第13話 聖遺物の力

少し離れた場所でルムの戦いを見ていた僕は、ルムがやられている所を見て今まで感じた事のない強い感情に襲われた。

発狂するルムは、今まで僕に尽くしてくれた。

それは、生前では経験した事のない他人が起こす行動により喜びを得るという不思議で安らげる感覚だった。

だが、今ルムは僕の命令で戦い苦しんでいる。

僕は、それを許せるのか?

あんなに僕に喜びを与えてくれた人が苦しめられるのを黙って見ていられるのか?

否、断じて否だ。

ルムは、僕よりずっと強いし、僕は今まで生きるために必死で戦って来たが、自殺者では無い本当の強者と戦って勝つ事ができるのか?

わからない、いや、恐らくまともに戦ったら敵わないだろう。

でも、あれは見ておけない!


僕が、動こうとする前に、ルベがカメハメハ大王を睨みつけて助けに行こうとするが、僕は、それを止めた。


「お前は、聖を守ってろ!

そこを動くなッ!」


今までルベ達に接する時に使った事のない怒りの感情を叫びルベが驚いて静止する。


「すみませんご主人様

ご命令改めて遂行します」


ルベが、慌ててそう言うと、僕は、ルベに微笑んで


「ああ、頼む」


とだけ言い、異空間倉庫から対物ライフルを取り出してカメハメハ大王に向かって放った。


すると、カメハメハ大王はそれを尋常では無い反射神経で両刃の短剣を使って弾き、僕の方を向いた。

僕は、それを見ると、対物ライフルを異空間倉庫に戻し、指揮特化型オクトパスの全ての腕に機関銃を持たせ、カメハメハ大王に放った。


カメハメハ大王は、それを見ると鎧に付いたマントを掴み、それを盾の様にして、身を守り僕に向かって来た。


僕は、カメハメハ大王がルムから離れたのを確認すると、機関銃を異空間倉庫に戻し、最近作った先端にエメラルドの様な色と形をした宝石を嵌め込み、それに金色の蛸が纏わり付く様な装飾が施された僕の1.5m程の大きさの金色の王笏を取り出した。


そして、それをカメハメハ大王に向けると僕は、魔法を唱えた。


「聴けッ!

光が欲しいと

陽光仰ぎ

落ちては、沈む憧れは、

儚く俯き動きを止める

憧れが暮れる時アイス・ブルーム


僕が、そう言うと氷の向日葵がカメハメハ大王に向かって伸び、カメハメハ大王の足に纏わり付いた。


カメハメハ大王は、それを鎧手に持った両刃の短剣で切り裂いたが、氷の向日葵はどんどん伸びてカメハメハ大王の周りを覆っていく。


「なんだこれは

心做しか体が重くなるような...」


カメハメハ大王が、そう言いながら氷の向日葵を必死で切り落としていくのを見て、僕は、さらに魔法を唱える。


「聴けッ!

早春に吹く冷たい風は、

見放されたと過ぎ去り嘆き、

これが真実と受け止める

強く根付いた

小さな君は

アドニスの鮮血で花開く

誤ちの想いよ

今こそ

待ち焦がれた抱擁を

たとえ残酷な運命の悪戯だとしてもアイス・ブルーム シューン・ライン・デ・リーベ


僕が、そう言うとカメハメハ大王の体を氷のアネモネが、覆った。


「なんだこれは!

体が、動かな...」


氷のアネモネに完全に覆われたカメハメハ大王は、さらに氷の向日葵に巻き付かれ完全に動きを止めた。


僕は、それを見ると急いでルムに駆け寄った。


「大丈夫か!」


僕は、そう言いながらルムに突き刺さった槍を引き抜こうと王笏で槍を叩いた。


王笏で槍を叩くと王笏のギミックが発動し、量子コンピューターが、叩いた音から槍の周波数を割り出した。

周波数が割り出されると、僕は、王笏を槍に向けて、王笏から超音波を放った。


超音波と槍が共振し、槍がバラバラに砕けると、王笏を手から離してルムを抱き起こした。

王笏は、搭載されてギミックにより、地面に落ちず、宙に浮いて僕が離した場所に留まった。


ルムは、抱き起こされると正気に戻り僕の顔を見ると、顔を赤らめて


「ご、ご主人様!?

ルムは、何を!?

はっ!

彼奴は、どうなりましたか?」


と慌てて敵を探した。

僕は、それを見ると微笑んで


「良いからここで休んでいてくれ

君がやられた借りは、僕が返すよ」


と言うと、ルムは立ち上がり慌てて


「いえ!

