第76話 【Side:ステラ】金魚の国の眠り姫
「ただいま~、ステラだよ~!」
2週間ぶりに『南瓜亭』へ帰ってきた。時刻的にはまだ明るい午後で店は開店前。『closed』が掲げられたドアを開けると、開店準備をする店員でサキュバスのモーリスが居た。
「あぁ、ステラちゃん!会いたかったよー!!全然帰って来ないから、もう戻ってきてくれないかと思ったんだよ?寂しかったよ~。」
モーリスは迷いなくわたしに抱きつき、その触手のように動く指がわたしの身体に吸い付く!
「ひゃっ!」
久しぶりで2人に会いたい気持ちが先に立ち、モーリスのセクハラを忘れていた!
「お返しだー!!」
わたしもモーリスの放漫な胸を揉みしだく。
「あーん、ステラちゃんがわたしの胸を!?嬉しい~~~!!」
「いや、そんな反応なの!?ちょっと、引くわぁ~。」
「ガーン!嘘だよステラちゃん、引かないでよ~!」
わたしを逃がすまいと更に抱きしめてくるモーリス。豊満な爆乳で窒息しそうになる!
「プヒィ〜!分かったから落ち着いて。そういえば、デネブちゃんはいないの?」
「デネブ様は……自室かなぁ?奥にはいるよ。えっと……ステラちゃん、その子達は?」
ハッ!として後ろにいる2人を慌てて説明する。
「ゴメン、2人とも!!」
「ううん、大丈夫だよ、ステラ。」
入り口にはミッシェルとフェイトが立っており、ミッシェルが返事をすると、2人はモーリスに会釈をした。
「紹介するよ。騎士団宿舎で出会った双子の姉妹で姉のミッシェルと妹のフェイトだよ。わたしの友達で紹介したくて連れて来たんだ。よろしくね!」
モーリスにミッシェルとフェイトを紹介すると、続けて2人にモーリスを紹介する。
「で、こっちがサキュバスのモーリスちゃんね。わたしが騎士団に入るまでお世話になってたこのお店『南瓜亭』で働いてるんだ。エッチだけど、よろしくね!」
「エッチって言わないでよ、ステラちゃん!!」
あらためて抱きついて来るモーリス。それがエッチなんだと声を大にして言いたかった。言えなかった。
「わたし達みたいな人間がこんな立派なお店に伺ってスミマセン……。」
おどおどしながらフェイトがモーリスに謝罪する。
「モーリス様、伺った無礼をお許しください。ステラには命を救われ、とても良くしてもらってます。でも、お邪魔であればすぐに去りますのでお申し付けください。」
いつも以上によそよそしい2人。無理もないか。人間達が街に出るのは早朝の清掃活動の時だけであり、それ以外で街に出ることはない。
理由はやはり『人間だから』であった。
もはや暗黙の了解であり、人間を見れば人喰い種族は間違いなく襲い、それ以外の種族でも面白半分で襲うことも有り得る。
人間が身を守るためには、騎士団の管理敷地内から出ないことが最善の選択だった。人間にとって他の種族は全て支配階級と認識しているので、自然と相手を敬い自ら遜る。
でも……そんなステレオタイプはぶち壊したい。人間も普通に街中で生活できることをわたしは願う。
「ステラちゃん、この人間達は友達なのですか。」
「そうだよ。2人とも同い年だしね。」
暫し考えこむモーリス。
ミッシェルとフェイトは何処か落ち着きがなく下を向いていた。
「モーリスです。お二人共、『南瓜亭』へようこそ。ゆっくりして行ってくださいね。」
モーリスはスマイルで挨拶をした。ミッシェルとフェイトは少し固まるが、深く頭を下げる。
「お、恐れ入ります。あの、ステラ……やっぱりわたし達は戻るよ。」
「え、何で?まだ来たばかりだし。あ、ちょっとデネブちゃん探してくるから待ってて。モーリスちゃん、2人をお願いねー!」
ミッシェルとフェイトは慣れない外出に緊張しているようだから、とりあえずデネブに2人を紹介したら今日は帰ろうと思った。デネブ、どこだろう?
わたしはダッシュでデネブを探しに走る。
◇◇◇
ミッシェルとフェイトは絶望していた。頼みのステラが居なくなり、悪魔族のサキュバスと対面する状況。蛇の生殺しに他ならなかった!
流れる沈黙はミッシェルとフェイトにはそれだけで拷問だった。2人はモーリスを不愉快にさせたと感じ、ステラが席を外したいま、何をされるか想像も出来なかった。命を奪われることも脳裏をよぎる。
沈黙はモーリスから破られた。
「あなた達、ステラちゃんのことを何て呼んでいたのかしら?よく覚えてないんだけど、、、呼び捨て、にしてたの?ステラちゃんを?」
ゆっくりと近づくモーリスに二人は立ち竦み、言葉は出ない。ただただ恐怖に打ち震えるだけだった。
◇◇◇
デネブの自室……居ない。
トイレ……居ない。
浴室……居ない。
衣装部屋、書庫、遊戯室、洗濯室、物置きetc……居ない。
「おかしいなぁ?居ないなぁ。」
『南瓜亭』の地下は色々な部屋があるが、一通り探すがデネブの姿は無かった。一旦上に戻ろうとした時、一か所探してないことを思い出す。
「デネブちゃん、いる?」
あまり気乗りしなかったのだが、地下を結構下ったところにある治療部屋。そう、魔獣の森海で傷付いたわたしを治療していた部屋。入口にはキープアウトの貼り紙が貼ってある。が、気にせず部屋に入ると、相変わらず薄暗く広い部屋に巨大な容器が並んでいる。
「はぁ、ここに入っていたんだよね、わたし。」
空っぽの容器を眺め感慨にふけっていると、奥の容器に目が留まる。
傷が癒えて容器から出た時、その隣の容器に何かが入っていたのだが、いま近づくと……人影が見えた。
容器の中には液体が満たされ、裸の女の子が入っていた。背格好から10歳くらいか?顏には仮面を被っていた。
「あのー、大丈夫?」
反応は無い。眠っているのだろうか?しばらく眺めていたが動きは無かった。
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