ACT78 唐突に生まれる対決も、あるかも?


「黄崎桐子。あなたが、この学年のトップと聞いたわ」

「ん? ボク?」


 二学期の始業式からの、翌日の朝。

 今日も今日とて、真白は朱実と一緒に仲良く朝の登校をし、教室に入ったところで見た光景は。

 昨日、転入してきて、真白の友達になった元財閥のお嬢様である八葉茶々が――元より真白の友達で、女子バスケ部所属の長身スポーツ少女、黄崎桐子の席の前で仁王立ちしているところだった。


「茶々様と、桐やん? なんだかレアな組み合わせだね」

「一体何が……あ、奈央さん、事情を聞かせてもらえるかしら」

「はい。私でよろしければ」


 茶々の付き人である紺本奈央が、二人の会話の邪魔にならないように一定の距離を置いて後ろから見守っていたので、真白は彼女に事情を聞いてみることにした。


「この学校では、長期休暇から明けて数日で、五教科の実力テストが行われるのが恒例だとお聞きしております」

「ん、学期毎の実力テストだね。あー、これは内申には響かないんだけど、それでも、最近あんまり勉強してなかったな……」

「宿題が十日前に済んじゃってたからね。夏休み残り十日は、朱実とほとんど遊んでたような」

「お二方の事情はともかくとして。茶々様は、いずれ万堂グループを凌ぐ大社長に成られる御方。そこで手始めに――」


 と、奈央が、説明をしている傍ら。

 茶々は、席に座る桐子を見下ろしつつ、ビシィッと指さしながら、


「明後日の実力テスト、茶々と勝負してもらうわっ。転入早々、トップのあなたを負かしてあげるっ」

「おっ、勝負かっ。いいねぇ、なんだか燃えてくるよっ。でも、ボクも負ける気持ちはさらさらないよっ。返り討ちにしてくれるっ」


 わりと上から目線の茶々の叩きつけにも関わらず、桐子はわりと乗り気である。

 笑顔で席から立ち上がり、


「!?」


 今度は桐子が茶々を見下ろす番になる。

 桐子の身長は悠々と百七十センチオーバー。

 対する茶々は、朱実よりも身長の低い百五十センチ未満……否、下手をすれば百四十センチ台前半か。

 しかも、胸部の方も、茶々は茶々で身長のわりに立派だが、桐子はそれ以上に立派である。

 この圧倒的体格差に、茶々、思わず『うぬぅ……!』と呻きを漏らし、勝ち気な釣り目にちょっと涙を浮かべていた。ちょっと可愛い。


「な、何を食べれば、そんなにでっかくなるのよ!?」

「好き嫌いなく何でも食べると、誰でもおっきくなれるぞっ!」

「う……す、好き嫌い……」


 茶々、思い当たるところがあるらしい。真白には一瞬でわかった。

 桐子もそれを察したのか、にんまりと笑って、


「前哨戦は、ボクの方が優勢かなっ?」

「う、うるさいわねっ。大事なのはあくまで本戦よっ。あなたを必ずギャフンといわせるんだからっ」

「ふっふっふー、八葉さんがそこまで言うからには、ちょっとした罰ゲーム用意しとかなきゃだなっ」

「罰ゲーム?」

「ただ単に勝負するだけじゃ、面白くないだろっ?」

「……ふんっ、やってやろうじゃないっ。負けた方は、一つ、勝った方の言うことをなんでも聞くこと。これでどう?」

「いいねぇ。望むところだっ」


 何にでも噛みつく暴れ犬のように見上げる茶々と、のんびり余裕ながらも闘志を秘める牛のように見下ろす桐子。

 バチバチと、両者の視線の間に火花が……散っているのだろうか、これは。


「とまあ、こんな風に、茶々様が学年トップの黄崎様に挑戦状を叩きつけている次第でございます」

「……負けず嫌いなのはいいけど。罰ゲームって、そんな後先を考えないことをして、茶々様は大丈夫なの?」

「んー、茶々様、小学校の時はずっと百点取ってたからねぇ。頭はいいはずだよ」

「仰るとおりです。中学でも、七月まで通っていた高校でも、トップの成績は不動のものとなっております。ああ見えて、茶々様は努力をしておられますので」

「ほほう」


 大社長を目指すと豪語するからには、やはり努力で成績をよくしていると言うことか。茶々のそんなところも、真白は尊敬に値する。

 対するは、フィーリングでパーッとやってガーッとやる、天才肌の桐子。そちらも真白は凄いと思える。

 まさに、秀才対天才。

 真白にとっては、結構見逃せない対決だ。

 

