第3話 軋む理不尽、裂ける慟哭

男が、青龍刀を振りかざし

僕の首を落とそうとしたが


ガンッ!


という音がして弾かれる。


僕が、まだ悶えていると


天帝シャンティー、一時撤退しましょう」


智慧ジュウホエが、慌てて話しかける。


「クソッ!

痛ェえええええええ!」


僕は、まだ悶えている。


「しょうがないですね

失礼します!」


そう言って、智慧ジュウホエは鎧のブースターを動かして、僕の体を運び、

ビルの屋上から、瓦礫の山に降りた。


「逃がすかァッ!」


男が、瞬間移動で移動して追ってくると

智慧ジュウホエが、ブースターを操作して、

男を蹴り飛ばした。


「はあ、はあ、良くやった!

そのまま着陸しろ!」


僕は、そう言いながら

能力でスモークグレネードを複数作り、

空中で破裂させる。


「おい!

卑怯だぞ!」


後ろで、男が叫んでいるが

そんなのは無視だ。


智慧ジュウホエが、瓦礫の影に着陸し

一時身を隠すと


「危なかった

しかし、

いきなり敵と出くわすなんて

しかも、アイツ強いぞ!」


僕は、周りに光学迷彩を施した防音の天幕を作り、

そこに避難して

中にロボットアームを複数作ると、

切れた腕に麻酔をうち

切断面をガスバーナーで焼いて止血して

地団駄を踏みながら文句を言った。


「急な事で、対応が追いつかず

申し訳ありません!」


智慧ジュウホエが、必死で頭を下げるが


「いや、君は最善を尽くしてくれた

僕が間抜けだっただけだ」


僕が、自らのミスを認め智慧ジュウホエをなだめた。


「そんな事より、傷だ

あんなのと戦っていたら

出血多量で死んでしまうぞ!」


「そうですね、

新しい強力な武装を早急に作る事をオススメします」


「武装の問題じゃない!

次は、同じ方法で首を切られたり

心臓を貫かれたりしたら終わりだ!

人である以上、恐らくアイツには敵わない!」


僕が、そうやってまた

地団駄を踏む。


待てよ?

人である以上?


「なあ、智慧ジュウホエ

君の本体である量子コンピューターは、どこにあるんだ?

破壊されたりしないのか?」


僕が、そう聞くと


「ご安心ください!

天帝シャンティーの要望通り、

月の内側に作られているので

月ごと破壊しなければ、破壊不可能です!」


智慧ジュウホエは、誇らしげにそう言った。


「よし、完璧だ!

そうとわかれば、こんな物とはおさらばだ!」


僕は、鎧を脱ぎ捨てた。


天帝シャンティー?」


智慧ジュウホエが、不思議そうに僕を見つめると


智慧ジュウホエ、一つになろう!」


僕が、そう言うと

智慧ジュウホエは、赤面して


「い、いけません天帝シャンティー

こんな時に

それに、私には体がありませんし...

あっ天帝シャンティーに作って頂けたら解決ですね!」


嬉しそうにそう言うと


「流石だ!

その通り!」


「で、でわ

その不束者ですが、よろしくお願いしま...」


智慧ジュウホエが、恥じらいながら

そう言いかけると


「今すぐ、

僕の脳のデータを量子コンピューターに移植してくれ!」


遮るように僕がそう言った。


「え?...

ああ!

そういう事ですね!

私、てっきり...」


智慧ジュウホエが、先程までまでよりも

顔を赤くしながら作業に入った。


「移植完了です!

これで、天帝シャンティーは、不滅ですね!」


「ああ!

完璧だ!」


僕は、そう言って

新しいアンドロイドの体を生成した。


そして、そこに意識を移した。


僕は、意識が移ると

まずは、手を開いたり閉じたりして、

感覚を確かめ


「良いぞ!

