第20話 オクラの花が咲くころ(要改稿)

オクラの花が咲くころ(要改稿)


じょんぎり、じょぎり、と山を切り、谷を切り、


 淡いクリーム色の傍らに女が降りたつ。およそ一世紀を過ごした谷や川、そして山と畝の狭間を童歌を口ずさみながら歩む。それは初秋の風にのり樹々をしならせこだまするひとつの歌。雨後に泥濘んだ土を喰い、風に吹かれ川を波立たせてきた。沢蟹が川へと向かう濡れた路で、麦の穂が刈り取られしごかれていたのはいつの日か。柿の実がたわわに鈴鳴り、女の弟がすっかり丸くなった背なかをさすりながら煙管を手に彼岸花を睨んでいる。彼の父が愛用していたガタが来始めた煙管から吐き出された煙りが、墓のほうに流れていった。やがて来る冬のまえに老女は幼児(おさなご)にそして、風に土へと還ったのだ。

 オクラの花がクリーム色をしてることを教えてくれたのは誰だったろうか? 男は畑に出るとその花が風景に溶けいるまで眺めてから、曽祖父が打ったという無骨な鋏でオクラを切り取った。育ち過ぎて硬くなったオクラを茹でながら男が流れていく川へ笹舟を一艘、風と名付けて解き放った。


それから鋏で山や風を切り取り、野山や町から助ける作業に戻った。じょんぎり、じょぎり、と。

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