「逃亡」

雪解けの山道を正田貞治まさださだはるは逃げていた。


二輪バイクのアクセルは全開で、時速はすでに100キロを超えている。

目の前には友人である剛元剛ごうもとつよしの姿もあるが、彼もアクセルを全開にし、

追ってくるものから必死に逃げている。


貞治はちらりと斜面に広がる木々を見て…後悔した。


そのあいだを縫うように走る獣がいた。

見てくれは巨大な白銀のイノシシにも見える。


だが、鼻にあたる部分が扁平で

鹿のような角が頭の左右から生えており、何よりその顔は…


貞治は後悔する。山に入ったことを後悔する。


そう、自分たちは入り込んでしまったのだ。

入ってはいけない聖域へ、立ち入り禁止の場所へ。

しかしもう遅い、あれは付いてきてしまっているのだ。


そして貞治は獣を振り切ろうと、急カーブに備えた…

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