成功だ!」


そして、僕はなんでも作る能力の

なんでもがどこまでか試した。


僕は、異空間に広大に広がる倉庫を想像し

そこに開くゲートを思い浮かべた。


目の前に、ゲートが現れ、

中に入ると想像通りの広大な空間が広がっていた。


「良し、良し、良し!」


僕は、そこに今動かしている物と同じ

アンドロイドの体を取り敢えず一万体作った。


さらに、思いつく限りの武器と道具も一緒に作った。


一頻り作り終わるとゲートから出て、

想像した物が即座に出てくる様に設定した。


そして、僕は血が乾いた様な色の

耐熱、耐電、防弾、防刃、撥水性の

ロングコートを作り、翻す様に着て、

顔を天帝と赤い文字で書かれた

キョンシーの札の様な物をコートと同じ耐性の紙で作り

顔を覆った後、

異空間倉庫から、

腕につけるクロスボウと、

腰につける青龍刀、

足につけるピックを二つずつ取り出し、装備して、

同じく、異空間倉庫から

方天画戟を取り出して手に持つと、

天幕から出て、飛び上がった。


すると、先程のビルの屋上で

ご丁寧に待っていた男に叫ぶ。


「待たせたな!

さあ、続きをやろうか!」


そう言って、僕は

猛スピードでビルの屋上に飛んで

方天画戟で男を突く。


男は、それを

僕の背後に転移して避けると


「さっきの奴か?

大分、見た目が変わったな

だが、良いね

そう来なくっちゃな!

正直、戻ってこないと思ってたぜ!」


男は、笑いながら

僕の腕を先程と同じ方法で切り落とした。


だが、今度は出血しないので

男は、驚いた。


「驚いたか?

僕は、もう人間じゃ無いぞッ!」


そう言って、僕は後ろを蹴りあげて

男を追い払うと

男は、切れた僕の腕を拾って転移した。


男が、出てくる先で

僕の手から回収したクロスボウで僕を撃つが、

コートのフードに当たり体まで至らなかった。


僕が、矢を気にせず

男の方に踏み込んで

方天画戟で胴体を突くと


「ぐあッ!」


男は、一瞬反応が遅れ

先端が少し刺さったが

ほぼ無傷だった。


「あっぶねえ!

やるな!

お前の事結構、気に入ったぜ

俺の事はグラスホッパーと呼んでくれ

能力とも合うし

カッコイイだろ?」


男が、そう言うと


「じゃあ、僕は天帝シャンティー...

いや、それだとあんまり能力に関わらないな

僕は...クリエイターだ!」


僕が、そう返すと


「OK

クリエイターだな

覚えたぜ

じゃあ、続きにしようかァ!」


そう言って、男が

クロスボウを放った。


僕は、方天画戟でそれを弾くと

横から這い出でるように、

グラスホッパーが現れ、

転移で方天画戟を奪われる。


「長物は、貰ったぜ!」


そう言って、

グラスホッパーは、

僕の上空に転移して

方天画戟を僕に突き刺そうとした。


僕は、出てきた瞬間

咄嗟に腕を伸ばし

槍を避けた。


そして、

掌に刺さった方天画戟ごと、

手を横に動かし

腕をパージして

地面に落とし

グラスホッパーの顔を思いっきり

蹴り飛ばした。


「うがァッ!」


グラスホッパーは、咄嗟に転移したが

蹴りは直撃だった。


僕は、その隙に同じ装備の新しい体を出して

それに意識を切り替えた。


転移した先で、

グラスホッパーは、顔を抑え

鼻と口から血を垂らしながら

鋭い目付きでこちらを睨んだ。


僕は、そこに

クロスボウを撃ち込んだ後、

青龍刀で切りかかる

グラスホッパーは矢を避け、

方天画戟で応戦する。


僕が、勢い良く右手に持った青龍刀をグラスホッパーに突き刺そうとすると、グラスホッパーは、方天画戟でそれを突き弾いてから、僕の腹に強烈な突きを打ち込んで来た。僕は、それをアンドロイドの体の強靭な腕力を使って左手で槍を掴み、此方に引き寄せてグラスホッパーの右肩を青龍刀で斬りつけた。グラスホッパーは、それに怯まずに、僕の膝を思い切り蹴って体勢を崩すと、方天画戟を離し、馬乗りになって僕の顔面を殴り付けた。僕は、両手の武器を離すと、手を地面に着き思い切り地面を押して一気に立ち上がると、グラスホッパーは、転げ落ちるかの様に僕の体から落下した。僕は、それをすかさず踏み付けようとすると、グラスホッパーは、即座に転移し猫の様な構えで地面に手を着いて急いで青龍刀を拾い上げると、そのまま地面を蹴った。

