第79話 【Side:アリス】殲滅

「ブレイブ!!」


 人狼の少女に首を嚙み裂かれ鮮血に塗れたブレイブ、次の瞬間には氷の柱に閉じ込められていく。


「あの氷の柱……まさかアイスソード!?」


「アリスッ!」


 氷漬けなったブレイブに意識を取られたわたしの名を叫ぶリフィー。


「キャアッ!」


 油断した!人狼の鋭い爪がわたしの右肩を撫でると容易く肉が裂け血が噴いた。同時に強烈な蹴りがわたしを襲い、吹き飛ばされ背中から木にぶつかる。


「戦場に人間?おかしな敵軍だな。まぁいい。」


 人狼はそう言うと指笛を高らかに吹く。


「お前たちの作戦は知ってたさ。ここからが戦だ!」


 敵陣の後方から新たな敵兵が現れた!場は混乱し敵味方入り乱れて乱戦となる。


 指揮をしている人狼を探すが、もう遠く戦場を縦横無尽に駆け回り、瞬く間に多くの冒険者を屠る。巨人もまた巨大なハンマーを軽々と振り回し、一撃でいくつもの命を叩き潰していった。


 増援もさることながら、二人の強敵に味方の半数以上が行動不能にされた。強い。


 ファナはブレイブを守ろうと全力で氷柱に走る……が、行く手をあの人狼が阻んだ。


「お前も拳闘士かい?余興にちょっと相手してよ。」


「ふざけるなっ!どけ!!」


 2人は小学生くらいの背格好で、およそ戦場には似つかわしい子供の喧嘩のように見えた。


◇◇◇


 わたしは肩を庇いながら立ち上がると、お腹に受けた蹴りの鈍い痛みで足がふらつきながら、ブレイブの氷柱を目指す。


「キリコは遊び出したか。人狼とはいえガキだな。あれで隊長なんだからふざけてやがる。ん?何だあの氷の塊は?」


 巨人の大きな独り言は離れたところでもよく聞こえた。珍しい遊具を見つけた子供のように氷柱に向かって走り、その手のハンマーを氷柱目掛けて振り下ろす!


「ブレイブに手は出させません!堅牢なる守りを成せ、『プロテクトシールド』!!」


 氷柱の前に立ちはだかり魔法の盾で巨人の攻撃を受け止める!!


「お?魔法の盾かよ。ま、叩けばそのうち壊れるだろう。」


 巨人は重い一撃一撃を魔法の盾に見舞う。魔法の盾の耐久力は相手の攻撃力に比例して術者の魔力を消費する。一撃毎の魔力消費が激しいことから、驚異的な威力だと分かる。


 楽しそうに魔法の盾を叩き下ろす巨人。わたしは膝をつきながらも盾を維持し続けた。退いたら氷柱ごとブレイブが砕け散るのは明白だった。


「もっと頑張ってもいいんだぜ?はーははっ!」


 もう20~30回はその容赦ない攻撃を耐え続けたけど、もう限界だった。


「待ってください。」


 わたしは巨人に問いかける。不意に掛けられた言葉に手を止める。


「ぁあ?」


「聞いても……いいですか?ゴーファンに『ステラ』という人間がいると聞いたのですが、ご存じですか?」


「『ステラ』……『カボチャの悪魔』のことか?会ったことはないが最近よく聞く名前だ。まぁ……死ぬお前にはどうでもいいことだろうがよ!」


「『カボチャの悪魔』?」


 渾身の一撃を放つ巨人はその反動で大きく後ろに仰け反る。それほどのインパクトにより、遂に魔法の盾が破られてしまう!


 衝撃でわたしはブレイブの氷柱に叩き付けられる!氷柱に多少亀裂が走るがブレイブには至ってはいないようだった。良かった。


「やっと壊れたか。これだから魔法ってのは厄介なんだよ。さぁて、その氷を砕くぜー!」


 もう魔力が。さっき人狼から受けたダメージもあり、意識が遠のく。笑う巨人は天を覆うようなハンマーを振り下ろす!


 ガキーンッ!!


 巨人のハンマーはわたしのすぐ横の地面にめり込んでいた。


「痛ってぇ!クソが!!まだ生きてたか、人間。」


 そこには赤い剣を大地に突き立てた剣士ヒュールが居た。


◇◇◇


「へぇ、やるじゃないかホビット。魔獣の国ゴーファンの拳闘士キリコ。見ての通りワーウルフだ。名前は?」


「……ファナ。オルガナの拳闘士だよ。」


 青髪の人狼少女キリコは、自分と背格好のファナに興味を持ったようだ。


 こと戦闘においては人狼の驚異的な身体能力はホビットのそれを大きく上回っていた。半ば一方的な戦いだったが、ファナは全身傷だらけになってもなお立ち上がる。そこにはパチャムの回復支援もあったが、それ以上にファナの気力がキリコとの実力差を縮めていた。


「そろそろ遊びはおしまいだ、ファナ。ここからは……殲滅だよ。」


 キリコの言葉にファナも覚悟を決めたように拳を構える。キリコは身を低くして一気に加速する姿はまるで獣であった。


 ファナはスピードでは敵わないことをその身に痛いほど染みており、カウンター狙いで迎え撃つ姿勢を取る。


「かわせるかな?『ダンス・ウィズ・ナイブス』!」


 キリコは仕込みナイフ4本を投げつける!ファナは反射する煌めきでナイフの軌道を察し、手甲で弾く。


「ナイフは弾かれると思ってたよ、キミならね。でも、残り4本は避けられなかったね。」


 残り4本?ファナは4本のナイフ以外は見ていない。キリコの視線を追う……ファナは狼狽える。


「パチャム!?」


 パチャムの腹にナイフが刺さり、うずくまっていた。他にも3人の冒険者が倒れていた。死角からナイフを更に投げていたのか!?


「関係ない者を狙うなんて汚いぞ!!」


「さっき言ったよ……遊びはおしまい、殲滅を開始すると。これは戦争なんだよ。敵は皆殺しだ。」


 キリコは寝言を言うファナの甘さを嗜めた。


「喰らえっ、奥義『ウルフ・ファング』!!」


 キリコは超スピードで襲い掛かり両手の鋭い爪で獲物を切り裂く!ファナは血飛沫を撒き散らしながらも、間近にいるキリコを肌で感じ、爪激を怯むことなく渾身の一撃を放つ。


「そこだっ、奥義『ライジング・ブレイクラッシュ』!!」


 ファナの拳がキリコの腹を捕らえ、空高く打ち上げた!


 ファナは踵を返し、倒れるパチャムのところに走る。しかし、全身から流れる出血と痛みで意識が揺らぐ。


「まさか貰うなんて思わなかったよ、ファナ。」


 ファナの正面に立つキリコ。お腹を押さえつつ、口からは吐血していた。


「捨て身の一撃ってやつかい?カッコよかったよ。じゃ……さよなら。」


 キリコは力ないファナの髪を引き上げ、ファナの首筋に牙を突き立てる。

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