第51話 【Side:ステラ】ステラ、九死に一生を得る!?

「止めい。」


 身体の奥底に響くその声。心の臓を掴まれたように全員動きを止める。続けて魔獣王が語る。


「ヴェイロンに……魔法少女ステラ。そして、この場にいる全員に命ずる。これ以上の争いを禁ず。」


 ヴェイロンは剣を納め跪く。近衛隊も従う。わたしは苦痛と疲労に両膝をつき、うなだれる。


 ヴェイロン達が攻撃を止めたこの時が千載一遇のチャンス。一気に魔獣王に駆け寄るつもりが、魔獣王の言葉自体が呪縛であるかのように身体を動かすことができなかった。


「重ねてこの場にいる全て者に命ずる。いま起きたことは無かったこととする。よいな。」


 魔獣王が宣言した言葉に全員が驚き、全員が王の真意を理解できなかった。


 マビノギが王に伺いを立てる。


「王よ、仰せの『無かったこと』とは、この人間が場を乱しゲシュタルト殿を討ったことを含め、一切の罪を問わないということでしょうか?」


「そう命じたのだが……異議があるのか?」


「ございません。仰せのままに。」


 深々と頭を下げるマビノギ。


 それだけでほとんどの者が理解する。いや、せざるを得なかった。


「どうしてそんな命令をしたの?わたしとの決着はどうするの!?」


 王に平伏する全員がわたしの言葉に驚嘆の眼差しを向け、嗚咽にも似た声を漏らす。


「それは……後ほどとしよう。なかなかの座興であった。マビノギ、その魔法少女の治療もせよ。」


 魔獣王の答えの真意が分からない。何故、戦わない?何故……殺さない?考えを巡らせるが貫かれた左腕の激痛と出血で意識がグラついて纏まらない。


 倒れたゲシュタルトの治療を終えるが、意識が戻らずこの場から退場する。


 次にマビノギはわたしのところに来ると魔法を詠唱する。わたしは一瞬躊躇した。治療せよという王の命令に背き攻撃してくるか半信半疑だったから。幸い、マビノギの詠唱する魔法は間違いなく回復魔法だった。(わたし自身、高速詠唱はできなくても、呪文を聴き分けることはできた。)


「何故、あんな愚かなことをしたのだ?」


 わたしの左腕を中心に回復魔法を掛けるマビノギは小声で問う。わたしは黙秘をもって答える。


 場が落ち着きを取り戻し、その場の全員が魔獣王より言葉を賜る。


「王宮武闘大会の勝者たちよ、その雄姿見事であった!特に人間がこの大会に出場すること自体が初であり、そして勝利したなど前代未聞と言っても過言ではない。ちょっとした興もあり楽しませてもらった。大儀であった。」


 そういうと王は重く深く拍手をする。ヴェイロンやマビノギ、近衛隊も拍手をする。勝者たちは深々と頭を下げたまま祝福を受ける。死闘が宴会芸に貶められ、お偉いさんの締めで宴会が終わったようで、もはや戦意を削がれた。


「ヴェイロンよ、あとは任せた。」


 そう言うと魔獣王は部屋を後にする。


「(一体……あの『魔王』の姿をした『魔獣王』は何なの!?)」


 魔獣王が姿を消すと場を支配していた重圧な空気が消えた。緊張の糸が切れ、わたしはその場で意識を失った。


◇◇◇


「あの人間は普通じゃないと思っていたが、頭も普通じゃなかったか。」


 ステラを除く勝者の7名は、謁見の間を出て、別の部屋に通され盛大な晩餐を楽しんでいた。普段はお目にかかれないような豪華な料理や、稀少な酒などが振る舞われ、まさに勝利の美酒を味わっていた!


 話の話題はやはりステラのことだった。ステラと健闘したリザードマンのゲランが開口一番に言った。それには全員が頷く。


 ワーウルフのキリコは肉を頬張りながら言う。


「シュテラは何がひ、かったにょか……あおげふ、たとはま……」


「食べながら話すのはやめたまえ。折角の酒や料理が台無しだ。」


 デュラハンのジョースティンⅡ世は左手に頭を抱え、右手でワインを口に運びながらキリコを嗜める。指摘されたキリコは食べることに集中した。


「まさか、話す方をやめるとは……。」


 呆れながら続けて語り出すジョースティンⅡ世。


「しかし、ステラは何故、魔獣王の御前であんな奇行に出たのか?しかも、近衛隊長が討たれたにもかかわらず、不問に付した魔獣王のお考えも理解できぬ。誰か分かるか?」


 ジョースティンⅡ世が皆に問うが、皆思い悩むだけだった。当の本人に聞くのが一番だが、本人がいないし、あの場では不問とされたが、既に始末されたのではないかと皆考えていた。普通に考えれば奇行の理由を拷問で問われ、その後に処刑であろう。それだけの事は十二分にした。


「ステラは、ゲシュタルト様にイラッとしたから刃向かったんじゃないかな?わたしもだけど、そんなことで鞭打つことないじゃないか!って思ったよ。」


 食べ終えたキリコが考えを口にする。ここが王宮内で誰に聞かれてるとも知れないのにズケズケと言う。


「いや、王の御前で私語などあり得ないことだ。命があるだけでも奇跡。それを考えるとステラの処遇はやはり全く理解できん。王の御前で近衛隊長であるゲシュタルト様に刃を突き立てて無罪とは。どういうことなんだ!?」


 ジョースティンⅡ世は代々魔獣王に仕えし貴族の出であり、王宮での作法に精通してるだけに、前代未聞のステラの愚行とそれが無罪放免となったことに動揺を隠せない。


「『魔法少女』って何だろう?『魔法使いの少女』つまり『魔女』のことかなぁ?初めて聞いたよ『魔法少女』なんて。でも凄い力を感じたよ、あの『魔法少女』のステラからは!」


 キリコがステラの言葉を思い出して疑問を持つ。


 女魔剣士ゴールドはキリコの言葉を静かに聞いていた。

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