僕は、それに応戦しようと方天画戟に向かって右手を伸ばすが、地面を蹴ったグラスホッパーが、その衝撃事転移して、僕の右手を鋭く斬りつけた。コートの防刃性能で無傷だった僕は、カマイタチの様に飛び去ったグラスホッパーの右足を超人的な反射神経を用いて掴むと、コマの様に一回転して、グラスホッパーに乗っていた衝撃を中和すると、そのまま高く上空に放り投げた。

グラスホッパーが、勢い良く飛んで行くのを見ると、僕は、方天画戟を拾い上げて、上空のグラスホッパーに全力で投擲した。

グラスホッパーは、振り上げられた体にぶつかる大気のエネルギーで体が潰れない様に、そのエネルギーを無意識に転移させて衝撃を防ぎながら、冷静に投げられた方天画戟を見つめ、頃合を見計らって方天画戟の柄の近くに転移して掴むと、そのまま逆さまに転移して、僕の頭上から方天画戟を突き刺そうとした。

僕は、それに反応仕切れず体を串刺しにされた。

グラスホッパーは、地面に落下した時に来る衝撃を全て方天画戟に無意識の内に転移させ、方天画戟は信じられない程の威力で、グラスホッパーの手から離れ僕の体を貫通して、ビルの中へ突き進んで行った。

僕を、倒した思い安心したグラスホッパーに対し、僕は新しい体と方天画戟を取り出して、それを使いグラスホッパーを後ろから突き刺そうと走った。グラスホッパーは、足音に気づくと僕の顔面に向かって青龍刀を投げ付けてきた。僕は、全力で走っていた為にそれを避ける事が出来ず、いたが顔に貼ってある札のお陰で突き刺さる事は無く、青龍刀は僕の顔にぶつかって、地面に落下した。だが、人間の頃の名残で飛んで来る物に意識を集中させていた僕は、グラスホッパーがスライディングして来るのを気づかずに走り続け勢い良くバランスを崩して地面に顔から落下した。

グラスホッパーは、僕の下で方天画戟に手を伸ばし触れた瞬間、転移して、僕から離れた。僕は、転びながら慌てて超人的な反射神経を用い、落下した青龍刀を拾える位置に体を傾けて転び、衝撃が逃げ切るまで転がった。すると、そこへグラスホッパーが、方天画戟で僕を上から突き刺そうと転移してきたが、僕は、転がりながら、方天画戟の刃を青龍刀で弾き、体勢を立て直すとお互いに武器の刃を折らんばかりに暫く、鎬を削りあった。


二人とも、極度の集中の中で口も聞けずにお互いを殺そうと必死になっていたが、暫く斬りあった後、

グラスホッパーは、緊張が切れたのか、それとも、痩せ我慢をするためか、息を切らしながら

こちらに語り掛けてくる。


「はあ、はあ、やるな

だが、俺は絶対に負けねえ

絶対天国に言って幸福になって見せる

それが、俺が出来る唯一の己の正しさの証明だからなァ!」


そう言って、一際強い突きを突く。


僕が、それを避けると

グラスホッパーは、それを見越して

背後に転移し、

僕の足を払った。

そして、

僕の腹を踏み付けて、

顔の前に方天画戟を突きつけて


「終わりだ

もう、お前に勝ち目はねえぞ!」


僕は、それを見てほくそ笑む。


「何がおかしいッ!」


「お前、バカか?

さっき僕が体を変えたの見たろ?

この体の動きを止めようが、

腕を切ろうが、

胸を突こうが、

首を落とそうが、

関係ねえんだよ!

智慧ジュウホエ、やれ!」


了解ヤオミンバエ天帝シャンティー!」


僕の合図で智慧ジュウホエが、

異空間倉庫から僕と同じ装備の体を取り出し

それを動かして、

後ろからグラスホッパーを抱きしめ、

そのままバク転宙返りして、

僕から、話すと

僕は、立ち上がり

手に持った青龍刀で

グラスホッパーの胸を貫いた。


「うああああああッ!」


「これで、終わりは

お前の方だったな

マヌケ野郎ッ!」


僕は、青龍刀を引き抜いて

それを捨て

右腕でグラスホッパーの首を掴み

ビルの屋上から思いっきり投げ捨てた。


もう、死んだと思ったが

違和感があった。

彼は、胸を貫かれたと言うのに

血が出ていない!?


