第53話 海神の寵愛を受けし乙女

皆がノアの方舟に乗船すると、咲は目の前に立ち塞がるカイネウスが煌々と紅く輝くトライデントの様な形の三又の槍を取り出すと、グラスホッパーに渡されたナノマシン発生装置を起動させた。


咲がナノマシン発生装置を起動すると、咲は変身して蜘蛛の様になった顔が元の人間の顔に戻り透明感のある青いドレス姿になり、手には2m程の大きさでスパイクの付いた棍棒を持った姿になった。


それを見るとカイネウスは、


「お嬢さん随分可愛い姿になったね

でも、そんな大振り武器では君がどんな能力を持っていたとして僕には勝てないよ」


と、言うとカイネウスは体を水蒸気に変えると、咲に突進していき、咲を通し抜けると水蒸気の高熱で咲を焼き、背後に回ると人間の状態に戻り、深紅に輝く槍で咲の体を連続で突き刺し続けた。


「あああああぁっ!」


突然の凄まじい攻撃に咲は悲鳴を挙げると、カイネウスは、どんどん紅く染まっていくドレスを見て笑いながら


「そんな可愛い格好で、男の僕に勝てるはず無いだろ!自らの無力さを痛感しなよ!」


カイネウスの突きは一撃一撃が鋭く重たく速いので咲は暫く為す術なく突かれ続け体を穴だらけにされた。


だが、咲の着るドレスが咲の血で完全に赤くなると……


「貴方は、大昔の人だから知らないでしょうけど、今の時代は男より強い女だってたくさんいるの!」


と、咲が言いドレスから紅い衝撃波が咲の体の周りに球状に広がり、カイネウスを吹き飛ばした。


「おわっ!」


カイネウスが、それに驚き船の甲板を力強く踏みしめ耐えると、一瞬隙ができ、咲はその隙にバッタとチーターが混ざった様な見た目の強靭な足で飛び上がり、空中で一回転してカイネウスに棍棒を打ち付けた。


カイネウスは、それを槍で捌いたが、咲は背中から蜘蛛の足を八本生やし、その先端を猿の様な手にするとカイネウスの槍を掴み、腕と顔を180度回転させてカイネウスの槍を掴んだ状態でカイネウスの顔を棍棒で殴りつけた。


咲の表情は、口が裂けそうな程にニヤッと笑っており、通常の人間ならば逃げ出す程の威圧だった。


「潰れてッ!」


少女のドスの効いた声を浴びながら、カイネウスは、黄金の粒子を武装の兜に集中させ、棍棒が振り下ろされる前に棍棒に頭突きして攻撃を弾き、体を水蒸気にして咲の上空まで飛び上がった。


「もう!やったと思ったのに!」


咲が悔しそうにそう言うと、カイネウスは咲の上空で人間の姿に戻り、咲の背中から伸びる蜘蛛の足を全て切断した。


「あああああぁっ!」


咲が、足を切られて叫ぶと、カイネウスは続けて空中で咲の横腹を蹴り飛ばして咲を吹っ飛ばした。


「ああああああああああぁっ!」


咲が、吹き飛ばされ船の外まで飛ぶと、カイネウスは、海の水を操り水の柱を作ると先端を槍の様に尖らせて咲の体に突き刺した。


「ぐはっ!」


咲が、口から血を吹き出し水の柱に突き刺さったまま固定されていると、カイネウスは、槍を振り上げて叫んだ。


「これこそは、我に求愛せし海神の加護、

荒ぶる波も、深い渦も七つの海の全ては、我が手足!

呑まれ、藻掻き、天を仰げ!

海神の寵愛は深く蒼くタラッタ・ディーネー・ドリッ!」


カイネウスがそう叫びと、咲の下に広がる海に大きな渦潮が現れ、それが徐々に中心から突き出して来ると、ドリルの様に咲の体に突き刺さり引き裂いた。


「あああああああぁっ!」


ドリルの様な渦潮は咲の体を貫通すると、先端が蛸の足の様に別れ、咲の耳と鼻と口から咲の体に侵入していき、咲を窒息させて行くと同時に、咲の体を内部から破壊していった。


「ガボッ、ごばばばばっ!」


咲が、体を引き裂く水と、体に侵入する水に苦しむ様を見てカイネウスは、


「はははははっ!

やはり、女の子なんかじゃ僕は倒せないよ!

なんたって、男が上、女が下生まれた時から決まってるんだよ!例え、どんなに美しくても、どんなに貞淑を貫いていてもそれは、覆らない!」


カイネウスが、少し狂気地味た口調でそう言うと、咲はカイネウスを睨み付けた。


それを見たカイネウスは、癇に障り


「なんだよ?その顔は!

違うとでも言いたげだな!