いけません

彼奴は、危険です

ご主人様を守らないと!」


とルムが、言うと

僕は、それに対し、少し強い口調で


「僕の言う事が聞けないのか?」


とルムに言い放った。

ルムは、それを聞くと驚き、そして微笑んで


「ご主人様は、優しんですね

わかりました

ルムは、ご主人様を信じます」


と僕を、抱き締めた。

僕は、その抱擁を受けるとルムの頭を撫でた。

そして、ルムが僕を離し


「では、行ってらっしゃいませ

ご主人様」


と言うと、僕は王笏を掴んで


「ああ、行ってくるよ」


とだけ言い、氷漬けのカメハメハ大王に近づいた。


僕が、近づくと、氷の内側から黄金の粒子が放出され氷を砕くとカメハメハ大王が、黄金の粒子で出来た二本の棒を持って現れた。


「ははは、驚いたよ

君は、魔法使いか?」


と僕を嘲笑する様にカメハメハ大王が、言うと


「いいや、僕は煉獄の神だ」


と言って王笏から超音波を出してカメハメハ大王を攻撃した。


「うあああああッ!」


超音波でカメハメハ大王が、棒を手放し耳を塞ぐ動作をすると、僕は、魔法を発動する。


「聴けッ!

歴史に名高い兵士達

語り継がれる英雄譚

それに付随する数多の名工の妙技を此処に

鎚ふる匠は永遠にヴォイスン・モッテイ


僕が、魔法を唱えると王笏と左手の前に、火花を散らす黒い魔法陣が現れ、それから飛び出した電流の様な白い光に王笏が打たれると王笏が金と緑色をした槍に変わり、左手の前の魔法陣からは、槍と同じ色の丸盾が現れた。


僕は、武器を力強く持って槍でカメハメハ大王の腹を突いた。


カメハメハ大王は、王笏が槍に変わる事で消えた超音波から解放されると、マントから黄金の粒子を出し、長槍を形成すると僕の槍を上から叩いて、反らせると、足で強く地面を蹴り、距離を詰めると、僕にタックルを食らわせた。

僕は、それを盾で防いだが、カメハメハ大王は、即座に体勢を立て直して、盾に守られていない僕の足を思い切り蹴りつけた。


「うあッ!」


カメハメハ大王の剛力で蹴り付けられた足は、まるで細い棒の様に折れて吹き飛び、僕は、触手を使ってバランスを取った。


だが、僕が、バランスを一瞬崩した隙にカメハメハ大王は、槍を捨て、黄金の粒子でメリケンサックを形成すると、僕の顔面を物凄い勢いで殴り続けた。


僕は、それに耐えきれずに、触手を使って大きく後ろに飛んで距離を取ると、槍をカメハメハ大王に向かって投げ付けた。


カメハメハ大王は、投げつけられた槍を最低限の動きで避けようとしたが、僕の投げた槍の後ろに搭載されたブースターで槍が加速し予想よりも速く槍が飛んで来た為、コンッ!と言う音がカメハメハ大王の鎧に槍が当たって響いた。


カメハメハ大王は、それに驚くと微笑んで


「驚いたよ

君は、女の子に守って貰ってる割には中々やるじゃないか」


と僕を馬鹿にした。

だが、僕はそれに


「お褒めに預かり光栄ですよ

大王様

ですが、こちらの客人のコートも取り行かぬ

無礼なメイドをお許しください

では、改めて上着を拝借」


と丁寧な物腰で言った。

カメハメハ大王は、それに困惑し


「何を言っている?」


と首を傾げた。

すると、僕はそれをほくそ笑み


「こういう事だよ!」


と槍のギミックを発動した。

鎧を叩いて割り出した鎧の周波数の超音波を槍から放って、共振現象でカメハメハ大王の鎧を砕いた。


「なに!?」


カメハメハ大王が、困惑すると

僕は、槍に向かって手を後ろに降る動作をし、槍を自動で戻って来させると


「悪いな

正攻法じゃ敵わないんだ

搦手で行かせて貰うよ」


僕は、そう言うと魔法を唱える


「聴けッ!

生を叫ぶ厳格な棘、

己に触れるなと主張する妖艶な復讐は、

群衆を遠ざけ、

独立を高らかに嘆く

これで満足だと、

諦めを持って

真の生を知れ

吝嗇な愚者は絶えず伸びる俗物を嗤うライツェント・ヘスリヒ・アインザーム


僕が、魔法を唱えると僕の胸に炎の薊が現れ、煌々と輝く紫色の炎で体を覆った。


溢れ出す熱波にカメハメハ大王は、もがき苦しむ。


「かはッ!

