荒野のその先の朝日

朝凪 凜

第1話

 昔、この世界は非常に発展した技術・文化があった。

 戦争により、核が使用され、あらゆる電子機器が破壊された。大都市圏の人口も殆どいなくなり、残ったのは発展途上国の僅かな人々。多くの技術は廃れ、文化が失われた。

 それから100年余りが経った。


 土埃が舞う中、男が町から出て行った。

「100キロヤード離れた町の依頼とは思ってもみなかったな」

 この男は今、待ちから依頼を受けてきたところだ。いわゆる賞金稼ぎという仕事だ。

 人口が少なく、小さな町が点在するこの国では都市間移動というものが殆どない。大型列車の定期便が月に一回ある程度だった。

 その男は、ガソリンバイクと呼ばれる二輪車に乗って移動していた。

 周囲には何も無く、ただ広大な荒野が広がっていた。

 暫くすると先ほどの町からもう一台バイクが出発した。


「勝手に出て行ったと思ったら何かあった?」

 金髪ロングのウェーブがかった女が話しかける。

「依頼だ依頼。こっから南東の町にいるっていう人捜しだ。着いたら説明するから、興味があるなら着いてこい」

「じゃあそうするわ」

 女の方も賞金稼ぎだ。特に当てもなく旅をしていたところ、どんな縁だったかはどちらも覚えていないが、こうして連んでいることが多い。


 2時間ほど走り続けたところでようやく町を見つけた。

 道路も標識も無い中、どうやって見つけるのかというと、都市間列車の轍が道路の役割をしているのだ。殆ど風化して探しづらいが、旅をし慣れている二人にとっては十分な目印だった。

 町に入るとよくある風景だった。

 アーチ状の石門があり、町全体を囲うように低い石垣が並んでいる。町の中はやはり石造りの建物がぽつぽつ。門から反対の門まで石畳が申し訳程度に並べられていた。それ以外の地面は全て土だ。100人前後の集落という感じだろう。

「とりあえず飯だ。話はそこでな」

 そう言って二人はバイクを店の前に止めてずかずかと入っていく。

「昼飯いいかい? おすすめを二人分」

 建物に入るやいなや注文をして、手近のテーブルに陣取る。

「さて、ということで依頼なんだが、詳しいことは俺も分からん。内容は

『ある子供を探して欲しい。エリーという少年だが、手が付けられない凶暴なので気をつけて欲しい。ただし少年は傷を付けずにここに連れてきて欲しい。傷を付けた場合、支払いは一切行わない』

 だって」

 メモの紙を読み上げ終わって、女の方をみやる。

「凶暴ねぇ、どうせそこらのヤンチャな子なんでしょ。簡単じゃない。いくらだったの?」

 にんまりと笑みを浮かべて、もったい付けたように言う。

「1000ディールだ」

「うそ! ただの人捜しで?」

 昼飯一回がおよそ5ディールなので、破格の金額である。

「そう思うだろ? どうせまた厄介なことになるだろうと思って、お前が着いてくるのを待ってたんだ」

「あー、そういうこと。とりあえず食べたら探しましょ」

 ちょうど出てきた料理を口に運ぶ。



 その後、町を廻って聞き込みをするもまるで情報が無かった。

「さっきの店の主人も何か分かったような顔してたと思うんだけど、どう思う?」

「明らかに何か隠してる感じがするな。こういうときはなかなか口の割らない大人じゃなく、そこらのガキに訊くのが手っ取り早い」

 そう言って路地裏で遊んでいた子供達に訊ねること3度。ようやく分かった。


「一応分かったこととしては、この町の北の外れにテント暮らしをしているのがいるらしい。前にそんな名前だったって言ってたが、本当かどうか分からん」

「テント暮らしねぇ。まあとりあえず金蔓を捕まえましょ」


 かなり町の外れの方まで歩いてきたら、目の前に屋敷があった。

「テントってこれか?」

 屋敷の敷地内にテントが張られていた。一人用の小さいものだ。

 男はやはりそのまま屋敷の門をくぐると

「不審者よ! 追い払って!」

 十歳くらいの女の子が内門から現れ、刺客を放った。

「なんだこれ、犬!?」

「どうやらかなり訓練された番犬のようね。しかもかなり大きい」

 女の子の身長と同じくらいの犬が数匹駆けてくる。



 二人はボロボロになりながらもその犬を撃退した。

「げ、なんなのこいつら。セバス!」

 内門の中から白手袋をしてスーツを着込んだ黒髪で長躯の男が出てくる。

「お嬢様、今暫くお待ちください」

 そう言うと二人めがけて武器を放った。

「まてまてまて、不審者じゃ無い。エリーという子を探して欲しいと頼まれてるだけだ!」

 するとセバスと呼ばれた男はすんでの所で攻撃を止め、

「エリーお嬢様になんのご用でしょうか」

 話が出来る体勢になったので男は依頼人とその内容について説明した。

「なんだ。カレンのことね。そんな願いは聞けないわ」

「そうは言われても、こっちは依頼なんでね、はいそうですかと引き下がるわけには――」

「じゃあその報酬の倍払うからこの話は無かったことに」

『はい!引き下がりましょう』

 この世は金が全てだということを体現した二人。

「そのついでに、私もあんた達二人についていくわ。二人とも賞金稼ぎなんでしょ?」

 そう笑った女の子はとても楽しそうにこの先の出来事に思いをはせていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

荒野のその先の朝日 朝凪 凜 @rin7n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