ACT116 それは誰に対しての?
「あ、いたいた」
校舎の中庭に入ったところで、真白はベンチに座る二人の少女――友達である仁科朱実と八葉茶々の姿を見つけた。
今日の昼休みは、朱実と茶々と、茶々の付き人である紺本奈央と一緒に昼食を共にする予定であり、奈央はお手洗いに寄っていくので遅れるということで、真白は一人で先に中庭に足に運んだのが、
「…………二人とも、なにやってんの?」
中庭の四人分のベンチで場所取りしていた朱実と茶々の様子に気づいて、真白は、ようやく絞り出すかのように、その問いを発していた。
真白が、そんなに状態になってしまうのは何故か?
「あ、シロちゃん……!」
「はっ! お、遅かったわね、真白」
茶々が、朱実と手を繋いで身を寄せつつ、朱実の肩に自分の頭を預けていたからである。
真白の視線に気づいて、茶々は顔を赤くしつつ慌てて離れたものの。
先ほどの茶々の甘え方は、まさに付き合って数ヶ月経過したカップルといわんばかりのべったり具合であった。
つまるところ、普段の真白のポジションだ。
「し、シロちゃん、これはね。茶々様がシロちゃん達がくるまで元気を『補給』したいって言ってたからで、そのう」
「な、なによ朱実。朱実だって朝の『補給』が足りないからって、茶々が提案したらノリノリだったじゃない」
「う……それは、その、足りなかったのは事実だし、茶々様の『補給』もシロちゃんにはないものがあって、ついつい夢中になっちゃってたけど……」
「! や、やけに素直に認めちゃうじゃない。それをいうなら茶々だって――」
「……………………」
二人から出てくる言い訳も、これまたすごいイチャイチャっぷりである。
これには真白、自分の胸中が非常にモヤッとなるのを感じたのだが、
「……うん、まあ、これからもこういうことがあるって、割り切らないといけないわよね」
「ま、真白?」
「シロちゃん?」
「あたしと朱実は、二人で茶々様の想いに向き合うって決めたもの。茶々様が朱実とくっついてる時間もあれば、あたしと茶々様がいい雰囲気になる時間だってある。もちろん、前からもそうだったように、あたしにとっての一番は朱実だから、朱実と一緒にイチャつく時間も作りたい。となると、これは全部が全部、必要なこと……そう、必要なことなのよ……!」
「や、やけに早口になってるわね」
「でも……目の前で二人にこういうのを見せられると、やっぱり、あたしだって朱実ともっと『補給』したいし、抱き締めたいし、キスもしたいし、朱実を十分に堪能したい……! それでいて、茶々様の『補給』も気になったりもするの。茶々様のことを抱き締めたことは何回もあるけど、『補給』を意識したとなると、一体それはどういうものになるか……!」
「シロちゃん、欲望が漏れてる漏れてるっ! しかも手がワキワキしてるっ! なんだか怖いから、いったん落ち着こうっ!」
とまあ、二人に対して思うことをつらづらと並べていることで、朱実に止められてしまった。
深呼吸を促されたので真白はその通りにして、十数秒ほどかけてようやく気を落ち着かせることが出来たのだが、
「……まだ、ちょっとモヤモヤが止まらないわね」
「わ、悪かったわよ、真白。今度から少し自重するわ」
「謝る必要はないわよ、茶々様。この状況に慣れなきゃいけないのに、あたしが勝手にヤキモチを妬いただけだから」
「ヤキモチって……シロちゃん、この場合、誰に対してのヤキモチになるの?」
「え……」
朱実に訊かれて、真白、少しハッとなる。
目の前で二人のイチャイチャを見て、自然と、ヤキモチという言葉が出てきてしまったのだが、誰に対してかというのは考えていなかった。
だからこそ、真白はその答えを考えるのだけども。
「――どっちにもよ」
これもまた、自然と出てきた。
「あたしだって、朱実ともっとイチャつきたいし、茶々様とだって仲良くなりたい。だから、今この場では、朱実も茶々様も羨まくて……って、あたし、何言ってんだろ……」
そして、言ってるうちに、なんだか恥ずかしくなってくる。
顔に熱を持って、二人に目を合わせられなくなる。
それくらいに、真白の中の気持ちの波が、いろいろ止まってくれない。
これから、朱実と付き合っていきつつ、茶々の想いに応えていくには、こういう感情の制御も必要なのだろうか。先ほど、奈央に対して抱いた気持ちのこともあるし。
総じて考えると、難しくも思える。
でも。
きちんと一つ一つ、こなしていきたい。
そのように、真白が決意を固める中、
「……………………」
朱実と茶々が、二人して、顔を真っ赤にしながら呆然としているのに。
真白は、全く気づいていない。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「お待たせいたしました、皆様。すぐに準備を致しますので」
「あ……奈央さん、その、手伝うわ」
「? 真白様、如何されましたか? やけにボーッとしていられるようですが」
「な、なんでもない。なんでもないの」
ほどなくして奈央さんがやってきて、ベンチの前に敷物を敷いて昼食の準備を始めるのに、シロちゃんが手伝いをかってでた。
先ほどの余韻が残っているのか、シロちゃんの手際は微妙にぎこちないし、顔もまだ少し赤い。
そして。
その余韻で言えば、わたしも茶々様も同じことで。
「……なんというか、真白って本当に凄いわね」
「うーん……」
わたしと茶々様がくっついているのを見て、どちらもを想うあまり、どちらにも嫉妬してしまう素直さも然ることながら、その気持ちを吐き出したときの可愛さは……正直、破壊力が凄すぎた。
自分の中で限界を迎えなかっただけ実に重畳だったし、茶々様も、おそらくそう感じていたことだろう。
「はー……改めて、真白のこと好きになっちゃいそう」
「茶々様もそう思います? わたしも、ずっとそんな感じです」
「だから、ますます真白を茶々のものにしたくなったわ」
「む。茶々様、シロちゃんはわたしの大事な恋人ですから、譲りませんよ」
「わかってる。もちろん、朱実も茶々のものにするから心配しないで良いわよ」
「なっ……そ、そんなことを言って、奈央さんに怒られても知りませんよ。さっき、奈央さんとの昨日の出来事、とても愛おしそうに話してたじゃないですか」
「うん。だから奈央も含めて、全部茶々のものにしたい」
「全部って……」
「決めた。茶々は、大社長になると同時に、四人の幸せな愛の家庭を築いて見せるわっ!」
「茶々様も茶々様で、欲望が漏れ出してるっ!? ちょっと、もう、こういうのはシロちゃんだけでお腹一杯なんですけどっ!?」
訂正。
茶々様は、別のベクトルで限界を突破しそうな勢いだった。本当に、昨日一昨日まででは考えられない、茶々様の変化だ。
なんだろう。
自分の気持ちに素直になることって、いろいろ凄いことなのかもしれない。
……シロちゃんと茶々様の場合、かなり極端な気がするけどね。
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