「いやぁ、楽しみだなぁ。言っておくけど、ボクは小学生相手にも手加減しないよっ」

「誰が小学生よっ!? あなたこそ、覚悟しておくことねっ。茶々の前で地面をなめさせてあげるわっ」


 とまあ、関心を持っている最中にも、二人の前哨戦はまだまだ続いているようなので。

 ここは一つ、間に入っておくことにしよう。


「まあまあ、二人とも、そこまでにしておきましょう。後はテストの結果で語ればいいじゃない」

「あ、真白」

「シロっち、うぃーっす!」


 場をなだめようとする真白に、茶々と桐子は同時に反応して、


「真白はもちろん、茶々に味方するわよねっ。昨日、あれだけ茶々を敬ってくれたのだからっ」

「シロっち、ボク達、バスケで解り合ったり、オシャレを共有したりする友達……いや、もう親友だよねっ」

「……ええと」


 猛烈な勢いの二人の気迫によるプレッシャーに、真白は一歩引いてしまうものの。

 一つ呼吸して、気を取り直してから、



「――桐やんも茶々様も、あたしの大事な友達よ」



 今も、なおかつ普段からも思うことを、真白は口に出した。


「あたしは、二人がいい結果を出せるように応援してるわ」

『――――』

「だから、桐やんも、もちろん茶々様も、勝敗がどうであれ、これからもっと仲良くしてね?」

『………………はい』


 と、柔らかに笑いかけて言うと、二人とも同じタイミングで神妙な様子で頷いてくれた。

 心なしか二人の顔が赤い気がするが、まあ、場が治まったのであれば良しとしよう。

 真白、満足である。


「だ、だめだぞ。ボクには、おなつという大切な女の子が……!」

「また、胸の奥がチリチリするわ……何なの、この感情……!」


 なお、なにやら、二人が明後日の方向を向いてぶつぶつと呟いていたようなのだが。

 生憎と、その内容については、真白の耳に届くところではない。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 険悪、という感じではなかったにしろ。

 桐やんと茶々様の火花を一瞬で鎮めてしまうシロちゃん、スゴすぎない……?


「仁科様」


 と、わりと愕然となっているわたしに、今も隣にいる紺本さんが話しかけてくる。


「え、な、なに、紺本さん」

「乃木様は、いつもああなのでしょうか?」

「ああ、とは?」

「つまるところ、天然でいつも女子を落としにかかる、いわばハーレムラノベの主人公みたいな」

「……その例えは言い過ぎなようで、あまり遠くないのが、何とも言えないよ」

「左様ですか。ちなみに、仁科様は、乃木様に何回落とされたのでしょう? その辺りも気になるところです」

「……ノーコメント、だよ」


 本当に。

 わたし、シロちゃんに何回落とされたんだろうね。

 そして。

 あと、何回落とされるんだろうね。

 その辺はもう、数え切れないかも……。


「仁科様」


 と、アレコレ考えているうちに、またも紺本さんが話しかけてきて、


「だいたいわかりました」

「え、何が!?」

「だいたい、です。見るからにウキウキしておられましたので」

「ウキウキ!?」


 そんなに楽しそうなの、わたし……!?

 それだけ、シロちゃんにゾッコンなのか……と考えたら、否定できないのかもね。


 とまあ、シロちゃんの魅力はともかくとして。

 桐やんと茶々様のテスト対決の行方、わたしも気になるなぁ。もちろん、二人がやりそうな罰ゲームの内容も。

 ……わたし自身も、実力テストがあるから、その辺も含めて頑張っていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る