度を完全に上回るとクンフーの右ストレートがヘラクレスの腹に突き刺さり、ヘラクレスは後方に吹き飛んだ。


「ぐああああああああッ!」


ヘラクレスが吹き飛ぶと、クンフーは全速力で走って追撃し、ヘラクレスの足を掴むと思い切り握り締めて引き寄せると、ヘラクレスの右膝に思い切り肘打ちして右足をへし折った。


一方、ヘラクレスとクンフーの戦闘を当初余裕の表情で観戦していたイアソンは、途中少しヒヤヒヤしながらも二人が殴り合い始めた辺りで少し安心し、ヘラクレスの勝利を確信していたが、ヘラクレスが吹き飛ばされるのを見ると


「なにッ!!!」


と驚き、急いで


「おい、さっさとヘラクレスを回収しろ!

殺されてしまうぞ!」


と、メディアに命令した。するとメディアは


「わあ、煉獄の能力者って強いんですね〜」


と、感心して見ていた。すると、イアソンはそれに腹を立てて


「早くしろッ!」


と、怒鳴った。すると、メディアは焦って


「わわっ!すみません!今すぐに!」


と、言ってヘラクレスの下に魔方陣を出現させてヘラクレスを船内のある部屋に飛ばした。


ヘラクレスが消えると、クンフーは


「あれ?彼奴どこ行ったんだ?」


と、ヘラクレスを探し始めて辺りを見渡し、イアソン達の方を見ると、ニヤッと笑って玉座のある場所まで歩き始めた。


それを見たイアソンは焦り


「お、おい!誰か彼奴を止めろ!」


と、叫んだ。


すると、それにいち早く反応した者が馬に乗り急いでその場に駆けつけた。


「どうした、イアソン!

何を困ってる?」


その男が、勇ましくそう言うとイアソンは、


「おお、カストール!彼奴を止めてくれ!」


と、言うとカストールは勇ましく


「おうさ!任せとけ!」


と馬を走らせ、イアソンが指を指して示したクンフーに突進した。カストールは、クンフーに突進する最中に聖遺物の力を発動させて黄金の粒子を馬と自分に纏わせ、黄金の鎧に変えてクンフーに突撃した。


クンフーは、自分に迫ってくる騎兵に気付くと馬を止めようと思い、馬の方を向いて手を前に突き出したが、馬が当たるとまるで生身で大型トラックに突っ込まれたかの様な衝撃に襲われて吹き飛んだ。


「ぐあああッ!」


クンフーが吹き飛ばされ空中に打ち上げられると、そこに羽根が生えた男二人が飛んで来て手に持った煌々と紅く輝く剣でクンフーをカマイタチの様に通り抜けざまに切り付けた。


「うああああッ!」


「よし、良いぞ!カストール!

カライス、ゼーテースも、そのままそいつを切り殺せ!」


カライスとゼーテースが空中でクンフーを攻撃した後、クンフーは流石に空中では自由に動けず落下するのを待ったが、


「まだまだ、飛んでなよ!」


と、カライスがクンフーの足を掴んで空中に留めた。クンフーはそれに対し腹筋を使って起き上がり、カライスの腕を手刀で切りつけようとした。


だが、クンフーが動くとクンフーの腕に突如、何らかの合金で出来たかなり硬度と質量のある競技用の円盤を武器に改造した様な物が飛んできて、クンフーの動きを阻害した。


「おいおい、本当にそいつさっきまでヘラクレスを押してた奴かよ!」


意気揚々とそう叫んだ男は、投げつけられ速度が落ちた後にドローンの様に自動で飛んで戻ってくる円盤を回収しながら自慢気に言っていた。


「テラモーン、ありがとう!

ちょっと、危なかったよ!」


カライスが、そう言いながらクンフーを更に上空に放ると、テラモーンは


「なに、気にするなってカライス!」


テラモーンとカライスが仲良く話しているうちにクンフーは甲板に落下した。


「がはッ!」


カストールはクンフーが落下すると直ぐにクンフーの元に走りクンフーを馬で轢いた。


だが、クンフーはボロボロの体に鞭を打って無理やり立ち上がり、カストールを睨んだ。


だが、カストールがそれを見てクンフーを嘲笑い


「ボロボロのその体で俺を倒す気か?

良いぜ!やって見ろ!」


と、再びクンフーに突進した。それと同時にテラモーンが円盤をクンフーに向かって投げ付けた。


クンフーはカストールをギリギリまで引き付けると、タイミングを見計らってしゃがみこんだ。


すると、テラモーンの円盤がカストールの馬に激突しカストールの馬が悲鳴を挙げて暴れ始めた。


「うわ、ドウドウ!落ち着けって!」


すると、クンフーは馬に当たった円盤を掴み、それを持って馬の頭を思い切り殴りつけた。


クンフーが鈍器で思い切り殴りつけると馬の頭た柘榴の様に飛び散り、それに驚いたカストールが馬から降りる前に円盤を海に向かって放り捨てるとカストールの足を掴んで引きずり下ろし、顔を思い切り踏んで馬と同じ様に頭を砕いて殺した。


周りのアルゴノーツ達はカストールが死んでクンフーを恐れ、警戒を強めてクンフーの行動を待った。


すると、クンフーはそんな彼らに挑発するように


「どうした!纏めてかかってこい!」


と、怒鳴った。

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