第30話 あの人が私を愛する様になって、自分が自分にとって

クリエイターの工房から出た咲とピキニ・カイカイは、まず工房の近くの小さな庭に出た。

小さな庭に出ると、咲はクリエイターが、作り咲に渡したブレスレットの形をした装置を弄り、背中から鷲の様な翼を出すと


「じゃあ、大きなお庭まで結構距離あるし、飛んで行こう」


と、咲はピキニ・カイカイに手を伸ばしたが

ピキニ・カイカイは、


「いや、大丈夫だ

自分で飛べるよ」


と、咲に優しく言うと、ポケットからカプセルを2つ取り出して、地面に放り投げた。

すると、そのカプセルからシェイプシフターが現れ、ピキニ・カイカイの背中に張り付くと、シェイプシフターが美しい銀翼に変わりピキニ・カイカイは、空を飛んだ。

それを見た咲は、


「すご〜い!

それって、何でも出来ちゃうんだね!」


と、子供らしく目を輝かせて言った。

すると、ピキニ・カイカイは、調子に乗り更にカプセルを二つ取り出して地面に投げると、翼を四つにし、


「ああ、僕の能力は他の奴ら見たいな野蛮な能力じゃないからね

よし、じゃあ、上まで競走しようか」


と、言い翼をはためかせて急上昇した。

それを見た咲は


「あっ!

ずる〜い!」


と、急いでピキニ・カイカイを追った。

ピキニ・カイカイは、高度200m程の高さまで飛び上がるとそこで止まり、下に目をやると初めて見る屋敷の全体像に驚いた。


「なんだこれは

中心の屋敷からかなりの面積を塀で覆っているこれは、平城京を真似たのか?」


と、呟くと、追いついた咲が


「お兄様は、紫禁城って言ってたよ〜

お姉様に外観を無理やり変えさせられてたけど」


と、応えた。

すると、ピキニ・カイカイは、


「君は、この事を知っていたのか?」


と、尋ねると


「うん、偶に一人でお散歩するかね

それより、ずっと住んでるのに知らない皆の方が変だよ」


と、咲が言い、ピキニ・カイカイは、訓練所に使っている屋敷の前の大庭園と、クリエイターの工房くらいにしか行かない自分達のここでの生活を思い返し


「確かに...」


と、少しへこんだ。

それを見た咲は、ピキニ・カイカイを励まそうと


「じゃ、じゃあそろそろ行こうか

結構、端の方にあるから場所だから静かで落ち着けるよ」


と、言うとピキニ・カイカイは微笑んで


「そうだね、行こうか」


と、言い咲が案内する庭に向かった。


暫く二人で飛び続け、咲が


「あそこだよ〜」


と、指をさした場所へ向かった。

そこは椿の花が咲き誇る美しい庭園だった。

二人はそこへ降り立つと、備え付けてあったベンチに座り、暫しお互いのここでの生活等を話しあった。


「そう言えば、君はいつもクリエイターの彼女と一緒にいるが、いつもどんな事を話すんだ?」


と、ピキニ・カイカイが、尋ねると

咲は、少しうんざりした様な顔で


「お姉様は、基本的にお兄様の話しかしないわ

いつも、今日の朝お兄様が、服を褒めてくれたとか、お兄様が、進めた映画を見たらお兄様が、喜んだ〜とか」


と、言うと、ピキニ・カイカイは、


「それは、少し...

いや、かなりキツイな...」


と、言うと

咲は、


「私もお兄様の事は好きだけど

流石に一日中されると...」


と、言い二人で笑った。

その後、咲が


「聡は、いつも何をしているの?」


と、ピキニ・カイカイに尋ねた。

すると、ピキニ・カイカイは、


「私か?

私は、生前やりきれなかった研究や、自分が使う武器を作ったりしてる

最近はよくクリエイターと一緒に工房にいるな」


と、言い、咲は意外そうな顔をして、興味津々に尋ねた。


「え〜

お兄様とずっとお兄様と一緒にいるの?

お兄様って一人が好きなのかと思ってた!」


と、咲が言うと、ピキニ・カイカイは、少し複雑そうな顔をして


「いや、確かにアイツは一人が好きなんだが、別に人と居るのが嫌いな訳じゃ無いんだ

まあ、会話が出来る奴以外といるのは嫌がるが」


と、言うと咲は、


「会話が出来ない奴って?」


と、尋ねるとピキニ・カイカイは、


「おや?クリエイターから聞いていないのか?

最近アイツは、煉獄の街から我々と一緒に戦いたいと言ってきた奴らを側近部隊として鍛えてるんだ」


と、ピキニ・カイカイが、言うと


「え〜!?

お兄様が、他人を傍に置くために鍛えてるの!?

メイド達意外は、傍に置きたく無いんだと思ってた...」


と、少し寂しそうにした。

すると、ピキニ・カイカイは、心配そうに


「どうかしたのか?

