第31話 城塞都市の英雄、再び

ヘクタールは、咲の腕に短剣を突き刺すと、悲鳴を挙げる咲にこの屋敷の人間を皆殺しにすると伝えた。咲は、ブレスレットを破壊された上にピキニ・カイカイを倒され、変身出来ずに目の前の強敵にただただ怯えるばかりだった。


ヘクタールは、そんな咲の態度に関して路傍の石を蹴り飛ばした程の表情の変化も戸惑う動作も無く腰に指したロングソードを引き抜いて咲に迫った。


「さあ、お嬢ちゃん

お父さんの所へ行かせてあげるよ」


と、怯える咲にロングソードを振りかざしながらヘクタールは、言った。咲は、震えながらも歯を食いしばり立ち上がり、腕に刺さった短剣を引き抜いた。

その目は怒りに燃え、強くヘクタールを睨んだ。ヘクタールは、そんな咲を見て、


「お?

なんだ?

お嬢ちゃんも戦うのか

まあ、お嬢ちゃん達の神様も可愛い娘を連れてたし、ここでは普通なのかもな

良いぜ、来な!」


ヘクタールが、そう言うと咲はヘクタールへ向かって走りヘクタールの足目掛けて突進した。

ヘクタールは、それに対しロングソードを構え、咲の出方を待った。

咲は、そのままヘクタールの足へスライディングして言ったが、ヘクトールはそれを軽く避けた。


「おいおい、どうしたお嬢ちゃん

そんなんで俺を倒せると思ったのか?

オジサンショックだな〜」


そう言いながら、ヘクタールが通り過ぎて言った咲の方を向いた瞬間、

咲は、短剣が突き刺さった傷口から流れ出る血液をヘクタールの顔目掛けて、腕を思い切り振って飛ばした。


「ああ、くそッ!

言ってえ!

酷いなお嬢ちゃん」


ヘクタールが、そう言いながら舐めた態度で咲に話しかけ、顔に付いた血を拭うと


「ん?

あれ?

お嬢ちゃんどこ行った?

お嬢ちゃ〜ん?

パパがここで死んでるよ〜

ダメだこりゃ...

ああ、クソッ!

しくじった!」


スライディングで通り過ぎて行った咲の姿が消え、ヘクタールは一人早く殺しとけば良かったと、悔いた。


咲は、ヘクタールから逃げる為に椿の木で出来た迷路の様な構造になっている庭園まで走り必死で身を隠した。


「どうしよう

早く何処かに隠れないと

聡が復活して助けに来てくれるまで逃げないと」


と、迷路の中を走り回った。咲は、逃げる途中腕から血を流しっぱなしな事に気が付き急いで腕を修復した。咲の能力は任意で再生のタイミングを変化させる事が出来、その間その傷によって致命傷になっても咲の体には何の異常もない。

迷路の中で咲は、球場に剪定された木を見つけ、急いでその木に登り葉の枝の内側で外側からは見つけにくい場所へと隠れた。


ヘクタールは、咲を探して迷路の中を歩き回っていた。


「お嬢ちゃ〜ん

いるのはわかってるよ〜

血の跡があるしね〜

早く出ておいで〜」


と、ヘクタールは、咲を呼びかけるが咲は必死で息を殺した。


「おかしいな

血の跡が消えたぞ

お嬢ちゃんが本当に消えちまった」


と、ヘクタールが、呟くと咲はホッとした。

だが、


「なんて言うのを期待してただろうお嬢ちゃん

子供は可愛いね〜

木の中にいるのバレバレだよ」


ヘクタールは、咲が隠れている木を睨み付けながら急に口調を厳しくしロングソードを振り回して、ロングソードの柄を伸ばした。

すると、咲がいる木へ向けて投擲の体勢をとり


「じゃあな、お嬢ちゃん

パパの所へお行き」


と、言って柄を伸ばして槍へ変えたロングソードを木に向かって投げつけた。

ヘクタールの槍がぶつかり、咲のいる木は、葉が全て落ちる程の衝撃を受けた。咲の急いで避けようと木から飛び降りようとしたが、それが災いして下半身が全て吹き飛んだ。


「ああああああああああッ!」


上半身だけの状態で頭から落ちた咲は、落ちる最中、絶叫した。

ゴキッ!

と、鈍い音を立てて咲の首が折れ、咲は首から下を動かせなくなる。

ヘクタールは、そんな咲を見て


「ヒュ〜

お嬢ちゃん、まだ生きてるの?

