わたしの友達は躊躇わない
阪木洋一
ACT01 補給をすることによってもたらされる効果とは?
「シロちゃーん」
四月も半ばを過ぎた頃、そろそろ気候が暖かくなってきそうな緩やかな朝の通学路で。
今日も今日とて、
トレードマークのサイドポニーの髪を揺らしながら、真白はその声に振り向くと、
「おわっと……おはよ、朱実は今日も元気ね」
「えへへー」
たった今、声の主――
朱実は、真白が通う学校の中では一番の友達である。
クセのあるセミロングの髪。童顔で少し丸っこい頬は、子猫みたいな愛嬌があり、小柄で細っこい身体からは、彼女の体温がほのかに伝わってくる。
実は真白、彼女からやってくるこのスキンシップが結構気に入ってたりするのだが、
「ほらほら、いい加減離れなさい。歩きにくいでしょ。暑いし」
先述の通り暖かくなってきたことだし、こうも密着状態だと、どうにも体温が上がってしまうので。
真白は、やんわりと朱実のことを腕から剥がしにかかるのだが、
「ヱー、いいでしょシロちゃん、今朝は特にシロちゃん分を補給したくてですな」
「シロちゃん分って何よ」
「朝にこれが補給されることで、わたしは今日も一日フルパワーで頑張れるのだ」
「ということは、一日で切れるってこと?」
「そうだよー」
「じゃあ、休日の会えない日は、どうやって補給すんの?」
「うーん……想像」
「想像?」
「三十分ほど、クッションを抱えながら、シロちゃんのことを思い浮かべつつ、いろいろ」
「いろいろって、何してんの?」
「え? あ、いや、それはちょっと……ここでは恥ずかしくて、言えないかな~」
「なによ、聞かせなさいよ」
「と、とにかく。補給するには、本物に勝るモノはないのだ」
「うむぅ、気になるわね」
そんなこんなで、朱実は、どうにも離れてくれない。
本格的に暑くなってきたので、本気で引き剥がしてやろうか……とも、真白は思ったのだが。
「ん~」
「…………」
自分よりも十五センチ以上も背が低く、そのためか真白の肩あたりに頬擦りしている朱実は、とても幸せそうで、なおかつ、とても可愛い。
そんな彼女のことを見ていると、
……暑いけど、ま、いいか。
本心から、そう思えた。
そして、
補給か……あたしも、やってみるかな。
ふと、興味が湧いて。
そのように、考えた頃には。
「……え? シロちゃん?」
横からくっついてくる朱実の身体を剥がして。
正面に向き直って。
腕を広げて。
「!!!!????」
ぎゅっと、抱き締めてみた。
「……おお、これは」
柔らかい。
いつも朱実に抱きつかれてる時よりも、体温の伝わり方が段違いで、いろいろ心地いい。
「ふむふむふむ」
「あ、あ、あの、シロちゃん……!?」
しかも、鼻先をくすぐる朱実の髪の毛からは、ちょっといい匂いがする。
全部ひっくるめて、暑いとかそう言うのがどうでも良くなってしまうくらい、とても癒されてしまう。
「んーむ」
「その、え、え、えぅ……」
そしてその成分は。
包み込む腕と、密着する胴から、全身へ、頭から爪先まで、満たされていく。
「なるほど、これが、補給というやつか……」
「シロちゃん、みんなが、見てる見てる見てる……!」
朱実がいつもくっついてくる理由を、真白は今、存分に理解した。
補給、恐るべし。
「ふぅ」
三十秒ほど経っただろうか。
満足できた……というより、文字通り補給出来た気がするので、真白は朱実のことを解放するのだが。
「……あれ? 朱実、どしたの?」
一方の朱実、全身を真っ赤にして、口をパクパクさせながら全身を固まらせていた。
「いや、その……あの……」
「?」
「シロちゃん、大胆ッスね……」
いろいろ言葉が変になっていた。
言ってることの意味が、よくわからないけど……まあ、いいか。
「朱実」
「う? な、なに、シロちゃん」
「――あたしも補給が気に入ったから、たまにでもいいから、また朱実で補給させて?」
「!!!!!」
「いいでしょ?」
「………………はぃ、お、お願いします」
消え入りそうな声で呟きながら、コクコクと頷く朱実。
真っ赤な顔は相変わらずで、ほとんど機械的な動作だった。
何故、彼女がそうなっているかはわからないが……嫌そうという雰囲気でもないし、朱実が良いと言っているからには、良いのだろう。
真白、一安心である。
「っとと、このままじゃ遅刻しちゃうわね。早く学校行きましょ」
「…………うん」
「? 朱実、急に元気なくなってるわね。補給、足りなかったの?」
「え……い、いやいやいや、今日の補給は充分! もう充分どころか三十割増! 大丈夫!」
「じゃ、ボーッとしてないで、早く行くわよ」
補給効果で、いつもより気力充実。
さあ、今日も一日頑張ろう。
張り切る真白の足取りは、とても軽い。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
いつも、そう。
乃木真白は躊躇わない。
やりたいと思っただけで、なんでも実行する。
そんなシロちゃんのことが。
わたしは大好き。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます