ACT17 みんな成績良くしたいわよね?
「んー……ちょっと、微妙ね」
五月も終わりを迎える頃。
朝のHRにて一年二組の面々は、先日行われた一学期中間テストの総合結果を、担任の教諭に渡されたのだが。
その結果が記されたシートを見て、真白は不服とも言える唸りを漏らした。
「シロちゃん、どうだった?」
「……ギリギリ、中の中よ」
前の席にいる朱実が訊ねてくるのに、真白は正直に答える。
学年240人中、総合152位。平均を下回りつつも、中間層にようやくへばりついているといった状態だ。
「赤点教科はゼロだから、補習受けなくていいんだけど……理数系なんかは、ホントにギリギリなのよねぇ」
「あー、わかるわかる。わたしも数学が結構足引っ張るんだよ」
「朱実もそうなの?」
「こんな感じで」
見せてくれた朱実のシートを見ると、学年総合92位と、それなりに良い位置に付いている。
ただ、朱実の言うとおり、文系科目はほぼ八十点以上と良好な点数である反面、理数系は点が落ちているようだった。
「おや、朱実さんに真白さん。浮かない顔をしているようですが、どうかいたしましたか?」
「あ、おなつさん」
「緑谷さん」
と、通りがかった奈津が、声をかけてきた。
手にはやはり、先ほど担任の教諭から渡された総合結果のシート。
「聞いてよ、おなつさん。わたしもシロちゃんも、数学がどうにも良くなくて」
「はあ。自分の場合、そこまで苦手というわけではないのですが、得意というわけでもないのですよねぇ。……数学だけでなく、全教科なんですが」
奈津の成績は、全教科が六十点代だった。
学年の総合順位も118位とほとんど真ん中。悪くもないが、特筆して良くもない。
「……なんというか、地味ね」
「し、シロちゃん!」
ついつい、真白が抱いた感想をそのまま言ってしまうと、朱実が咎めるような視線を向けてきた。
一方、奈津は自虐的な笑みを浮かべ、
「あ、いえ、それで合ってますよ朱実さん、真白さん。自分、どうにもこの通り、見た目も運動も目立つものが無く、学業の成績も無難でして……ふ、ふふふ……」
「おなつさん、しっかりして。シロちゃんもほら、謝って」
「た、確かに滅茶苦茶傷ついてるわね……ごめんなさい緑谷さん、謝るわ。この通り」
と、どよーんとした雰囲気が、三人の間に立ちこめようとしたところで、
「おおぅい、どうしたどうしたっ。みんな、暗い顔になってるぞっ」
明るい大きな声がやってくる。
三人揃って振り向くと、桐子が快活な笑顔でやってきていた。いつもテンションが高いけど、今日にいたっては殊更に高い。
もちろん、手には真白達と同じ中間テスト成績の載ったシート。
……もしやと思うが、
「桐やん、テストどうだった?」
「おうっ! 1番、取ったど――っ!」
高らかに宣言する。
そう。
身長百七十センチを超える背丈に、男の子みたいなベリーショートの髪と大味ともいえる細面、いつもハイテンション、女子バスケ部所属で体育では大活躍と、どうにも体育会系要素ばかり目立つ黄崎桐子だが。
学業の成績面でも、トップクラス……というか、今回に限っては文字通り学年トップの実力を発揮するのであった。
「桐やん、入学間もない頃の実力テストでも、とても良かったもんね」
「うんっ、元々はあんまり良くなかったんだけど、入学前からスカウトかけてきていた糸賀先生(女子バスケ部顧問)が、赤点取ったやつは絶対に試合に出さない方針だって言ってたからさっ。それを避けるために、高校入る前から勉強をガーッてやって、実力テストも今回の中間もバーッとこなしたら、いつの間にかこうなってたっ」
「ガーッやバーッでトップ取れちゃうものなの……ふ、不公平よ。運動も出来て、頭もいいだなんて」
「文武両道って、本当にあるんですねー、ははは……」
「なんなら、今度時間空いたときに、みんなにテストの勉強方法をガーッと教えちゃうぞっ! どうだっ!?」
「どうだって言われても……」
「ううん、自分達に合っていますかどうか、イマイチ不安が……」
桐子の提案に、朱実と奈津の反応は今一つなのであったが、
「是非、教えてもらいたいわね」
「えっ」
「シ、シロちゃん?」
真白は、一も二もなくその話に乗った。
今の成績で良いはずがないと思ってるし、幼少から今までずっと女手一人で育ててくれた母を不安にもさせたくない。
何より、次の期末で赤点なんて取ってしまうものなら、補習などで夏休みにも影響してして、朱実やみんなと遊ぼうと思ってた計画が水泡だ。
糸口があるなら、どんなことでも掴んでおきたい。
まして、学年トップからの手解きだ。是非もない。
「桐やん、いつ予定が空きそう?」
「うーん、次の日曜日は部活が午前までだから、日曜日の午後からでどうだっ?」
「大丈夫よ。結構時間がありそうだから、じっくり教えてもらいたいものね」
「おうっ。なんならシロっち、ボクの家、ガッコから近いから招待するよっ。マンツーマンで、手取り足取りしっかり教えてあげるっ」
「――――!」
と、『マンツーマン』というワード辺りで、朱実と奈津がビクリと肩をふるわせて、
「桐やんっ!」
「桐やんさんっ!」
二人揃って、鬼気迫る表情で桐子を呼ぶ。
その迫力に、正面にいる桐子はおろか、真白までもちょっと引いた。
「ど、どうした、アカっち、おなつ」
「マンツーマンといわずに、わたしにも、桐やんの勉強法、教えてくれないっ!?」
「自分も桐やんさんにご教授願いたくっ。いかがですかねっ!?」
「お、おう? ボクは別に構わないけど……どうしたんだ、二人とも。最初、気乗りしてなかったようなっ?」
『急に気が変わりましてっ』
最後は音程すら合った異口同音であった。
二人とも、いつの間にこんなにも仲良くなったんだろうか、などと真白は思ったのだが。
「いいじゃない。みんなで成績良くなりましょ」
「まあ、そうだなっ。みんな、楽しみにしててくれっ」
『…………ふぅ』
一人よりも二人、二人よりもみんなで勉強をする、というのも捗りそうに思える。朱実もいることだし、楽しさ倍増で言うことなしだ。
真白、今から休日が楽しみである。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
ううん、桐やんにその気がないとわかりつつも、ついつい反応しちゃったよ。
だって羨ましいじゃない、シロちゃんとマンツーマン。
……いつか、本当にそうできるように、もっと勉強頑張らないと。
それにしても。
わたしだけでなくおなつさんまで反応してたけど、おなつさんも、シロちゃんとマンツーマンを?
いや、普段の様子からは、そういうのはないと思うけど……うーん?
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