やっる〜」


と、口笛を吹いて驚く素振りを見せ、咲を挑発する。

咲は、急いで身体を修復し立ち上がって逃げようとしたが


「おっと、そうかお嬢ちゃん

身体を治せるんだな

だから、血痕が消えたのか

俺もその能力にすればよかったな〜」


と、言い咲をからかうと、足に付けた短剣を咲の足に投げつけて咲を転ばした。


「あああああァッ!」


咲は、悔しさと痛みで絶叫しながら、転倒し鼻から血を流して、足を抑えた。

ヘクタールは、そんな咲に向かって走り、藻掻く咲を思い切り蹴り飛ばした。


「あがッ!」


思い切り身体を蹴り上げられ、咲は血を吐いて気絶した。

すると、ヘクタールは、黄金の粒子を手に集め、投げた槍を再び手にすると


「よし、思ったより手間取ったが

トドメだ」


と言って咲に槍を突き刺した。

腹を貫かれた咲は、自動で能力が発動し目が覚めると、ヘクタールの槍を手で掴んだ。

ヘクタールは、その行動に困惑し


「お、お嬢ちゃん?

何やってんの?

手、切っちゃうよ?」


と、おどけて言った。

すると、咲はヘクタールの方を向いていたがヘクタールより先を見て微笑み


「もう、遅いよ

寂しかったよ」


と言った。ヘクタールは、そんな咲を見て


「なんだ

気をやっただけか

こう見ると、可哀想になってくるな」


と、少し悲しげに呟き


「もう、良いよお嬢ちゃん

早く楽になりな」


と、言って槍を引き抜こうとした。

だが、槍は岩に突き刺さったようにビクともしない。


「な、なんだ?

下に岩でもあったのか?

いや、そんな感触...」


ヘクタールが、そう言った瞬間、咲は槍を自分の体から引き抜きヘクタールから槍を奪い取った。


「うわっ!

お嬢ちゃん、なんだよその怪力

なんで、今更になってそんな事」


と、ヘクタールが、驚き咲は、それを嘲笑した様な表情を見せた。ヘクタールが、困惑し一瞬動きを止めると、そのタイミングを見計らって謎の銀色の物体がヘクタールの背後からヘクタールの全身を覆いかぶさり、


「押し潰せ、シェイプシフター」


と、男の声がしたと思った瞬間、ヘクタールは、


「なんだこ...」


と、呟き、急激に小さくなったシェイプシフターに押し潰された。

シェイプシフターからは、果物が急に弾けた様にヘクタールの血液が飛び出し、ヘクタールは、即死した。


鮮血が飛び散るのを背中に付けたシェイプシフターで払いながらピキニ・カイカイは、咲に近づき、咲を抱き上げると


「ごめんよ

遅くなった」


と、優しく咲に言った。

咲は、身体を治しながらピキニ・カイカイに


「ホントにね!」


と、少し泣きながら笑顔で言うと、続けて


「でも、急いで復活して来てくれたんでしょ?」


と、優しく言った。

すると、ピキニ・カイカイは、少し咲から顔を逸らして


「え?

ああ、そうだよ」


と、言った。すると、咲はジト目で


「ねえ、な〜に

その反応」


と、ピキニ・カイカイを脅すように言うと

ピキニ・カイカイは、


「いや〜、その」


と、口どもっていたので


「良いから早く言ってッ!」


と、咲が怒鳴りピキニ・カイカイは、慌てて


「実は、死んでないんだ

あはははは」


と、ピキニ・カイカイが、笑って誤魔化そうとしたが、咲は、それに対して笑いかけ笑顔で


「ねえ、どう言う事?」


と、ピキニ・カイカイを脅した。

すると、ピキニ・カイカイは、冷や汗をかきながら


「あ〜、

君が、少しそっぽを向いて黙っただろ?

その時、ほら、私疲れていたから」


と、ピキニ・カイカイが、言うと

咲は、ピキニ・カイカイを睨みながら


「寝てたのね?」


と、言うとピキニ・カイカイは、


「はい...」


と、これ以上言い訳したら殺されると、思いながら応えると、咲は微笑んで


「でも、正直に言ってくれて嬉しいわ」


と、言った。

ピキニ・カイカイは、それに困惑し


「え?」


と、聞き返すと、咲は


「本当に助けて貰ったし

お礼にキスしてあげる」


と、咲は、ピキニ・カイカイの耳元に囁いた。

ピキニ・カイカイは、それに動揺し


「え?ええ!

良いのかい?」


と、尋ねると、咲は


「もちろん、さあ目を閉じて」


と、言った。

ピキニ・カイカイは、それに対し喜んで目を閉じると

目の前で、ブチブチと、肉が裂ける音がする


「ん?」


と、ピキニ・カイカイが、目を開けると咲は、変身し蜘蛛の様な顔で大きく口を開き、ピキニ・カイカイの頭に齧り付いた。


「ぎゃあああああああああッ!」


悲鳴を挙げるピキニ・カイカイに対し、咲はピキニ・カイカイの顔を吐き出した後に


「ふんだ!

