第77話 【Side:ステラ】ジャック・オー・ランタン
ガコン!!
大きな物音がすると壁が動いて、そこからデネブが出てきた!
「そんなところにいたの!?」
「あれ、ステラ?久しぶり~。って、ココ立ち入り禁止なんですけど……。」
ジト目を向けるデネブだったが、てへぺろするわたしに呆れたのか、再会を喜んでくれた。
デネブが出てきた隠し扉の先は抜け道になっており、こっそり街から出たいときに使っているらしい。こっそりって?
「デネブちゃん、この子は?何か、キレイだね。」
透き通るような白い肌が青白く光っているように見えた。
「キレイ……そうだね。この子は怪我をしている訳じゃなく、ただ……目覚めないのさ。」
心の……病?
「とりあえず、この子のことは秘密ね。モーリスにもヴェイロンにも、誰にもだよ!『トリック・オア・シークレット』だからね。うぷぷ。」
目が据わってますよ、デネブねーさん!
「オーケィ!それより、聞きたかったんだよ、コレのことを。」
右手のリングを差し出してデネブに問う。
「あぁ、ソレね。うまくいった?」
とりあえずは魔法少女に変身出来たこと、ただ本来の姿ではないことを重点的に報告すると、デネブは順を追って解説してくれた。
この世界ラニューシアに満ちる魔力とリング内の魔力は異なるらしい。そこでデネブは苦労の末、この世界の魔力をリングの魔力パターンに変換することに成功したのだ!
「とりあえずさぁ、少し魔力補充したから見せてよ、『魔法少女』とやらを。」
「はーい。マジカル☆バースト。」
軽い感じで変身してみせた。やはり……黒かった。
「ほほお〜、これが魔法少女か〜。でさ、黒くちゃダメなの?」
「本当は純白なんだよ。こんな堕天使な姿じゃないんだよ〜。」
話をしている間に変身は解けてしまった。フル充電じゃないからかな。
「確証は無いけど、ここは魔獣王の魔力が強いからじゃないかなぁ?知らんけどー。」
憶測の域を出ないし、何となく投げやりなデネブであった。これ以上は聞いても実りは少なそうなので話題を変えてみる。
「とにかく、ありがとう。変身できたことに感動したよ!でもさ、魔力補充はどうやるの?」
「今までは手作業で魔力を変換してたから時間も手間暇もかかったケド〜」
デネブはおもむろに呪文を唱えると空間に描かれた魔法陣から現れたのは、小ぶりなハロウィンのカボチャ!?
「『ジャック・オー・ランタン』!これを魔改造して魔力変換能力を付けました。これで手作業から解放……もとい、いつでも魔力を貯められるよ〜。」
それって……この異世界で魔法少女に変身し放題ってことだよね!わたしは嬉しさのあまりデネブを抱き上げてクルクルと廻り続けた。
ジャック・オー・ランタンはわたしの左肩の上を常に浮遊してした。
「よろしくね、ランタン!あ、そうだ。会わせたい人がいるんだ。上に来れる?」
「オ、オーケィだよ。でも上まで連れて行っておくれ〜。」
目を回したデネブをおんぶして、わたしは階段を駆け上がった。
◇◇◇
地下から戻ると店内では……ミッシェルとフェイトが開店準備を手伝いながらモーリスと談笑しながら。
「ステラおかえり。いまモーリス様に色々聞かせてもらってたんだ。あれ?その肩にカボチャは何?あぁ『カボチャの悪魔』だから?」
お、カボチャを手に入れたこの姿、まさに『カボチャの悪魔』か!?なんちゃって。
「それは『ジャック・オー・ランタン』ですね。どうしたんですか?」
「さっきデネブちゃんに貰ったんだー。それより、3人とも仲良くなったんだね?」
3人は顔を見合わせて笑う。何か微笑ましい。
「で、この2人かい、会わせたいというのは?」
慌ててデネブにも二人を紹介した。再びミッシェルとフェイトは畏まり、デネブに酷く遜って挨拶をする。
唐突にモーリスが迫ってきた。
「ステラちゃん……わたし我慢できません!何でこの子達とは呼び捨てなんですか!?」
言われている意味が分からなかったが、さっきした回答をもう一度する。
「ほら、同い年だから……だけど。ヘンかな?」
「ズルいです!わたしも……呼び捨てにして欲しいです。」
頬が紅に染めながら懇願してくる!
「え、そういうこと?じゃあ、モーリス。これでいいかな?」
「はい!」
名前を呼び捨てにされてた彼女は恍惚としていた。
「なら、わたしのこともステラって呼んでよね、モーリス。」
「えー!わたしがステラちゃんを呼び捨てに!?」
戸惑いながら興奮するモーリスは極めて息が荒い!
「いいじゃないか、モーリス。今から呼び捨てにすること。オーケィ?」
「分かりました。ス、ステラ。不束者ですが宜しくお願いします。」
「いやいや、おかしいでしょ!言い方〜。」
モーリスのキャラが崩壊しつつも、場が笑いで溢れた。
「でも、デネブ様はデネブ様です。わたしのご主人様ですから。」
モーリスは念を押す。
「呼びたいように呼びなよ。……呼び捨てでもいいんだがね。」
魔女帽を深々と被るデネブ。
「おっと、開店準備しないとね。」
「あの、わたし達もお手伝いしてもいいですか?デネブ様。さっき、モーリス様には少し教えてもらったのですが。」
ミッシェルはそう口にするが、デネブと交わす視線にどこか怯えている。フェイトは視線自体を逸らしていた。
「人間はいつもそうだ。常に怯え卑屈で。でも、それは仕方の無いことなのだよな。だがね、店を手伝うからなら店員として自信を持つこと!いいね、ミッシェル、フェイト!オーケィ?」
怒られ怯えていた2人は、最後の言葉で暗かった表情に花が咲く。
「は、はい!精一杯やります!!……ありがとうございます、デネブ様。」
真っ直ぐにデネブを見るミッシェルとフェイト、そんな姿を見て一安心した。店長としてのデネブはどこかパパスのようだ。厳しいなかにも優しさがある、みたいな。
「わたしも久々に頑張るよ、デネブ!」
呼び捨てにされたデネブは、どこか嬉しそうだった。
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