ビルから落としたグラスホッパーを

見ようと下を覗くが

既にグラスホッパーは、いなかった。


僕が、投げた事を悔やんでいると

突如、僕の足から瓦礫が飛び出し、

足が千切れた。


バランスを崩した僕の元に

グラスホッパーが現れ、こう言った。


「驚いたか?

俺は、純粋に自分の血液のみを体に転移させて

出血を回避し、異常なく循環させることが出来る

俺は生前、鳶職人でな

自分の使うもんの使い方くらい

ちゃんと覚えろって親方に良く言われてたぜ

だから、能力を貰った時も

色々、試行錯誤した

こんな風にキチンと使いこなせる様に!」


そう言って、グラスホッパーは、

僕をビルの屋上に突き刺さるように転移させ

動けないように知た。


「まあ、俺にそれを教えてくれた親方は

病んで寝たきりだがな

お前の様に変わり身を作って

難を逃れようとするクズの為に

親方は、信用を失った!

俺達の親会社のミスの責任を押し付けられたんだ!

馬鹿だって決めつけずに、

仕事をしっかり教えてくれた

俺の唯一の、|本当の先生が

目の前で理不尽に全てを失った悔しさが、

努力してもいつかは俺もこうなるんだと悟る絶望が、

お前にわかるかッ!

わかんねえよなァ!

だったら、てめえも理不尽を味わえッ!

そして、俺の天国への足がかりとなり、

俺の正しさの糧となれッ!」


そうグラスホッパーが叫ぶと

彼の姿が消え、

僕の頭上に、ビルの残骸が広がった。

ビルに突き刺さったまま、

ビルごと上空に逆さまに転移させられた。

僕は、強いGに襲われ

為す術も無く落下した。


「勝った!勝ったぞ!

俺は、自分一人の能力で

困難に打ち勝った!

これでわかった

俺は、なんだって出来る

誰にだって勝てる!

俺は、能力で他を圧倒出来る強い人間だッ!

それが、今、証明された!

俺は、正しい!

俺は、正当に生きていける人間なんだァッ!」


ビルの落下を見て

グラスホッパーは、喜び叫ぶ。


「お前、本当に馬鹿だな

能力で他を圧倒できる強い人間?

そんな事は、

生前でもやろうと思えば出来たんじゃないか?」


僕が、彼の後ろから現れそう言う。


「何ッ!?

お前、なんで...」


グラスホッパーが、驚いて振り向くと、

僕は、グラスホッパーの首を思い切り

両手で閉めてこう言った。


「そんな事は今、どうでもいい

聞け

お前は生前、

貧困に苦しんだ訳でも、

両親に愛されなかった訳でも無いんだろ?

ただ、なんとなく

楽な方へ行こうとして

自分で未来を潰した

愚か者の一人だろう?

僕は、違うぞッ!

僕は、親に愛されなかった

僕の親は、僕に何も与えてくれなかった

僕は、子供の時分で既に

孤独で貧しかったんだ!

その理不尽はお前の物よりも

抗いようが無いッ!

努力なんて貧困の前では無意味だからだッ!

僕は、国が一括で子供を平等に育てない社会を

ただ、産まれただけで生きる事を義務付け

一方的に国民と言う名の権利で出来た鎖で縛る

クソッタレな社会を許せずに

今まで、苦悩に耐えて生きてきたんだッ!

希望を自ら溝に捨てたクズが

僕に理不尽を語るなッ!

自分の愚かさを噛み締めながら、

後悔と言う汚泥に沈み朽ち果てろッ!」


僕が、そう言い切る頃には、

僕は夢中で彼の首を握っていたので、

骨が砕けていた。


僕の手の中で眠った

彼を道に捨て、

僕は人を殺したと言う事実を

反芻しながら、

行き場もなく歩き出した。

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