アイナを繋いで


 

 俺達はモンスターを狩りながら、広いマップの未踏破の部分を埋めていた。


 一応、生成ポップの循環を良くする為に、今のところ倒す必要のない狼も小熊も倒している。


 オートボットは体感では一番出現のしにくいモンスターではあるが、何だかんだで結構湧いてくれて、狩りを始めてから錬成石オークラントは12個集められた。


 少ないっちゃあ少ないが、オートボットの出現率と錬成石オークラントのドロップ率から考えればまぁまぁ集められた方だと思う。


「悪ぃ椿。少し落ちるわ。すぐに戻ってくるつもりではあるけどな」


「わかった。それなら戻ってくるまで安全エリアで待ってるから」


 順調な狩りではあったが、だいだいに少し聞きたい事があって俺は椿と共に安全エリアまで向かい、一旦ログアウトすることにした。


「なんだよだいだい。もうアウトしてたのか。早ぇな」


 そうは言ってみても、椿と出会ってもう一時間半は経ってるか。

 さすがにボスが倒せない、レベルが上がらないんじゃあ、他区域レギオンのプレイヤーのやることなんて現状ないようなもんだ。


「だいぶハマっているようだな、柏木」


 ソファでくつろいでいただいだいは、俺に気付くと片手を振って声を掛けてきた。


「うん、まぁな。……なぁだいだい、特定の奴とゲームの中で連絡を取り合いたい場合ってどうすればいいんだ?

 フレンドになっていてもメッセージが飛ばせなきゃ、あんまり意味ないよな?」


 せっかく誰かとフレンドになれても、インしているかいないかのオンラインステータス位しか情報がわからない。


 インしたらメッセージくれとか、そんな簡単なやり取りでも出来ればなと思い、だいだいなら何か知っているのではないかとこうしてログアウトしてきた訳なのだが。


「む、そうか。柏木のUPCのアイナと、『カラミティグランド』のリンクはまだしていなかったし、教えてもなかったな?」


「初耳だ。絶対やってないと思う。なんだそれ?」


 ……だいだいからの説明によると、プレイヤーがUPCから起動しているアプリの内部でメッセージの類のやり取りの処理というのは、基本的にAINAがやってくれているという。


 俺とだいだいが使えている機能というのは、UPC間でのフレンドリンクを伝い、電脳空間を介して行っているやり取りの為、AINAと『カラミティグランド』をリンクさせる必要は無かった。


 ところが、フレンドリンクを行っていないUPC間、というよりプレイヤー間での『カラミティグランド』内部でのプレイヤー間のメッセージのやり取りというのは、完全にAINA頼みとなってしまう。


 本来であればAINAが伝達役メッセンジャーとなってくれるところを、その伝達役メッセンジャーであるAINAが『カラミティグランド』とリンクされていないと、そもそもAINAが『カラミティグランド』の世界へ伝達役メッセンジャーとして来られない、という訳だ。


