第31話「恋のセンター争い」
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ライブハウスで
学祭で成功したとは言っても、わたしたちはまだまだ無名だ。
ひとつひとつのステージも大きなものではなく、客入りも望めない。
注目度の低さに打ちのめされることのほうが圧倒的に多かった。
だが、それでいいのだとプロデューサーさんとレンさんは言う。
学祭の成功はもちろん大切だが、それだけじゃダメなのだと。
わたしたちはもっと失敗しなければなならない。
挫折や落胆を衣装にして大きくなる、それがアイドルというものだからと。
理屈はわかる。
ははあなるほどさすがはプロですね、そう思う。
とはいえ、やっぱり閑散とした客席を見るのはそれなりに滅入るものがあるわけで……。
「やーっ、今日もあんまりお客さんいなかったねー」
ステージ衣装から制服に着替え終えたわたしは、ハアと重いため息をついた。
デパートの女性従業員さんの控室には、休憩時間外ということもあってかわたしたち3人しかいない。
「修行だとはわかってても、なぁんかへこむものがあるよねー」
「ああ? 学祭の時が異常だっただけだろ。本来こういうもんなんじゃないのか?」
スポーツドリンクを飲みながら
「プロでもなんでもないあたしたちのステージを見ようなんて物好き、そうはいないだろ」
さすがのサバサバ加減。
「なぁに言ってんのよ。あんたたちは」
バッグを肩に掛けた一恵ちゃんが吐き捨てるように言った。
「志が低いのよ、志が」
「うはあ、一恵ちゃんは厳しいねえー……」
「志だあー? 新人のくせに口だけは達者だなあおまえは」
「新人だからでしょ。ルックスで負けてるつもりはないけど、経験の差ばかりはいかんともしがたい。しかもわたしは笑顔もレスも苦手だしね。あなたたちに追いつき追い越そうと必死なのよ」
ロッカーをバタンと閉じると、一恵ちゃんはわたしをにらみつけた。
「特にあなたにはね、高城恋」
「え、ええーっ? わたしなのおーっ?」
「おいケンカは」
「ケンカじゃないわよ。ライバル宣言。やるからにはわたし、チームのセンターになるから」
たった3人のチームとはいえ、センターとウイングの区分けはある。
このチームではわたしがセンターで、忍ちゃんがライトウイング、一恵ちゃんがレフトウイングだ。
序列もその順番であり、つまり一恵ちゃんはチーム内で一番下の地位にいるということになる。
「え、ええと……3人しかいないユニットで、あまりそういうことはしないほうがいいと思うの。みんなで仲良く、結束を強めていったほうが……」
「あなたはそれでいいでしょうね。プロデューサーのお気に入りだから」
一恵ちゃんはむっとした表情で言った。
「でも、わたしは嫌よ。にこにこ仲良く馴れ合いなんてまっぴらごめん。……そうだ、ついでだからプロデューサーにダメ出ししてもらいに行こう……」
「おおーっとっとっと! そうだったそうだったあー! なあー関原あー!」
ひとりその場を去ろうとした一恵ちゃんと無理やり肩を組むと、忍ちゃんはやけに大きな声を出した。
「あたしも今回、納得いかない部分がいくつもあったんだあーっ。なあ、だから納得いかない部分をウイング同士で指摘し合わないか? なあ、そういうのって有益じゃないか?」
「そ、それはそうかもだけど……なんであなた急に……っ」
突然の忍ちゃんの変貌に戸惑う一恵ちゃん。
「おおーっ、OKってことかあー? なぁら良かったー。じゃあさっそく、学校に戻ろうぜー」
「い……いいけどなんであなたそんな急にぐいぐい……っ?」
忍ちゃんはバチバチッとこちらにウインクを寄越したかと思うと、一恵ちゃんを押し出すように控え室を出て行った。
残されたのはわたしだけ。
「あれ? これってもしかして……」
(言ったでしょ? 身近にいたほうが管理がきくって)
「いやでも、今のは全部忍ちゃんの後押しで……」
(そーよーところも含めて、よ)
プロデューサーさんとふたりきりになれるチャンスを、レンさんが祝福してくれた。
「なるほど、参考になるなあー」
(ふっふっふっ、伊達に長い間一緒にいないからね)
ドヤ顔になる(たぶん)レンさん。
(……ホントーにね、大変だったんだからあー……)
「な、なるほど、参考になるなあー……」
目からハイライトの消えてる(たぶん)レンさんに感謝しながら、わたしは控え室を後にした。
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