あああああああッ!」


僕は、それを見ると槍でカメハメハ大王の足を貫いてカメハメハ大王を倒すと、盾を捨て、横たわったカメハメハ大王を両手で槍を持って何度も何度も突き刺した。


「ぐああああッ!

あああッ!

あああああッ!」


カメハメハ大王は、地獄の苦しみに悶え、絶叫した。

僕は、それを見て何度も何度も再び槍を突き刺す。


「ふはははははッ!

死ねッ!

死ねッ!

死ねッ!」


カメハメハ大王の体が、どんどんボロボロになっていくのを笑いながら何度も何度も槍を突き刺す。


「許さないッ!

貴様は、絶対に許さない!

ここで、死ねッ!」


僕が、そう言いながら高笑いしグチャグチャのカメハメハ大王を踏みつけた。


気付くとカメハメハ大王は、鎧の最後の一片、肩から付けていたマントを強く握り締めながら息絶えていた。


僕は、それを見ると強く握っていた腕に槍を突き刺し、死体からマントを剥ぎ取ると、戦利品としてそれを身につけて、再び高笑いした。


「これが、そんなに大事か!

なら、僕が奪ってやる

お前は、それ程僕を怒らせたんだ!」


僕が、そう言っていると

武蔵とハヌが戦っていた方が静かになっているのに気付く。

見ると、ハヌの体の残骸が辺りに散らばっていて、武蔵の手には、ハヌの首があった。

武蔵は、それを投げ捨ててハヌの血と肉が散らばる地面を踏み付けて僕の方を見ると、


「貴様の下僕は中々やるな

だが、儂には敵わんぞ!」


と僕を挑発して来た。

僕は、ハヌの亡骸を踏みつける武蔵を見ると、さらに、怒り、慟哭を放つ。


「ああああああああッ!

お前もか!

お前も僕から大切な物を奪うんだな!

なら、お前も死ねッ!」


と僕は、頭が真っ白になり、武蔵に向かって魔法を唱える。


「聴けッ!

厳格な意思の天才は

己の誠実さの証明に

煌々と光る刀剣を

眼前の敵に突き刺して

高らかに叫ぶは

ただ一つ

忍耐強く待ち望んだ

無謬の勝利ッ!

鬨を挙げるは、真なる英傑フランメ・ブルーメ ジーク・ハイルッ!」


僕が、魔法を唱えると戦利品のマントから黄金の粒子が飛び出し、槍を覆った。

僕は、その槍を力の限り握り締め、武蔵に向けると

今までに見た事が無い程巨大で美しい炎のグラジオラスの花が、剣の様に武蔵を穿いた。

真紅と黄金の輝きを放つその花は、見るものを魅了し、呆気に取られた武蔵を炎が包んだ。

武蔵は、業火の中で体を焼かれながら、必死に叫ぶ。


「この鎧と共に主を守れ

信仰の騎士と魔女の愛ベイヤードッ!」


すると、武蔵の鎧から魔法陣が現れ、武蔵を守った。

炎が治まると武蔵は無傷の状態で僕に向かって走った。


僕は、それに対して同じように走り、槍を持って武蔵に迫る。


武蔵はそれに応じ、刀を抜くと、両者のマントと鎧から黄金の粒子が飛び出し、二人を包むと、二人の武器の刃がぶつかるのを開戦の合図とし、両者勢い良く武器を振るった。


武器の扱いになると僕は、かなり格下になり、押され始める


「どうした!

そんな物か!」


武蔵が、勢い良く、切り付けるのを必死で槍で弾くが一撃一撃が重すぎて槍を持つのがやっとだ。


智慧ジュウホエ、もう解析は終わったか?


僕が、脳内のAIにそう尋ねると


「ちょっと待って下さいね〜

あ、出来ました!」


なら、早くしろ!


了解ヤオミンバエ天帝シャンティー

戦術解析プログラム発動しました!」


智慧ジュウホエが、そう言うと僕の体が勝手に動き武蔵の一歩先を行く動きで武蔵を押し返した。


「やるな!

これなら儂も本気が出せるぞ!」


武蔵がそう言うと、武蔵はもう一振の刀を抜いて僕の動きを凌駕した。


おい、ダメじゃないか!

何とかしろ!


押し返されて僕が、AIを怒ると


「あわわ!

すみません天帝シャンティー

もう少し、耐えてください!」


智慧ジュウホエが、申し訳無さそうにそう言うと


なんだと!?

くそ、早くしろ!


