「姫」と名前に入っているやつは大概ロクなのが居ない。―3


 

「ブルーウルフサーベル……??」


 幾度かの戦闘の後、リザルト画面を眺めながら、訝しげな声で椿はそんな事を言う。


「お。ついに手に入れたか? 狼を狩りまくってたのは、椿にそいつを手に入れて欲しかったからなんだ」


 俺のリザルト画面にはブルーウルフサーベルのテキストは無い。

 ここでわかったのは、同じパーティに居てもドロップアイテムの入手は個別。という事だ。


「そうなの? ……あ、ありがとう。早速装備してみようと思う」


 なんでコイツこんな気恥ずかしそうにしてんだ。


 それはともかくとして、ブルーウルフサーベルは、俺もだいだいとトレードをするまでは持ってはいたが、装備は出来ないしトレードに出しただいだいは別区域レギオンだったりと、結局のとこせっかく手にしていたそのレア武器の姿を拝むことが出来ずにいた。


 そんなブルーウルフサーベルの姿を目にする機会がこんな形で回ってくることになるとは思わなんだ。

 別に自分が装備する訳ではないけど、ちょっとだけワクワクしている。レア武器って罪だよな。


「おぉ、なかなかに目立つな。ちょっと抜いてみてくれよ」


 メニューをいじっていた椿の左腰に、青みがかった白い鞘が現れた。

 鞘だけ見ても、「あぁ、レア武器っぽいね」と感じられるほど、無骨感はない。


「……うん」


 ――涼しげな、鉄と鉄の擦り合わさる音。


 柄から鍔まではそこまで目を引く何かはない。が、目玉はやはりその刀身だ。

 僅かに曲線を描きながら伸びる蒼い刀身は、普通の刀剣のような見た目の重たさを全く感じさせない。


 ただ凛として、がちゃがちゃせず、だけどもきっちりと命を刈り取る形をしている。


 手元の柄から刀身の先までの絶妙な色加減、細さ、長さが、椿の青い髪と相まって、ブルーウルフサーベルを鞘から引き抜いた後の椿という一つの全体像を造り上げている。


 まるで椿というキャラクターが握る為だけに在るような武器だ。

 こう言っちゃあアレだけど、だいだいには似合わねぇよ。まぁだいだいがどんなキャラクターを作ってるかはわからないけどな。


「どうだ? 振った感覚とか、重さとかは」


 どんなに優れた武器でも、やっぱり自分の手に馴染まなければその性能を百パーセント引き出す事は難しい。


「うん、丁度いいと思う」


 椿はブルーウルフサーベルを幾度か振ってみたり、突いたりして満足したのか、刀身を鞘に納めた。


「そうか。椿に良く似合ってる武器だと思うぞ? しばらくは大切に使ってやるといい」


 また過剰反応されて突っ込まれっかなーと思ったけど、そう思うよりも先に口が動いていた。


「そう、かな。似合ってるといいな」


 え? 何その反応に困る反応。それはそれで恐いんだけど。……まぁいっか、似合ってるよ。


「さて、椿に手に入れて貰いたかったレア武器も取れたことだし、今度は俺のお目当てを集中して獲りに行くぜ」


「それはいいけど……。何が欲しいの?」


 あ、そういえば椿には俺の本来の武器である錬成武器をまだ見せてなかったっけ。

 ……一個くらいは無駄遣いしてもいいか。


「こいつを生み出す為の素材さ。なかなか綺麗なもんだろ?」


 錬成した武器を椿に見せてやる。今回は直剣ブレードタイプのものだ。


「何だか、ガラスで出来てるみたいね。ヘナチョコそう」


 くっ……。こいつ……! なんて事を言いやがるっ!

 さすがの俺も傷付いたぞ! 耐久性には確かに難ありだけども……。


「この野郎言いやがったな!?」


 あまり使ったことのない不慣れな直剣ブレードではあったが、遭遇する敵を颯爽と(?)一撃で全滅させた俺は、どうだと言わんばかりに椿へ向けて錬成武器を振ってみせた。


「え? もう壊れてるの? それ」


 ……迂闊だった。自慢気に振ってみせたそれの刀身は、見事に折れていた。

 得物がいつもより長い分、露骨に折れていると誰から見ても一目でわかる。


「そうなんです……。だから、これの素材を沢山集めるんだよ」


「……やっぱり、ヘナチョコじゃない」


 返す言葉もない。……いやまだ錬成石オークラントのランクは低級。

 これが上級にもなってくれば、火力も強度も上がって錬成武器はレア武器なんて目じゃない程の強力なウェポンになってくれるはずだ!


「そう言うな。まだ武器を一つしか手に入れた事がないから確証はないが、俺は初期装備以外の武器を装備できない可能性がある。

 そうだった場合、詰まるところはこれが俺のメインウェポンになる訳なんだ」


「なるほどね」


 くそ……。なんだか椿の腰に差されたブルーウルフサーベルが少し憎らしいぞ。


「まぁ、こんな風に制限はあるし若干の手間もあるものの、火力は申し分なく高い。

 使うのは錬成石オークラントってアイテムなんだけど、それを落とすのはオートボットなんだ」


「それ、錬成石オークラントを使ってるの?」


「そうだけど?」


 それも説明してなかったっけ。


「あげようか? あげ方はわからないけど」


 ……椿って口は悪いけど、何気に良い奴だよな。

 名前に「姫」って文字を入れてる奴って大体がロクでもないんだけど、椿にはそういう奴にありがちな嫌らしさを感じない。


 まだ出会ったばかりだから何とも言いよう無いけど、これが本性なれば非常に珍しいパターンだ。

 ただ、ありがたい申し出ではあるが残念ながら、トレードをするしか今は物々交換をする手段が無い。


「チュートリアルが終わるまでは、物品の交換は出来ないっぽいぞ。気持ちだけ受け取っておくよ」


 出来れば錬成石オークラントだけじゃなくて、バフ毒虫とかも多く持っておきたいんだけどな。


 椿と居る内はそれほど高い効果のあるアイテムには感じないけど、案外とバフ毒虫一つで決まる勝負なんてのもあるかもしれないからな。


 ……相手にとっちゃたまったモンじゃない決定打だけどな。アイテムの名前的に。


「はぁ……。なんかこう、もっとガーッと錬成石オークラントを大量入手できる手段とか無いものかねぇ」


 俺はついつい、オートボットからの錬成石オークラントの入手率の悪さからボヤいてしまう。


「ラクしようとしたらダメでしょ。ゲームは地道の連続だとあたしは思ってるけど」


 ド正論過ぎて何も言えない。俺泣いちゃう。

 レベル然り、レアドロップ然り、強化然り。ゲームに詰め込まれた要素は常に地道の連続だ。


 しかもその積み上げた地道な努力は、人生のクソの役にも立たないときた。


 ゲームをやらない人間からすれば、「なんでそんな事してるの?」って言いたくなるような事の連続で、俺達のやっている娯楽は成り立っている。


「そうなんだけどな? はぁ……。また出ない。しょっぱいなぁ……」


 悲しみに暮れる俺を嘲笑うかのように、オートボットは錬成石オークラントを落としてはくれない。

 因みにだが、小熊から釣り餌がドロップすることがわかった。


 あー……。釣りしたい。

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