第10話「Girls,be ambitious!」
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「さ、準備運動は済んだな? ならまずは最初の曲だ。ガルエタの『Girls,be ambitious!』。紅白なんかでも使われた曲だから聞き覚えがあるだろ?」
「はいはい、ありまーすっ」
「いきなり踊るのかよ。普通こういうのって、基本の型を一通り練習するんじゃないのかよ……」
「仙崎の指摘はもっともだ。基本をやらずに応用はない」
「だったらさあ……」
「今日のところは、だ。まずはアイドルのダンスというのがどういうもので、どんな局面で使われる技術なのかを体で感じてもらいたいと思うんだ」
「あー……なるほどね。まずは組み手で感覚を掴め的なことか……」
自分なりの言葉に変換することで納得したのだろう仙崎は、改めて周囲を見回した。
「ちなみにこれ、何を手本にするんだ? ここにあるのはCDラジカセとハンディカムだけじゃんか。恋とあんたはともかく、あたしはちょっと耳にしたことがある程度なんだぞ? DVDプレイヤーのひとつも無しじゃどうしようも……」
「ん? ああー、それはだな……」
ゴホンと咳ばらいをすると、俺は自らの体育着を差し示して見せた。
「──手本は、俺だ」
直後、ふたりの驚きの声が辺りに響いた。
「ええええええええっ!?」
「はあああああああっ!?」
人情の
ダンスや歌に関しても、ひと通りのことは出来る。
トレーナーさんの都合がつかない時などは、俺がアイドルたちにレッスンをつけることだってあったぐらいだ。
「さあ行くぞ。ついて来い。『Girls,be ambitious!! 少女よ大志を抱け!』」
「え? ええ……っ?」
「うおお……マジか、こいつ男のくせにホントに踊れてやがる……っ」
「『名声なんかいらない、チヤホヤなんかされなくていい』」
「す、すごい、フリも歌も完璧ってうわわわわ……っ?」
「お、おい恋、大丈夫か……っ?」
体の出来ていない恋は何度もふらつき転び、体は出来ているけれど勝手がわからない先崎はひたすら振り回され続けた。
一曲通しで踊れるようになった頃には、ふたりともボロボロになっていた。
「では個別の動作を解説していく。まず最初。ふたりが中央で並んで直立し、下を向いている状態からパッと足を広げ、同時に天を指さすところだ。静から動へ、と言ったらわかるかな? なるべくメリハリを意識してほしいところなんだが……」
立ったまま解説を続ける俺を、ふたりはベンチに座り放心したように眺めている。
「……なんかこいつ、キモい」
「何言ってるのっ、かっこいいじゃないっ」
「いやだって、男のくせにアイドルの曲の歌も踊りも完璧ってのがそもそも……」
「わたしたちの活動のために覚えてくれたんでしょっ? それってすごいことじゃないっ」
「本気で女みたいな裏声出せる男とかさあ……」
「練習で裏声出せるんだって、わたし初めて知ったっ。すごすぎて、正直感動してるぐらいなんだけどっ」
「……なあ恋。あんたちょっと、こいつのこと好きすぎないか?」
「すすすすす……!? なななぁにを言ってるのかな忍ちゃんはあああーっ!?」
パンパンと手を叩くと、俺はふたりの無駄話を止めた。
「それだけ騒げるならまだいけるよな? 時間にも余裕あるし、今教えたことを念頭に置いてやってみようか」
「えっ……?」
「げっ……?」
ふたりは硬直したが、俺は構わず立たせた。
「この曲は予選会の
「セットリストって……いったい何曲覚えなきゃいけないんでしょうか……?」
恐る恐る、といった感じの恋。
「予選会の予選が2曲、決勝が3曲。本選の予選が3曲、決勝が3曲だ。単純計算だと11曲だが、かぶりが『Girls,be ambitious!』と『戦う女の子』で2曲あるから、全部で9曲程度だ、楽勝だな」
「きゅ……っ!?」
「……なるほどなるほど、あんたはそういうタイプの人間なんだな? わかるよ、そういうの嫌いじゃない」
硬直する恋と、体育会系らしい納得をする先崎。
「ようし、納得いったところで始めるぞー」
リモコンでCDラジカセを操作すると、俺は再び所定の位置についた。
直立状態で、顔だけをうつむけた。
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