第117話 【Side:ブレイブ】蟻地獄スパイラル
「うわああああああーーーっ!!」
俺は走った!がむしゃらに走った!!
なんて事をしたんだ俺はぁっ!
悔やんでも悔やみきれない。元を正せば酒なんか飲んだからだ!悪魔の誘惑になんか乗らずにファナを連れて帰れば良かったんだ。全ては俺の心の弱さのせいだ!そのせいでファナを危険な目に合わせてしまった。そして俺自身、呪いと言える悪魔との契約を結び、そして今アリスを巻き込もうとしている。
レオナールのことだ。俺がアリスを連れて行かなかったら躊躇なくファナを殺すだろう。そして俺の命も奪うだろう。
いや、俺はいい。自業自得だから。せめてファナだけでも助けなきゃ!アリスとパチャムに助けを求めるしか無い。
とにかく俺はアリスとパチャムがいる宿屋に走った!
◇◇◇
「アリスッ!」
俺はノックもせずにアリスの部屋に入る!
ベッドに横になるアリス。その傍らにウッディパペットが佇む。
「パチャムもいたのか!?丁度いい。助けてくれー!」
振り向くパチャムは俺に助けを求めた。
「あ、あ……ブレイブ。助けてよ〜、この着ぐるみ脱げないんだぁ〜。アリスも起きないんだぁ〜。身体中が痛いんだぁ〜。ブレイブ、脱がしてよぉ〜。」
パチャムの奴、何を言ってるんだ!?助けて欲しいのは俺の方なんだよ!脱がせて欲しいだ?この忙しい時に〜!!
「まったく、また太ったんじゃないか?パチャム。」
俺は力を込めて着ぐるみを上に引き上げる。
「痛い、痛いいいいぃひぃ〜〜〜!」
奇妙な悲鳴を上げるパチャム。
どうせ何かが引っかかっているだけだろうと思っていたが、パチャムの悲痛な叫びが尋常ではないので、俺は慌てて継ぎ目から手を入れてみると、中は柔らかな根がびっしり生えていた!
「うわぁ!パチャム、大丈夫か!?今その着ぐるみを切り裂いてやるから!力を貸してくれ、スノーホワイトッ!!」
呼びかけに応えて目覚めた氷剣スノーホワイトは細かな氷の結晶を纏い淡い輝きを宿す。
「(主よ、そなたがそれを切ると、中の者は死ぬやも知れぬが……良いか?)」
振り下ろそうとしたスノーホワイトの助言に手を止める。
「どういうこと?」
「(あれは怨念……呪いであろう。切れば済む類いではないということよ。)」
呪いだって!?どういうことだ?俺やスノーホワイトではどうすることもできないのか!!
「ア、アリス、起きてくれ!パチャムが大変なんだ!!」
具合が悪く休んでいるアリスには心苦しいが、アリスの魔法なら何とかなると思い声をかける。しかし、返事はなかった。
アリスの寝顔を覗き込むと、ひどく汗をかいて息も荒かった。頬を触るとかなりの熱があった。
「そんな、アリスまで。」
倒れたパチャムも意識を失ったのか動かない。
「そんな……俺はどうしたらいいんだよぉ〜!?」
俺が半ば放心状態の最中、部屋のドアが開く。
「おおい、もういいかぁ?ギョヒヒィ〜!」
そこにはレオナールと一緒にいた半魚人が居た。
「何でお前がここに居るんだ!?」
「馬鹿ぁか、テメェはよ?尾行も気付かないなんてど素人かぁよ。さっさとアリスってのを連れて来いぃ!」
尾行!いや、普通に考えれば当たり前か。そんな当たり前すら今の俺には思いも付かなかった。俺のせいでアリスとパチャムも危険に晒してしまった。
こうなればこの半魚人は倒さないとっ!
「待てよぉ。一応教えるがぁよ、俺が死んだらよぉ、レオナール様は分かるんだぜ?そしたらよぉ〜、猫娘もそれにテメェもお陀仏ってヤツだぁぜぃ。ギョギョッピィ〜!!」
スノーホワイトに手を掛けた俺はその手を離す。
「(ヤらぬのか、主人よ。)」
スノーホワイトの問いには沈黙をもって答えた。
「アリスとパチャムにも何かしたのか?」
「さぁ〜?レオナール様なら知ってるさぁ。さっさと行くぞぃ。」
半魚人の言う通りに……するしかない。
俺はアリスを抱きかかえ、動かないパチャムに心で済まないと言い、半魚人と共にレオナールの元に向かった。
◇◇◇
「お帰り、ぼうや。偉いねぇ、ちゃーんとおつかいできたじゃないか。さぁ、アリスをそこに寝かせな。」
「約束が先だ。ファナを解放して下さい!」
レオナールは両手を広げて言う。
「あの仔猫ちゃんなら約束通り解放したさね。ここにはもう居ないよ。」
「そんなこと……信用できない!ファナはどこだよ!?」
「だったらこの館の中を見て回ったらいいさね。」
レオナールの館は二階建てで部屋数は10部屋程。俺はしらみ潰しにファナを探すが見つからない。
「気が済んだかい?宿に戻ったんじゃないかね?あぁ、そうそう。あのパペットさ、早くしないと呪いでホンモノのパペットになっちまうよ?」
「パチャムのことを、いや、パチャムに呪いを掛けたのもアンタか、レオナール!?」
「酷いねぇ〜、人聞きの悪い。証拠はあるのかい?アタシは善意で教えてやっただけさね。あのパペットを救いたいなら、このミッドグルンの西にある『グルゼル湖』の水に漬けなさい。それで呪いは解けるわ。」
レオナールは意外にもパチャムを助ける方法を教えてくれた。
「ありがとう。」
「タイムリミットは2時間位だから、すぐに発ちなさい。馬で行けば1時間もかからないわ。終わったらアタシの館に戻りなさい。その間にアリスの治療もしといてあげるから。ウフフッ!」
「……はい。」
レオナールの笑いがどこか引っかかる。
◇◇◇あとがき◇◇◇
お読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
もがけばもがくほど抜け出せない……怖いですね〜。もはや冷静な判断ができなくなってるんでしょうね、ブレイブくん。www
お読みいただいた感想や評価をお願いします。いただけると今後の励みになりますし、もっと良い話にできますので、是非ともお願いします。m(_ _ )m
毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)
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