第18話 【Side:ブレイブ】ファーストキス
あくまで共犯にしたいのか、ファナは執拗にエール酒を俺に勧めてくる。
そして、ファナの言うこともあながち間違いではないかなと思えてきた。
何せ、明日からは戦争に向けた作戦に入り、いつ敵軍と交戦になるかも分からない。加えて、前世では生きている間に飲酒経験は無く、今世でもまた未成年で死の危険性がつきまとうとなると、一度くらいはお酒を口にするのも悪くはないんじゃないかと思えた。
「ファナ、お酒って美味しいの?」
「もちろん!こんなに美味しいものを知らないなんて可哀想だよ。一杯だけ飲んでみてよ。」
「じ、じゃあ味見してみようかな。すいませーん、エールください。」
俺は内心悪いことをしている気分に苛まれながらもエール酒を注文した。
「ブレイブ、来るのに時間かかるから、あたしの飲んでいいよ。」
隣に座る小柄なファナは常に俺を見上げる格好になり、小悪魔的な視線を俺に向ける。飲酒初体験な俺が飲む勇気があるか試しているかのように。俺は杯を口にする。
「あ、美味しい。もっと苦いのかと思ったけど、果実っぽい風味で飲みやすい!」
苦いビールを想像していただけに、柑橘系の爽やかな味わいと喉ごしも爽快で一気に虜になった。
※日本でのお酒は20歳になってから!
「ね、美味しいでしょ!さぁ呑もう!!」
ファナははりきって追加注文をする。結局俺たちは日も変わった閉店間際まで飲み明かした。カウンターに居たはずのキューイはいつの間にか居なくなっていた。
店を出た俺たちは宿に戻る道すがら、ファナが急にもう歩けないと地面に座り込んでしまう。俺は仕方なくファナを背負いふらつきながら歩く。川にかかる橋を渡っている時にファナが口を開く。
「ねぇ、ブレイブ。何かあたし最近ヘンなんだ。」
「ん?昔からヘンじゃないか、ファナは。」
いつものようにからかうように返した俺にいつもなら頭を小突いてくるところだが、ファナの口からはいつもと違う言葉が出る。
「ブレイブのことが……好き。」
ファナはおでこを俺の背中に押し当てる。この言葉に俺は一気に心臓の鼓動が加速する。
ファナの俺に対する接し方は好きな相手へのアプローチ。それはギャルゲーやラブコメアニメでは鉄板な行動だと以前から察していた。でも、核心は持たなかった。それは非モテだった俺の自信の無さからだった。
しかし、いまその自信の無い核心が確固たる核心となった!
「前の迷宮で取り乱したあたしを勇気付けてくれたブレイブ、カッコ良かった。それからブレイブを見るたびに胸の奥がドキドキして。でも、もしかしたらずっと前からあたし、ブレイブが好きだったかもしれない。」
そう愛の告白をされた俺は言葉に詰まった。正直、元ヲタク少年な俺にはロリコン性癖があり、いまの高身長な俺にとってホビットのファナは幼女と言っても過言ではない。ガサツだけど顔立ちは整っており元気な笑顔にいつも心和まされていた。
長い沈黙のなか、俺は短く返事をする。
「あ、ありがとう、ファナ。嬉しいよ。その……」
「ブレイブ、待ってうっ!」
俺の背中に生暖かいものが流れてくる。ボタボタと地面に落ちたそれを見て俺は理解した。ファナは俺の背中で吐いたのだった!
「ちょっ!?ファナ大丈夫か?」
しゃがんでファナを下ろすと、ファナは俺に抱きつき……不意打ちにキスをしてきた!
まさか俺のファーストキスはゲロの味だなんて〜!!
その強烈なインパクトに俺は……もらいゲロをしてしまい、俺の嘔吐物がファナの胸元に吹き出す。
「あはは、ゲロまみれだね、あたしたち。うげぇ~!」
「笑い事じゃないよ!?っうぷ……」
ファナは笑いながら俺の手を引いて、橋から身を投げた。
咄嗟のことで情けない声を上げながら俺は川に落ちた。ファナの機転でビショビショにはなったが、嘔吐物で汚れた二人の身体は綺麗になった。水面で俺たちは抱き合い、見つめ合う。
「ファナ、俺もお前のことが好きだよ。」
「ブレイブ、嬉しい!この戦争が終わったら一緒に暮らそう。」
月明かりの下、どちらからともなくキスをした。
その最中、俺はファナの台詞がフラグにならないことだけを祈るのであった。
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