と僕は、心の中で叫ぶと

武蔵の猛攻に槍が折れ、僕の腕が切り裂かれた。


「ぐあああああああッ!」


僕が、槍が折れ、腕が切れた事に驚くと武蔵は、僕の腹を蹴って僕を倒し、仰向けの僕の腹を思い切り踏み付けて、僕の首元に長い方の刀を向けた。


「勝負あったな

貴様には、友を殺されたが、それはお互い様だ

許さぬが、不問にしよう

さあ、最後の言葉を言え!」


と武蔵が、僕に叫ぶと


智慧ジュウホエ、まだか!


と僕は、AIに叫んだ。


「待ってください!

天帝シャンティーが腕を落とされて武器を失ったので再演算しています」


と忙しそうに言うと


僕のせいだって言うのか!

じゃあ、お前やってみろ!


と僕が、脳内でAIに怒鳴っていると


「最後は、黙するか

それもまた、良い散り方よな

良いだろう

では、死ねい!」


武蔵が、そう言って刀を振り上げると


おい、早く!


智慧ジュウホエを再び怒鳴る


「もう、そもそも天帝シャンティーが、先に足を無くして無かったら、もっと早く出来たんです!

片腕、片足で宮本武蔵に勝てると思う方がおかしいんですよ!」


智慧ジュウホエが、怒鳴り返して来た。


ええい!

もう良い!

自分で何とかする!


と僕が、怒鳴ると


「それが出来るなら最初からそうしてください!」


智慧ジュウホエが、忙しそうにそう怒鳴った。


見てろよ

あんな奴楽勝だ


超高速で演算する量子コンピューターの中で智慧ジュウホエと喧嘩している間に、武蔵の刀が目前に迫って来ていた。


僕は、痛覚の回路をoffにして触手を使って体を起こし、首に刀が突き刺さったまま立ち上がり、その勢いで武蔵のバランスを崩した。


「ぬおッ!」


武蔵が、驚いて離れると

僕は、魔法を唱えようとしたが、


おい、喋れないぞ

なんでだ!


天帝シャンティーが、発声装置がある喉に刀を突き刺したからですよ!

いい加減その体捨ててください!」


智慧ジュウホエが、怒鳴ると


ふざけんな!

この体をカスタムするのにどれだけ時間がかかったと思ってるんだ!

予備なんかもう無い!


と僕が、怒鳴ると


「では、他の体を使ってください!」


智慧ジュウホエが言うと


他の体は君に動かさせる為に作ったから、僕が動きやすい様に出来てない!


と僕が、怒鳴ると


「もう良いです!

私が行きます!

徒手格闘特化型モンキーを出してください!」


智慧ジュウホエが言うと


何で徒手格闘特化型モンキーなんだ

相手は、刀を二本も持ってるんだぞ!


と僕が、怒鳴ると


「良いから早く!」


智慧ジュウホエが、怒鳴った。


ったく

なんで此奴AIの癖に僕に逆らうんだ

もう言い、勝手にしろ!


僕が、そう言って異空間倉庫から徒手格闘特化型モンキーを取り出すと智慧ジュウホエが、それを操作して武蔵の元に向かった。


武蔵は、横から迫る新しい敵に警戒すると、智慧ジュウホエは、即座に、武蔵の顔面を殴りつけた。


「うああああッ!」


武蔵は、それに怯み兜の一部が砕ける。

見ると、徒手格闘特化型モンキーの体は、黄金の粒子で覆われていた。


「貴方のせいで私は、無理難題を押し付けられるんですよ!覚悟してください!」


そう言うと、智慧ジュウホエは、怯んだ武蔵の左手を掴み曲げると武蔵に短い方の刀を落とさせた。


「ぐああああッ!

なんだ、お前は!?」


武蔵が、突然出てきた強敵に驚いて距離を取ろうとするが、智慧ジュウホエは、左手を掴んだまま離さずに、その手を引いて武蔵を引き寄せると、武蔵の首を掴んで持ち上げた。


「あがッ!」


武蔵の苦しむ様には、目もくれずに、智慧ジュウホエは、そのまま上空に武蔵を放り投げた。

そして、落下する武蔵に地上から高速でラッシュを繰り出す。


「この!この!この!この!」


智慧ジュウホエのラッシュで鎧が徐々に砕かれていき、最後に


「トドメです!」


智慧ジュウホエが言い、武蔵の腹に発勁を繰り出すとそのまま落下する武蔵を思い切り蹴り飛ばした。


「がはッ!」


武蔵は、為す術も無く、白目を向いて吹き飛んで行った。


智慧ジュウホエは、それを見ると、パンパンッと手を叩き、


「終わりましたよ」


と仕事を済ませた女性社員の様に冷たく僕に言った。


ああ、ありがとう...


僕は、それを見て唖然として、体にナノマシンを吹きかけ修復した。

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