第49話 【Side:ステラ】最悪の再会!ステラ絶体絶命!!

 ゴーファンで開催された王宮武闘大会の決着の後、優勝パレードが盛大に行われた。王に謁見するため王城に向かう道中、勝利した8名はそれぞれ馬に乗りコロッセオから王都ゴーファンの街中を一周してから王城に向かう。


 1時間程ゆっくりと街中を練り歩き、ようやく王城の門に入る。いつもは遠くから眺めていた城だが、間近で見ると高くそびえる巨大で重厚な城の全貌に圧倒される。


「シン○レラ城の何倍も大きいね。ほぇ〜!」


 城門をくぐり、城の正門前で馬を降り、城内に招き入れられる。


 城内に入ってから30分以上は歩き階段を昇り降りし、ようやく謁見の間に辿り着く。多分一人では城を出られる自信が無いくらい複雑な道のりだった。


 装飾が施された5mを超える扉の左右に鎧の騎士達が立っていた。騎士はわたし達8名の勝者に武器をこの場に置くよう命じる。


「この先は武器の持ち込みは禁止だ。そこに置くように。」


「この盾もですよね?これ凄い威力なんですよ?危険だから、ね、ねっ!」


 必死の訴えに対し、それはゲシュタルト様から許可が降りているので良いと言われ、めげた。


 騎士達が重い扉を開け、8名に謁見の間へ入るよう促す。かなり長い赤絨毯の遥か先に王宮騎士団3長たちが立っていた。左右には近衛隊が等間隔に並んでいる。


 3長の手間まで進むと、その場で傅くよう命じられ8名は跪く。更に50m位先にようやく玉座があった。王様の姿はまだない。


「魔獣王がお越しになるまで、そのままの姿勢で待て。」


 王宮近衛隊長のゲシュタルトが説明する。威圧的に。


 何かと命令口調なこの近衛隊長に良い印象を持てなかった。冷たく上からな物言いや態度が、テレビドラマならエリート上司やキャリア官僚みたいな感じで虫酸が走る。役職を演じているが本当は優しいとかって裏設定があるかもだけど、悪魔族だから……無いな。第一印象からはキライなタイプだった。


 嫌味は言うけど、どこか暖かいヴェイロンの方が断然マシだと思った。


 しばし待つと玉座の奥の扉が開き、足音が響くや一瞬にして場の空気が変わる。8名全員がまるで地の底に落とされたと感じるほどに異質な空間となる。


 初めて王の波動を全身に感じたわたしは自分でもよく分かるほどに震えていた。隣のキリコが小声で声をかける。


「ステラ、大丈……」


 キリコの左頬を鞭が襲い、吹き飛ぶキリコ!


「王の御前である。口を開いて良いと誰が言った!!」


「キリコっ!?」


 叫ぶわたしにも鞭が襲う!しかし赤い盾で鞭をしのぐが、勢いまでは抑えられず吹き飛ばされる。


「同じことを言わせるな。二度はない。」


「(やっぱり、コイツ嫌い!!ホント悪魔だ!?)」


 悪魔族のゲシュタルトに鋭い視線を向けるわたし。そこにヴェイロンが口を開く。


「静かに元の場所に戻れ。」


 わたし達はその言葉に従い、無言で元の位置に戻る。きっと助け船を出してくれたのだと信じ、ヴェイロンの顔を立ててその場は引く。


 鞭に打たれて震えは収まったが、近づく王様の波動にわたしは混乱していた。恐ろしい重圧感でいまにも逃げ出したい衝動に駆られつつ、実は見知ったもののように感じていた。それ故の混乱であった。


 この感じは……そんな!?


 頭を下げ俯いたまま、王が玉座に座るのを待つ。


「魔獣王がお越しである。面をあげよ!」


 一斉に顔を上げる。わたしはためらいながら顔を上げる。


 玉座に座るこの国ゴーファンの国王である『魔獣王』、その姿を目の当たりにしてわたしの視線が凍りついた。


『魔王』


 そう、その姿や溢れるオーラは、まさに現世でわたしたち『魔法少女』が戦いの末、奇跡的に滅ぼすことができた『魔王』そのものだった!!


 その現実が受け入れられず頭が混乱していた。王が何かを話し出すが全く頭に入って来ない。思考が追いつかず頭の中が真っ白になりうまく呼吸ができない。


「貴様、またか!?」


 ゲシュタルトが再度鞭を振るおうとしたその時、魔獣王が言う。


「よい。戦いの後で疲弊しているのであろう。」


 鞭を納め一歩下がるゲシュタルト。


「王に感謝せよ!人間。」


 まるでゴミを見るように吐き捨てるゲシュタルトだが、その時のわたしにその声は届いていなかった。


「そなたが人間のステラか?」


 突如、王から自分の名を告げられると、心臓を鷲掴みにされたようだった。


「は、はい。」


 『魔王』は滅んでいなかった!?


 そして魔法少女ステラが自分であることを悟り、わたしをこの場で始末しようとしているのだろう……全て周到な罠だったのか!!


 いざとなればこの場から逃げ出すことを考えなければならないが、ここはまさに敵の本拠地でラスボスが目の前にいる状態!周りにはヴェイロンをはじめ、精鋭ばかりで逃げることすら敵わないだろう。


 共に戦ったキリコやジオやゴールドさんもこの国の住民なら王の命に従い立ちはだかることだろう。


 仮にここから逃げられたとして、その先に頼る者もいない。デネブやモーリスも彼らと同じだろう。この異世界でただ一人の異邦人には成す術がない絶対絶命の窮地だ。


 魔獣王の出方を伺う。視線を上げると魔獣王はじっとわたしを見つめていた。やはり魔法少女だと認識しているか。そして、その場にいる全員が敵視しているに違いない!


 わたしの中で全ての線が絶望という一点につながり、魔獣王、いや、魔王から下される死の宣告を待つだけだった。幸いなのか分からないけど、ラスボスが手の届く場所にいるからには、一矢報いて果てることも出来ようか?考えがグチャグチャで冷静な判断ができない。


 そして死の宣告。


「そなたが、我が旧知『レッド・ヘルタートル』の力を解放し、今大会に勝利した人間か。しかもヴェイロンと共に魔獣の森海から生還したとのこと。只者ではないと気にしておったぞ。それが……そなたであったとはな。」


 やはり、気付かれていた!?


「そして、この世界ではない別世界のモノと聞いている。」


 この期に及んで!異世界の魔法少女であり、自分たちの敵であることを公言し一斉に襲わせる魂胆!?


「正直、人間が魔獣の森海から生還し、また、我が剣たる騎士団長ヴェイロンを救ったとは信じ難かったが、王宮武闘大会での活躍を見て確信したぞ……ステラ。」


 『魔法少女ステラ』であると確信した、と!?


「さぁ、皆の者よ、この異界の人間を盛大に持て成してやるがよいぞ!!」


 来るっ!この場の全員が……敵!!こうなれば……


「わたしは『魔法少女ステラ』!!」


 絶体絶命でテンションが上がったわたしはおもむろに立ち上がり、そう名乗りを上げた!

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