第11話 【Side:ステラ】待って、まだ心の準備が!?

 出口は無いのではないかと思うほど広大で深く暗い『魔獣の森海』をわたし達はひたすら歩いた。樹齢何百年は経つであろう巨大な木々が鬱蒼と茂り、ほぼ空を埋め尽くしているので場所によっては昼間でも夜みたく暗いこともしばしば。幸いなことに湧き水などは豊富で助かっている。


 とは言え、夏の草むらにいる虫の如く魔獣がウヨウヨと湧いてくるため一人では心許無い。先を歩く騎士様くらいの力があればそれも可能だろうけど、今のわたしには無理。


 そんな騎士様でも現実は厳しいのだろう。四方八方に魔獣がいるこのデンジャラスな森では常に警戒を行う必要があり、熟睡もできない状態ではいつか限界が訪れるだろうから。


 そんなリスクに対応するためにこのわたしを同行させているのだろう。魂胆見え見えだよ。ともあれ、わたしと騎士様は休憩と見張りを交代で行い最悪の状況を回避していた。


 こんな魔境でもなければこの騎士様は人間の少女なんて平気で見捨てていたことだろう。なのでこのデンジャラスな状況は逆にありがたい。なぜなら、わたしは睡魔には敵わず、一度寝たら満足するまでは絶対に起きない自信があったから。騎士様と出会うまでの間、よく死ななかったなぁと自分の悪運に感嘆する。


 基本、戦いは騎士ヴェイロンがやってくれ、わたしは周囲の警戒とちょっとしたサポート(応援)に徹した。武器も防具も魔法もない女子高生では騎士様に守られるお姫様的な存在だから仕方ないよね、うん。


「ウソでしょう!迷ったって本当!?」


 ショックでまた意識を失いそうになるわたしを他所にヴェイロンは無視を決め込む。


「5日位で森を抜けられるっていうから頑張ってたのに、もー我慢できないよ~!!」


 わたしはあまりのショックに地面に転がりバタバタ暴れた。


「この魔獣の森海は入ったモノを決して出さない呪いのような悪意を持っていると言われる。そして滞在が長引くほど侵入者の匂いに引き寄せられ、我らの元に更に魔獣が集まってくることだろう。」


 ヴェイロンにそう言われると、魔獣に出会う頻度が徐々に高くなってきていることを実感する。


「そういうことは先に言ってよ~。もう、我慢できないっ!」


 本当に……我慢の限界だ。


「お風呂入りたいよ~!何日入ってないと思ってるのよーっ!!」


 こんなにお風呂に入らないことはいままで無かった。どんなに疲れていても忙しくてもお風呂は毎日入っていたのだから。


「くだらん。さっき脇道の先に泉があったな。貴様の小汚く小便臭い身体を洗ってきたらどうだ?フッ!」


 ショックに打ちひしがれるわたしに涼しい言葉の鞭を振るうヴェイロン。この騎士は口が悪いだけでそこまでの悪意は無いのだが……やはりムカツク!キーキー言うわたしに動物を追い払うような仕草でさっさと行けというジェスチャーをする。


 イライラするわたしはその泉にウキウキしながら向かった。泉の周囲に魔獣がいないことを確認し、次に泉の水の状態を確認する。水は澄んでおり、泉に手を付けると……ぬるい!?冷たい水を想像していただけに水風呂を覚悟していたが、何とぬるま湯!


 そういえば、木々の隙間から空に登る黒煙が見えたことをヴェイロンに尋ねると、この森海の奥に火山があると言っていたことを思い出す。ただ、その火山の奥には巨大な黒龍が住み着いており、近寄るものには無慈悲な終焉をもたらすと言われているらしい。触らぬ神に祟り無しといったところか。


 そうかそうか、火山の地熱で泉が暖められているのだろう。泉は場所によって温度が高いところ低いところがあり、丁度いい湯加減の場所はまさに温泉!わたしは躊躇することなく数日ぶりのお風呂に入る。


「ボディソープやシャンプー、コンディショナー、クレンジングがあればな~。ハァ~~~。」


 異世界にそんなものあるのだろうか?とてもありそうには思えない。異世界の人はどうやって洗っているのだろう?そんなことを考えつつ、お湯で身体や髪をすすぐ。それだけでも今は幸せに感じた。


「まったく、いつまで待たせるのだ!?」


 温泉に浸かるわたしの元にズンズンを近寄るヴェイロン。


「きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!ま、まだ入ってるから~~~」


「騒がしい!見れば分かる。まだ死んではいないようだな。」


 ヴェイロンは呆れた様子で言い放つ。


「ほう、温泉なのか。俺も入るぞ。」


 鎧のまま泉に入ってくるヴェイロン。わたしは身の危険を感じて湯に浸かったまま後退り。


「何故、逃げる?こっちに来い。」


「や……ちょっ!?いくら命の恩人でも……。」


「ほう、俺が命の恩人?ならば命令には逆らえないよな?」


「そ、そんな。わたしをどうするの!?」


「もう一度言う。こちらに来るんだ。」


 わたしは覚悟して……ヴェイロンのところに近づく。


「それでいい。さて……」


 ヴェイロンは震えるわたしの腕をつかみ引き上げると、力任せに荒々しく泉のほとりにわたしを放り出した!


「ふむ、キズモノにはなっていないな。では……始めるか。」


「え、始めるって……何を!?」


 言うや、ヴェイロンは泉に向かって大剣を打ち下ろす!見る見るうちに泉はどす黒く変色する。そこにはカエルに似た魔獣の死骸が浮かんでいた。


「何を勘違いしているんだ?恥ずかしいことでも考えていたか?痴れ者め。」


 わたしはその言葉に全身真っ赤になる。


「ヴェイロンの馬鹿っ!変態ーーー!!」


 ヴェイロン曰く、人間のしかも子供に欲情する訳がなかろうと嘲笑され、そういうのはせめて身体が発育してから言えと冷笑され……しばらく立ち直れなかった。


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


温泉っていいですよねー。温泉入りたいな~。(*´▽`*)


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毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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