第12話 【Side:ステラ】魔獣襲来!ステラ、絶体絶命!?

 『魔獣の森海』はその地に迷い込んだ獲物を逃すまいという悪意に満ち、絶え間なく魔獣達を差し向ける。その激しい襲撃は確実にわたし達を窮地に追い詰めていった。


「『ギガント・インパクト』!!」


 騎士ヴェイロンは上段に構えた長剣に得体の知れない黒いオーラのようなものを纏わせると、長剣を激しく大地に叩き付ける!すると襲い来る数多の魔獣達が砕け散った。凄まじい技だ。でも、その剣戟は明らかに威力が落ちているのが分かる。


 ヴェイロンの常人を遥かに超えた体力も無尽蔵ではないようだった。無理もない。いままで一人で戦ってきたのだから。


「グフッ!!」


 小物の魔獣達はあらかたヴェイロンが始末したものの、明らかに有象無象の魔獣とは格が違う、巨大な単眼に多くの触手を持つ異形のバケモノが襲いかかってきた。そのしなやかな触手を鞭のように打ち付け、巨躯の騎士を岩壁に吹き飛ばす。岩壁にめり込んだ衝撃でヴェイロンは口から吐血し動きを止める。


「ヴェイロン!」


 泉の一件以来、わたしは失礼な騎士様を呼び捨てにしていた。ヴェイロンが息していることを確認し安心するが、ヴェイロンはこれ以上は戦える状態ではないことを悟る。


 目の前の気味の悪い、そして残虐な悪意を醸し出す魔獣の姿に戦慄を覚える。この魔獣は何度となくヴェイロンの斬撃を受けていたが、その単眼は相当硬いのか傷ひとつ付いていなかった。逆に触手は柔軟性が高く、ヴェイロンの斬撃を受け流し決定的なダメージは与えられていない。


 ヴェイロンを守るように抱き着くステラに満身創痍のヴェイロンが息も絶え絶えに言葉を吐く。


「さっさと失せろ小娘!邪魔……だっ!!」


「そんな姿で馬鹿言わないでよ!わたしも戦うよ。貴方を守るから!!」


 わたしは決心した。これまで何度となく悪態をつかれ入浴に乱入されたとはいえ、見放さず守り戦い抜いてくれた失礼な騎士様を見捨てて一人生き延びるなんてできない。


 そんな決意を尻目に目玉の魔獣が二人にゆっくりと近づき、複数の触手が二人に襲い掛かる!!


「ぐああアあーーーッッッ!!!」


 触手の乱舞がヴェイロンの身体を滅多打ちにし、更に岩壁に深く喰い込むヴェイロン。わたしは……痛そうなので避けたけど。


「ヴェイロン、ゴメ〜ン!」


 甘えたような謝罪の言葉に、意識が朦朧としているヴェイロンは不快そうに見えた。


「もう一度だけ『魔法少女』に!お願い……『マジカル☆バースト』!!」


 ステラは両手を組み、祈るようなしぐさの後、解いた両の手を天に掲げる!


「やっぱり……力が集まらない。何で!?」


 この異世界に来て最初に試したこと。魔法少女の変身だったんだけど……できなかった。絶望した。いまこの危機に奇跡を信じたんだけど、やっぱりできなかった……。その動揺が隙を生んだ。


 単眼の魔獣が放つ太く強靭な触手がステラに強力な横薙ぎの一撃を見舞う。ステラの身体が凄い勢いで吹き飛ぶ!


「うあぁぁ、がはぁっ!!」


 かろうじて左腕でガードしたものの鈍い音が響き、左腕から伝わる衝撃は全身を駆け巡る激痛となる。声にならない痛みに意識が飛びそうになるが、ここで倒れる訳にはいかないという気迫が意識を繋ぎ止める。


「い、痛すぎるっ!骨が砕けてる……左腕はダメか。全身に痛みが響く!!」


 おかしな方向に曲がった左腕を庇い、苦痛に耐えながらも何とか立ち上がる。しかし、単眼の魔獣はお構いなしに攻撃の手を緩めなかった。4本の触手がわたしに襲い掛かる!鎧など無い生身のわたしがまともに喰らえば次は死ぬだろう。今まさに襲い来るその攻撃をかわすことはできなかった。


「グウゥアッ!」


 ステラを庇うように立ち上がったヴェイロンが触手の攻撃をその身に受ける。巨大な長剣を振るう力はもう無いのだろう。大地に剣を突き刺し、両手で剣をきつく握りしめ仁王立ちする。


「ヴェイロン!?もう無茶しないで!」


「黙れっ!何もできない人間など目障りだ!!貴様はこの場には不相応、消えろ!!!」


 鎧を纏っているヴェイロンだったが、豪雨のように降り注ぐスピードが乗った重い触手の一撃一撃がヴェイロンを打ちのめす。無限に続く拷問のように思えた時間も終わりを告げる。遂にヴェイロンが吹き飛ばされ、庇っていたわたしに倒れ掛かる。ステラは避けることができず、ヴェイロンの巨体の下敷きになる。


「お、重い、潰れるって。ヴェイロン、ヴェイロン……気を失ってる?どいて、でないと二人ともやられるよー!!」


 わたしの叫びは空しい木霊となるだけで、ヴェイロンに届くことは無かった。


 大地から伝わる音で分かる。ヴェイロンの巨体が邪魔で見えないが、単眼の魔獣はもう目の前に来ている。先に受けた触手のダメージで折れた左腕と激痛が広がる身体では、フルプレートアーマーを纏った巨躯の騎士をどかすことはできなかった。


「考えろ、わたし。いままでもこんなピンチ何度もあったよね?……いや、そもそも変身できないことが無かったし、こんなボロボロになることも無かった。これは……わたし史上最大のピンチだよー。どうしたら!?」


 このまま押し潰されるか、単眼の魔獣に八つ裂きにされるか……どう転んでも絶望しか無かった!


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


頼みの騎士様がリタイヤし、魔法少女に変身できないステラ。どうするんですかねー?(^▽^;)


お読みいただいた感想や評価をお願いします。いただけると今後の励みになりますし、もっと良い話にできますので、本当にお願いします~。m(_ _ )m


毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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