まだ、わからないなら更に教え込むだけだ!」


と、カイネウスが言うと、突如カイネウスは

悪寒がしてその場から飛び退いた。


冷たく嘆くは嫉妬の呪いウルリャフト・マティ・メドゥーサ


突如、何処からか響いたその声は、カイネウスがいた場所に結界を張った。


すると、カイネウスはそれに驚き


「誰だ!」


と、叫んだ。


すると、そこには漆黒の鎧を身にまとった役小角の姿があった。

カイネウスは、それを見て役小角の所へ水蒸気に向かって移動し、トライデントで役小角を貫くと貫いた途端、役小角の姿が消えカイネウスの背後から本物役小角が現れ、強烈な冷気を纏った刀をカイネウスの体に突き刺そうとした。


「辺獄にいるスーザン・B・アンソニーに土下座しろォッ!」


そう言いながら、カイネウスに突き刺した役小角の刀は、カイネウスの体に弾かれ、カイネウスは急速で振り向き、役小角の喉にトライデントを突き刺そうとした。


すると、役小角は全身から強烈な冷気を放ちカイネウスの動きを止めると、カイネウスの体に落雷を落とした。


落雷に打たれてもカイネウスはビクともせずに、トライデントを強く握りしめて役小角を睨みつけ、再び、役小角の喉を突き刺した。


役小角の喉を完全にトライデントが貫いたが、カイネウスの腕に手応えは無く、槍が突き刺さった状態で役小角はニヤリと笑ってカイネウスの肩に触れた。


「生憎、俺には三人の鬼がついている

お前なんかが一人で倒せる相手じゃねえんだよ!」


と、言いカイネウスの体を凍りつかせた。


「うあああああああああッ!」


絶叫をあげながら徐々に体に冷気が走り、凍りついていくカイネウスは水蒸気になってその場から逃げようとしたが、役小角の冷気は水蒸気すら凍りつかせた。


カイネウスが、完全に凍りつくと、役小角は咲を貫く水を凍らせ風を操って咲を船に連れ戻した。


「大丈夫か?」


役小角が、優しく咲にそう尋ねると、咲は大量の水を吐き出しながら



「うおぉえっ!ぺっ!

……あ〜、あ〜、うん!大丈夫!」


と、言い咲は元気そうにしていた。

役小角は、それを見ると微笑んで


「お前が苦しむと、クリエイターとピキニ・カイカイに怒られるからな〜

無事で良かったぜ」


と、言うと咲は


「も〜う!

一人でも大丈夫だよ!

みんな子供扱いして!」


と、怒ったが、役小角はそんな咲の頭をポンポン叩きながら


「子供だろうが〜

大人しく心配されとけ〜」


と、からかった。すると、咲は頬を膨らませた後に


「む〜

まあ、良いや

それより、他の皆を助けに行こう」


と、言うと役小角は、


「ああ、そうだな

だが、まあ俺達が倒した奴は結構強そうだったし、この分なら他の奴も大丈夫だろ」


と、役小角が、油断した瞬間


凍りついたカイネウスの上に魔法陣が現れ、カイネウスの体を溶かした。


役小角は、それを見て驚き急いで対処しようとしたが、カイネウスは凄まじい速度で役小角の右腕をトライデントで貫こうとした。

そこへ……


「油断してんじゃねえ!

お前の悪い癖だぞ!」


と、突如蒼い閃光が駆け抜け、役小角に突き刺さりそうだったトライデントを殴りつけて逸らした。


「うあ!

また新手か!」


カイネウスが、煩わしそうにそう言うと、ソニックは、腕のブレードからカイネウスに向かって稲妻を放ち、それとほぼ同時にカイネウスに向かってスライディングしてカイネウスのバランスを崩した。


「ぐあッ!」


カイネウスは、ソニックにバランスを崩され咄嗟に体を水蒸気に変えた。すると、それを見た役小角が、強烈な冷気を放ってカイネウスの動きを止めた。


カイネウスが人間の姿に戻ると、咲は手に持った棍棒でカイネウスを叩き潰そうとした、だが、カイネウスはそれをトライデントから勢い良く水を放って止めた。


咲の動きを止めると、カイネウスは体勢を立て直し、役小角にトライデントを向けようとするが、ソニックが蒼い閃光となってカイネウスの背後に周り、量子トンネル効果を利用してカイネウスの心臓を貫いた。


「がはッ!」


カイネウスは、たまらず膝を付き血を吐き出すと、そこを咲が棍棒でカイネウスの頭を殴りつけた。


「ああああああぁぁッ!」


咲が、尋常ではない程重たい棍棒をカイネウスの頭に幾度も叩きつけると、カイネウスは悲鳴を挙げて床に転がった。


すると、そこに役小角がカイネウスの上空に巨大な氷の塊を出し、咲がそれを見て飛び退くと、


「これで、トドメだァッ!」


と、カイネウスに巨大な氷の塊を叩きつけた。氷の塊に潰されたカイネウスは、道に落ちる果実の様に勢い良く破裂し、周りに鮮血をばらまいて氷に埋もれた。


それを見た三人は、勝利を確信して得意げに喜んだ。


「「「まずは、一人ッ!」」」

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