なんだか、複雑そうだが」


と、尋ねた。すると、咲は


「お兄様は、聡達がお屋敷に来る前、戦う時いつも私とお姉様を置いて行くの

だから、あんまり他人を信用出来ないのかなって思ってたけど、私達が力不足と思われてただけなんだって思っちゃって...」


と、言い、それに対しピキニ・カイカイは、微笑んで


「ああ、まあ、クリエイターはあまり君達には本心を好意以外では伝えないよな」


と、言いながら咲の頭を撫でて


「良いかい、良く聞きなさい

アイツは、君達をいや、私達でさえ目の前で傷つくのが嫌なんだよ

考えても見ろ?

もし、この屋敷に住んでいる能力者を信用していなかったら、強力な武装を与えるか?

君なんて特にだよ

もし、君が本気でアイツを襲って私達全員が、彼奴の武器を使って君の味方をしたら彼奴はただでは済まない

それなのに

アイツは、僕らを強化して、君が一人で身を守れるようにそのブレスレットを与えた

彼は、決して口にはしないが我々を家族の様に愛している

だから、私達はアイツの為に命懸けで戦うんだ

だから、そんな心配をするな

アイツが聞いたら悲しむぞ」


と、言うと咲は少し恥ずかしそうに


「もう、口で言ってくれないとわからないって、いつも言ってるのに...」


と、頬を緩めながら言った。

ピキニ・カイカイは、そんな咲を見て微笑んでいると


ふいに冷たい風が吹き、二人を近づけた。

咲が少し寒そうにすると、ピキニ・カイカイは、ナノマシン発生装置を起動させ、コートを咲に渡すと咲は、それを着てピキニ・カイカイの膝に座った。座り込んだ咲はピキニ・カイカイの顔を覗き込む様にピキニ・カイカイの顔を見つめると、ピキニ・カイカイは、それに照れてそっぽを向いた。それに対し、咲は小悪魔という表現がピッタリな笑顔に変わり


「な〜に?

恥ずかしいの?」


と、ピキニ・カイカイに尋ねた。

すると、ピキニ・カイカイは、


「君は、少し離れても変わらないな」


と、言って咲の方を向いて微笑むと今度は咲が照れてそっぽを向き、少し頬を膨らませて


「もう、馬鹿...」


と、頬を赤く染めながら言った。

咲が、そっぽを向いたまま暫くいると、ピキニ・カイカイも静かになった。

咲は、ピキニ・カイカイへの想いが強まりながらも、咲に話しかけるのは癪だと、少し意地を張ってピキニ・カイカイが、話かけるのを待っていた。

すると、咲の首筋に何か生暖かい物が伝わり、


「あれ、雨?」


と、ピキニ・カイカイの方を向いた。

すると、そこにはこめかみからアイスピックの様な物で頭を一突きにされ、即死したピキニ・カイカイの姿があった。

咲は、それを見ると一瞬、何が起こったのかわからなくなり、ピキニ・カイカイから飛び降りて、顬から滴る赤い液体と、自分の首筋を触って手の着いた赤い液体を交互に見て、やっと、状況がわかり、恐怖に震え、悲鳴を挙げた。


「きゃあああああああああああああああッ!」


咲が、悲鳴を挙げた後、気が触れた様にピキニ・カイカイの身体を揺さぶり


「聡!

ねえ、聡起きてよ!」


と、ピキニ・カイカイを呼びかけた。

だが、ピキニ・カイカイは、起きずに代わりに背後から、見知らぬ男の声がした。


「お嬢ちゃん、そいつの娘か何かか?

まあ、何にしても気の毒に

だけど、心配いらないよ〜

お嬢ちゃんも直ぐに同じ所に行くからね〜」


咲の背後から聞こえたその声に咲が驚き、急いで振り向くと、そこには黄金の兜を被り、右手に生物味を帯びている見た目だが、明らかに人工物で出来ている、鉤爪の付いた悪魔の様な義手をつけた男の姿があった。

それを見た咲は、急いでブレスレット型の機械を弄ろうとしたが、それを見た黄金の兜を被った男が足に付けた短剣を咲の腕に投げつけ、突き刺して、それを阻んだ。


「あああああッ!」


短剣が刺さり、左手の中指から親指までが切れ、さらにブレスレットを破壊された咲は、恐怖と痛みに悲鳴を挙げると、目の前の黄金の兜を被った男は、


「ごめんよ〜お嬢ちゃん

オジサンも必死なんだよ〜

なんたって君達の神様に腕落とされちゃったからね

だから、今度は本気で君達を殺しに来たんだ

アルゴノーツ本隊が来る前に俺一人でお前らを皆殺しにしてやる」


と、怒りに燃えた目で冷たくそう言い放った。

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