チェイサーキャットは夜に嗤う
ふらっぐ
The water in the maze
水、水、水。まるで、羊水のように。
――――私の望みは、そんなにいけないことですか。
そう、少女は言った。
鈴の音のように美しく響きながら、それは、たった一人にしか届かない。そのたった一人さえ、その言葉には、いつも悲しげに、そして困ったように、微笑み返すだけ。
声なき言葉。声なき思い。声なき表情。
いつも、少女が発することができるのも、少女が受け取ることができるのも、それだけ。それでも少女は、声なき声で、その意思を伝える。
――――私は、自由になりたいのです。
それはさながら、声をなくした人魚姫のように儚く。
たった一人、その言葉を受け取ることができる青年の表情を、暗く曇らせる。それはまるで、今にも雨が降り出しそうな、悲しい、悲しい、顔。
――――なぜ、そんなに悲しそうな顔をするのですか。
少女は問いかける。
青年は答えない。
幾度繰り返したかしれない、このやりとり。
自分はいつからここにいるのか。それすらも忘れてしまった。
自分はいつまでここにいるのか。それすらも思い描けず。
自分はどこからここに来たのか。ここにいる以前にいた場所などあっただろうか。
自分はここからどこへ行くのか。ここ以外に存在できる場所などあるのだろうか。
それでも、少女は歌い続ける。
――――私の望みは、そんなにいけないことですか――――
――――私は、自由になりたいのです――――
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