 アプリである『カラミティグランド』からAINAが閉め出された状態。それが今現在、向こうでメッセージを使えない理由となっている。


「なるほどね。なら、今からリンクさせればメッセージ機能が使えるって事」


「そう言うことだ。説明するのを忘れていた、すまん」


「別に構いやしねぇよ。もう少し向こうで狩りをしてくる。戻ったら飯でも食いに行こうぜ」


 納得できたところで、早速AINAと『カラミティグランド』をリンクさせるためにUPCへと向かう。


「あぁ。……あっ、ちょっと待ってくれ惣っ!」


 そういえば、コイツ咄嗟に俺を呼ぶとき下の名前で呼ぶよな。無理せず惣で統一すりゃあ良いのに。

 ソファから飛び起き、俺の元へとだいだいは駆け寄って来る。


「ん? どした?」


「これを見てくれ」


 向けられただいだいのスマホの画面に映されていたのは、『カラミティグランド』の公式サイトのページだった。


「公式サイトだな。これがどうしたんだ?」


「よく見ろ。ここだっ」


 だいだいが指を差しているそこには、恐らく『カラミティグランド』の全プレイヤーが待ち望んでいたであろう一文が記されていた。


『チュートリアル終了及び、正式サービスVer.1.01へのアップデートのお知らせ』


 と。えっ? どういうことだ? いや書いてあることの内容は理解出来るが。


「まだユニークルーツ持ちは俺を含めて四人しか確認出来ていない。今の間に残り三人のユニークIDが生成されたのか?」


 だいだいは画面をタップして詳細な情報を開いてくれた。


「わからん、だがこの情報の更新日付は今日のものだ。こう書かれてるということは、そういうことなんだろう」


 ちょっと腑に落ちない部分はあるけど、こればっかりは仕方ない。

 嫌でもその内ユニークルーツ持ちの全員と顔を会わせることになるだろう。


 開いたページには長ったらしい文章が綴られていたが、簡単にまとめると三つの事が書かれていた。


 ・ユニークIDの生成が完了したこと。

 ・来週の今頃を以て、アップデートのため一時的にログイン不可となること。

 ・アップデートの完了日は約一ヶ月後ということ。


 の三点だ。まぁ何も複雑な事はない。

 ちょうど一週間後である、来週の今日までは一応のプレイ期間が設けられていて、それを過ぎると一ヶ月ほど『カラミティグランド』はプレイが出来なくなるよ、ということ。


「うん、まぁとりあえず理解できた。一ヶ月後になるけど、ようやく向こうでご対面できるな。だいだい」


「そうだな。俺は青の区域レギオンに所属している。まずは俺の所に来てみるか?」


 まぁ、だいだいの居る区域レギオンに回った方が、このゲームを上手く立ち回れると思うのは確か。


 ……だいだいが区域レギオン内でコミュニティをきちんと築けていることが前提になるけどね。


「うーん……。それも一応、頭にあるんだけどな。

 だけど、とりあえずは一番弱小そうな区域レギオンに付いてやりたいんだよね。このレースは拮抗してた方が絶対面白いだろ?」


 特定の区域レギオンだけに集中して肩入れするような事はしたくはない。

 ルール上、そういった特定の区域レギオンの専属にはなれないようにはなっているけど、前回の期間に味方だった奴が次の期間に敵に回るっていうのも、なかなか面白そうだ。


「……なるほど。確かに一理ある。となるとまずは柏木とは敵同士ということになるな」


 だいだいのパーティに全力でこっちのパーティを潰しに掛かられることもあり得る訳か。面白ぇ。


「そうなるな。負けねぇよ」


 だいだいにそう言い残した俺は、改めてUPCへと向かい、腰を掛けた。


「アイナ、『カラミティグランド』との接続を頼む。……でいいのかな?」


「畏まりました。インストールされているアプリケーション、『カラミティグランド』とのリンクをスタートします」


 さて、これで接続作業が終了すれば、フレンドになっているコット、レベッカ、椿の三人とはメッセージで連絡が取り合えるようになる。


 因みにだが、UPCを自身でセットアップする時に、付属されているスタートアップマニュアルという取説のような物に目を通している者なら、誰でも『カラミティグランド』とアイナはリンクしているともだいだいは言っていた。


 人によっては、アイナを一人の人間のように感じる人も居るようで、他者とのやりとりをアイナに覗き見られているように感じるという声が多からずだが寄せられた為に、オートリンク機能は初期ロット以降のUPCではオミットされている。


 これによって、起動アプリとアイナのリンクは使用者自身で設定するものとなったらしい。


「…………リンクしています。……………………リンクが完了しました。このまま『カラミティグランド』を起動しますか?」


 お、意外と早い。というかすぐ終わったな。


「あぁ、頼むよ。うし、じゃあ行くか」


「畏まりました」


 あまりだいだいと長話はしていないつもりだが、椿はまだ待ってくれているだろうか。

 コットと、レベッカもインしてれば一度全員でリザードサイスとバトりに行きたい。


 俺としちゃあ、リザードサイスからドロップ出来る防具のシリーズを揃えて、来週からのアップデートを迎えたいところ。流石にそこまではちと強欲過ぎか。


「よ、椿。コットも居るじゃないの。さ、リザードサイスと一戦やり合いに行くぞ」


 エリアインすると、椿はそのまま待っていてくれたっぽい。その隣には俺と入れ違いだったのか、コットも居た。


 椿とコットの間では意外と会話が弾んでいる。俺に気付いているかいないか謎な二人へと、近付きながら声を掛けた。


「コットと話してた通りだったね」


「は、はいぃ。覚悟はして来ましたけど……」


「なんだ? 俺の悪口でも言っていたのか?」


「うん」


 即答。ひでぇ。


「少しは否定しろよなぁ!?」


「ちっ、違いますよぉ!」


 まぁ、コット「は」性格上、それはないと思うけど。


「知ってるよ、コット。で、椿とはどんな話をしていたんだ?」


「あ、はい。えっとですね、ソウキさんは戦うことが大好きだっていう話を椿さんとしていました。

 きっとこの後、リザードサイスと戦いに行くって言うんじゃないかなー、という話も」


 まぁ、こんなゲームをやるような男は全員、戦闘狂って言ってもいいくらいの戦闘大好きマンだろ。


「武器がす~ぐオシャカになるクセに戦闘狂だって。ウケる~」


 ニヤけた椿が口に手を当てながらそんな事を言う。

 クッソこいつぅ……! 煽ってきやがって……!


「つ、椿さんっ。ひどいですよ!」


 この二人が俺に振り撒くのは塩と砂糖である。

 もちろんコットが砂糖で椿が塩だ。塩の方は許さん。


「……ほら、行くぞ。来週の土曜になったら全員、一ヶ月くらいプレイ出来なくなるんだからな」


 くだらない茶番はここまでで切り上げて、俺達はパーティを組み、リザードサイスの元へと向かっていく。

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