第17話 【Side:ブレイブ】精霊王の国
俺たちが自国オルガナを旅立ち、6日間の馬車旅を経て精霊王が治める国スピリットガーデンに到着した。
道中は大きな街道のためモンスターや盗賊に出会すことなく楽な旅だった。とはいえ、これから戦争に赴く身としては心の平穏とは遠いものだった。
スピリットガーデンの王都『ピセ』は高い城壁に囲まれ、王都全体が白を基調色とし装飾も素晴らしい芸術的な街並みに訪れる者に驚きと感動を与えた。
開戦のための全軍総会は明日予定されており、今日は半日ほど自由を満喫できる。とはいえ、もう日も落ちかけている時間なので、俺たちは荷物を宿に置き、腹を満たし英気を養うため酒場に向かうのだった。
酒場に入ると俺たちは注目されることとなる。厳密に言えば俺が注目されたのだ。何故なら……
「ねぇキミ、この辺では見かけないけど、この街は初めて?うわ、近くで見ると更にカッコイイ〜!」
早速お姉さん2人がやってくる。目的はナンパだろう。つまり、俺のイケメンぶりにお姉さんのセンサーが反応したのだ。いや、思い上がりだと思うかもしれないが、紛れもない事実なんだ。これまでも何度となく逆ナンされてきた俺が言うのだから間違いない。
「い、いかにも。えっと、この俺『アビスの氷剣使いブレイブ』に……な、何か用かね?」
アイスソードを手に入れてから俺はこの通り名を自称している。ちょっとカッコつけたくなる年頃なのだよ。
深い洞窟の奥底で眠っていたアイスソードの使い手ということで『アビスの氷剣使いブレイブ』である。我ながらイカしたネーミングである。ただ、自ら名乗り、少し会話をすると彼女たちは去っていく。大抵こうなるのだが……何故だ!?
「ブレイブって知らない人だと変な言葉遣いや受け答えするよね?」
「いつもそう言われるけど……よく分からないんだよ。何かヘンなのか、俺?」
ファナやパチャムが言うに、会話が成立してなく、みんな呆れて去っていくらしい。
生前、コミュ障な俺が転生してイケメンになってもコミュ障が無くなる訳ではなかった。外見が激変したって中身がゴミならすぐに見破られる。むしろイケメンで挙動不審な方が引かれるらしい。どうすればいいんだー!?そんな失態は今に始まったことではないけど、やっぱり切ない……。
◇◇◇
「えー、ブレイブとパチャム、お酒飲まないの!?ここはオルガナじゃないんだよ?知ってる人なんかいないんだから飲んだってバレないし怒られないって。」
俺たちの国オルガナでは飲酒や喫煙は15歳以上から認められていたが、俺とファナとパチャムは15歳未満なので、俺とパチャムは普通に食事だけを頼んだのだが、ファナは普通に食事と酒を注文した。
「15も14も同じだしょ!?こんな時こそハメを外さないでどーすんのさ!!」
すでにエール酒を3杯は飲み干したファナが絡んでくる。キューイは大人なので酒を飲むが、ファナがやかましいからか一人でカウンター席に逃げていった。
「決まりなんだから仕方ないじゃない。規律を破ってるファナの方が悪いんだよ。」
パチャムは司祭らしく規律にはうるさい。特に司祭にとっての神様である精霊王の座す聖地では尚更であった。こういう時のパチャムは融通がきかない頑固さがある。
「はぁ?規律、規律って、そんなんじゃ戦場に出たらすぐに死んじゃうっての!柔軟な対応がパチャムには欠けてるんだよ。」
「いや、規律を破る人が集団作戦の綻びになるんだよ。ファナのせいで作戦が失敗して、仲間が危険に晒されて、万が一にも負けることだってあるんだよ。明日からはちゃんと規律を守るんだね。」
「何よ、このバカ司祭!」
ファナがパチャムの料理を奪い自分の口に掻き込む。
「あー、僕の料理を!?ひどいよっ!!」
楽しみに取っておいた鶏肉のソテーを奪われたパチャムは顔を赤くして立ち上がる。
「何だい?やるの~!?」
ファナも立ち上がり拳を握る。
「おいおい二人ともやめろって。パチャム、良かったら俺のやるよ。」
俺は流石にヤバイと思い仲裁に入る。この二人のケンカは昔からなので静観していたが、酒が入ったファナがこんなに絡むとは思わず、パチャムもまた信仰する精霊王のお膝元で、これから聖戦に参列する意気込みからか、いつも以上に厳格だった。
「ブレイブ、僕は先に戻るよ。……その料理は好きじゃないんだ。」
いつもなら気を使われれば枕詞のように謝辞を口にするパチャムが穏やかじゃない態度で席を後にする。
「はぁ~、こんなんで俺たち大丈夫かなぁ?」
ため息をつく俺に頬を朱に染めた酔っ払い特有の赤ら顔で覗き込むように見上げるファナ。
「ささ、堅物も居なくなったし、ブレイブも一緒に呑もうよー。死んだら飲めないんだから、今日くらいハメを外そうよー。ささ、グイッと!」
お酒か。本音では……気になります。
※日本でのお酒は20歳になってから!
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