デート中に寝ないでよね!」


と、怒って言った。


ピキニ・カイカイが、屋敷の復活場所で復活し、屋敷の会議室へ向かうと


そこには、ドゥリンダナヘクタールの槍を持った咲が既に居り、他のメンバーも全員集合していた。

ピキニ・カイカイが、席に着くとクリエイターは、


「お疲れ様

発見が遅れてすまなかった」


と、ピキニ・カイカイに言うと、ピキニ・カイカイは、


「いや、いいんだ

そんな事より本題に入ろう」


と、言った。するとクリエイターは頷き、本当に入った。


「まずは、先程この屋敷に辺獄から刺客が侵入してきた」


すると、皆が驚き、ざわめき始めると


「落ち着け、敵は既にピキニ・カイカイと咲が倒した

本当はここからだ」


と、クリエイターが、言い、皆静まると


「先程、ピキニ・カイカイ達が倒した敵から聖遺物を回収出来た

咲、持ってきてくれ」


と、クリエイターが、言い

咲は、ドゥリンダナをクリエイターに手渡すと


「ありがとう」


と、咲に言い、続けて


「本題は、この聖遺物を誰が持つかだ」


と、クリエイターが言うと、再びざわめき始めた。

すると、


「私と咲が回収したんだ

私のだろ」


と、ピキニ・カイカイが、言い


「いや、槍だから俺が使うべきだ

この中で一番使い慣れてる」


と、グラスホッパーが言い


「まずは、クリエイターが持つべきだろ

奴の聖遺物は、俺たちの武装も強化出来る物だし、やられたら困るだろ」


と、キング・メイソンが言い


「いやいや、俺が持つべきだ

なんたって俺の能力が一番この中で強力だ

聖遺物を持ったら無敵だぜ」


と、役小角が言い


「それなら、俺が貰う

攻撃手段が乏しい物を強化した方が戦略的に良いだろ」


と、ガーダーが言い


「では、私が貰おうか

ガーダーは、近づかれても対処出来るが

私は、接近戦には弱いからな」


と、マイスターが、言い

自己主張の激しい奴らが揉め始め


「じゃあ、もう全員で戦って勝った奴にしようぜ」


と、役小角が言い出し


「はん、良いだろう

お前単体では、私には勝てないがな」


と、マイスターが言うと

役小角がマイスターの胸ぐらを掴んで


「あぁ?

お前今、なんつった!」


と、殴りかかろうとしたので、

クリエイターが、ため息をついた後に


「やかましいッ!

もう、僕が決める!」


と、怒鳴ると、皆静まって


「まあ、それが一番だよな」


と、役小角が言い出し

皆、頷いた。


すると、クリエイターは、


「では、今回の聖遺物は槍という特性があり、他の者では手に余る可能性があるので

グラスホッパーに与える事にする」


と、言うとグラスホッパーは、


「よっしゃー!」


と、はしゃぎ、マイスターが舌打ちした。

クリエイターは、グラスホッパーに槍を渡し


「じゃあ、取られないように

ちゃんと持っておけよ」


と、言うと

グラスホッパーは、槍を受け取り


「俺は、子供か!」


と、言った後に微笑んで


「おう、絶対手放さねえよ」


と、言って席に戻った。

グラスホッパーが席に付いた後、クリエイターは、


「おっと、肝心な事を忘れていた

ビン・ラディンに聞いた情報を元に智慧ジュウホエに聖遺物解析機能をつけたんだった

智慧ジュウホエ、早速その槍を解析してくれ」


と、言うと智慧ジュウホエを全員に聞こえるように、スピーカーと連動させて


「は〜い

ちょっと待ってくださいね〜」


と、言って槍を解析すると


「わかりました〜

その槍は不滅の聖剣 ドゥランダルです

びっくりですね!」


と、智慧ジュウホエが言うと


「それで、聖遺物は?」


と、クリエイターが、尋ね智慧ジュウホエは、


「あっ!そうでした

その槍の聖遺物は、

バジル・ブラッド、

ドニ・ヘアー、

マリア・クロス、

ペテロ・ティースの四つです!」


と、言うとクリエイターを含めた全員が、


「「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」


と、一瞬固まった後、ピキニ・カイカイは、グラスホッパーに対し、


「おい、それ分解した方が」


と、言うとグラスホッパーは、


「嫌だね

絶対、手放さねえって約束したし」


と、言って能力で瞬間移動し部屋から消えた。それを、見たクリエイター以外のメンバーは


「「「「「「「「「おいッ!ふざけんなッ!」」」」」」」」」


と、立ち上がり、部屋から飛び出してグラスホッパーを追った。

全員が、一斉に出ていくとクリエイターは、一人残った咲に


「これは、次からは取った物勝ちだな」


と、呆れて言うと

咲は、苦笑いで


「あはははは

そうだね〜...」


と、困った様子で言った。

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