童貞ですが悪役令嬢に転生したので処女を守りつつ破滅を回避します
熱物鍋敷
プロローグ 悪役令嬢に転生するとのこと
「セルベリア殿、私と付き合っていただけませんか?」
「絶対ヤダ! 断固、拒否する!」
日当たりのいい屋敷の中庭で片膝をつきながら求愛する男性に、俺は冷たく言い放った。まさかこんなフラれ方をすると思わなかったのか、男性は顔をヒクつかせたまま固まっている。そんな彼を放置して、俺は中庭を後にした。
屋敷の食堂に向かうと、茶髪のメイド、カリナが
「何かお召し上がりになりますか、お嬢様?」
笑顔で丁寧に尋ねてくるが、頭の上には『好感度-20%』と表示されている。
その表示を見て、俺も思わず顔が強張る。
「いや、いいです。自分で用意します」
「は、はあ……」
キョトンとするカリナを尻目に、俺は隣の厨房に行き自分で飲み物を準備する。慣れない手つきで茶葉にお湯を注ぎながら、俺は自分の身に起きたことを思い返していた。
何故、こんなことになってしまったのだろう?
「こんにちは!
20歳の誕生日、エロスの神と名乗る女性が突然部屋に降臨した。
エロスの女神と言うだけあって、なかなかエロい服装だ。
「童貞のまま20歳を迎えた、彼女いない歴20年のかわいそうな非モテの男性を救うためやって参りました」
「口悪い! この女神、口が悪いなあ!」
エロスの女神は、俺の心を大いにエグりながら提案をしてくる。
「あなたに選択肢を差し上げましょう! 一つは今のままモテない惨めな人生を続けること。もう一つは『モテモテ』の存在に生まれ変わって、『ゲーム』の世界に転生すること」
「ゲームの世界?」
「ええ、ファンタジーな世界ですよ? ゲームと言っても、どう生きるかはあなた次第ですけどね」
随分と魅力的な提案である。
ファンタジーの世界か……。RPGの世界かな? 魔法とか使ってみたいなあ。しかもモテモテだって。
もう、女の子を
「どうせ転生するんでしょ? 早くしろよ」みたいな女神の顔に腹が立つけど
まあ、今の人生そのまま歩んでも、つまんないしなあ。
「分かった。じゃあ転生するわ」
「OK! バラ色の人生を!」
こうして俺は二つ返事で転生してしまった。
正直、早計だった。
おいしい話には裏がある、とはよく言ったもの。
俺の転生先は、乙女ゲーム『ローズマリアージュ』の悪役令嬢
セルベリア=バローズネルだった。
なるほど、確かにゲームの世界でモテモテの存在だな。
乙女ゲーの悪役令嬢だけどな!
つーか、女じゃねえか!
どうすんだよ!?
童貞のまま処女になっちまったじゃねえか!?
ついさっきだって、彼女ができる前に彼氏ができるところだっただろうが!
いや、そんなことより……
「お、落ち着け……」
俺は震える手で紅茶を注ぐと、食堂に戻りイスに腰をかけた。
淹れたばかりの紅茶は口元に近づけると、良い香りがする。
これは良い茶葉ですね。
よし! まず落ち着いて状況を整理しよう。
この『ローズマリアージュ』というゲームは、普段乙女ゲームをやらない俺でも知っている。
乙女ゲームとしては異色だからだ。
そのシナリオの特徴は『悪役令嬢、ざまあ!』の一言に尽きる。
主人公の敵役、セルベリア=バローズネルはティルシナ王国の侯爵令嬢だ。
黒髪麗しい美貌の持ち主で、婚約者がいるにも関わらず求婚者は後を絶たない。
ただし性格は傲岸不遜、傍若無人、腹黒く計算高い。
男の前では借りてきた猫のようであるが、裏で主人公をイジメぬく嫌な女だ。
嫌な女だが……
「ほんと、ボインだよ」
俺は視線を下に移す。
鎮座まします2つのお胸は、大きすぎて下が見えづらい。
容姿だけは文句ねえんだけどなあ。
状況がひっ迫していなきゃ、自分の体で楽しみたいところだが。
さて話がズレたな。
主人公の話だ。
主人公のシルフィーヌ=クローズウィッシュは貧乏貴族の娘。
いつもその身分を馬鹿にされたは、セルベリアにイジメられている。
健気で素朴な性格の彼女は、努力を重ねて周囲の信頼を勝ち取り
最終的には、この国の王子に見染められて無事ゴールイン。
幸せな人生を歩むこととなる。
これはエンディングの1つに過ぎないが、グッドエンドだ!
いや、グッドエンドじゃねえよ!
問題は、敵役のセルベリアの末路だよ!
恋愛シミュレーションだから、主人公の選択や行動で状況が変わるのだが
セルベリアの末路は、どれもロクなものじゃない。
パパ逮捕からのお家取り潰しを経て、路頭に迷うエンドとか
シルフィーヌに恋する男に刺殺されるエンドとか
お妃になったシルフィーヌの靴をなめるエンドとか
無駄にバリエーションが豊富だ。
手を打たずに、のほほんとしてたら99,9999999%地獄を見る。
何が「バラ色の人生を!」だ。
『ローズマリアージュ』の世界で、ブラッディローズに成り果てるわ!
しかし俺にも手立てがある。
1つはゲームの知識がある、ということだ。
未来に何が起きるか分かるのだから、先に手を打つことができる。
もう1つは先ほどカリナの時に出た表示、『好感度メーター』の存在だ。
エロスの女神がオマケに能力をくれたのか分からないが
俺には相手のセルベリアに対する好感度が分かる。
もっと幼い時に転生できていれば、好感度で悩むこともなかったと思うのだが
やりたい放題やってきたセルベリアの悪行をなかったことにはできない。
なんで俺が尻拭いしなきゃならねえんだよ、まったく!
さて、状況の整理も終わったところでイベントの確認をしておこう。
え~と、今日がアクエリアスの月の21日で――
パパの公金横領がバレるのが、アクエリアスの月の24日だから――
「あ と 3 日 し か な い。な、な、な、なんとかしないと……」
紅茶を持つ手がガタガタと震える。
いや、優雅に紅茶なんか飲んでる場合じゃねえ!
「金だ! 金が必要だ!!」
「お、お嬢様!?」
俺は勢いよく立ちあがるとスカートの裾を両手でまくし上げ、食堂を飛び出した。
カリナの驚く声は無視した。
「うおおおおおお!!」
そのまま雄たけびを上げながら廊下を駆け抜ける。
走るたびに胸がバインバインする。
たぶん「セルベリアお嬢様、乱心なされる」とのウワサが流れることだろう。
そんなこと、知ったこっちゃない。
今、動かねば死ぬのは俺だ。
こうして俺の死亡フラグをへし折る戦いが始まった。
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