「張り出し」

工場跡地の電柱前に一人の女性が佇んでいた。


枯れかけた花束や色の褪せたお菓子の箱を見つめる、

二十代半ばの疲れた顔の女性。


彼女は電柱の下を見つめていたが、やがて紙袋から一枚の紙を取り出すと

近くの掲示板にポスターを張り付ける。


「探しています。

 百坂修(ももさかおさむ)、年齢:8歳(当時、小学二年生)

 服装:水色のパジャマ、持ち物:スマートフォン(赤色のカバー)

 8月16日から行方が分かっていません。

 活発な子です。情報がありましたら近くの警察署まで。」


それを張り終えた時、女性の背後で大きな音がした。


廃工場を解体する音。

ようやく行政が動き出し、工場の解体に着手した音。

業者がユンボを動かし工場を更地にするために動き回っている。


その音を聞きながら、女性は立ち上がると紙袋を持つ。


あと数か所、張り出しに行かねばならない。

一刻も早く、あの子を見つけないと。


そして歩き出す母親の足音をかき消すかのように、

瓦礫の崩れる音が辺りに響いた…

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