Chapter 44 独り言

美味屋の扉を開ける。今日も冒険者やら商人やらで溢れている相変わらず賑わっている店内。来るのは3日ぶりだがそれ以上に感じてしまうな。なんかいろいろと濃い3日間だった。まあ回想はいいからさっさと買おう。腹減ったよマジで。

俺たちは指定席となっているカウンターへと向かう。席順は右からアナスタシア、ルキナ、俺、ルナとなっている。店の奥側である左にルナを配置するというフォーメーション。だってヴィルトシュヴァインでルナは表立って歩けない。なんてったってギュルテルティーアの三将軍だ。捕まって死刑なんて事も冗談抜きでありえる。絶対見つかっちゃいけない。もちろんフードを被せている。ルナが寝てる間にアナスタシアにルナの服や下着を買って来てもらったから今はそれを着ている。下着はもうガッツリ見てたからそのイメージ着いちゃったからな。初対面が下着姿だったわけだし。白ね白。だから白をつけさせた。服はフード被ってるから全然見えないけど紫色のノースリーブの上と紺色のハーパンみたいなやつだ。てかね、ルナ凄い可愛いよね。牢屋で見た時ヤバかったよ。誰だよゴリラ将軍とか言ってたの。え?言ってない?いやなんか女将軍とかゴリラみたいな風貌の豪傑だと思ってたんだよね。それがこんな超絶美少女だとは思わなかったんだよ。それもピンク髪。ピンク髪って淫乱設定多いから心配したけど安心の処女だったし。第四夫人見つけてウハウハですな。デュフフフフ。



「おう、いらっしゃい!ん?1人増えたね。新しい仲間かい?」



…チッ。うるせえなオヤジ。俺は今ルナのエロい身体見てこれからどうするか考えてんだよ。気安く話しかけてくんじゃねえ。



「新しい仲間。ルナだよ。」


「…初めまして。」



ルナはフードを下げる事なく小声で美味屋のおっさんに挨拶する。そりゃそうだ。フードは部屋以外で取ることは出来ない。そもそもこのオヤジに挨拶などいらん。俺は忘れてないからな。このオヤジはボッたくりオヤジなんだ。恨みは晴らさねばならん。



「聞いたよリンちゃん。またやらかしたんだってな。」



なんだよやらかしたって。しかもまたってなんだよ。トラブルメーカーみたいじゃねえか。つーかいつまで割り込んでんだおっさん。黙れ。



「あのドリットダンジョンの更新をしたらしいじゃないか。もう巷で有名だぜ?」



相変わらず情報が早いな。これもルナが寝てる間にアナスタシアがギルドに行って各種手続きをしてきてくれた。マジでアナスタシア神っす。



「ふーん。そうなんだ。」


「ハッハッハ!リンちゃんは相変わらずだねぇ。」



俺と顔見知りオーラ出してんなよ。今日の俺は怒ってるんだからな。アナスタシアにこの店潰してもらうんだ。



「さてと。それじゃルナの歓迎会しよっか。ルナ、好きなの頼んでね。」


「すまない、ご馳走になる。」


「いいよそんな畏まらなくて。友達なんだし。ていうか生活費はみんなの私が持つからいいんだよ。アナスタシアとルキナもそうなんだから。」


「そうなの?」


「そうなんです。リンちゃんは絶対自分が出すって聞かないんですから。」


「そういう男らしいリンさん素敵です。」



亭主が金を出さなくてどうする。金は俺がなんとかするからいいんだ。妻は妻として俺に尽くせばそれでいい。



「アナスタシアはもちろん飲み放題でしょ?」


「はいっ!久しぶりのお酒なので楽しみですっ!」



それを聞いておっさんの顔が明らかに嫌そうな顔をしている。ふふん、ザマァ。今日はとことんアナスタシアに飲ませてやるからな。覚悟しろオヤジ。



「そういえば聞いてなかったけどルナって何歳なの?」



ルナの見た目は俺と同じに感じる。まあ十代なのは確かだろう。でも俺より上かどうかって聞かれたら微妙だな。結構ドジだし。でも将軍だからな。



「私は19だ。」


「えっそうなの?私は17。私が年下だったんだね。私のが上だと思ってた。ごめんなさい。これからはルナさんって呼びますね。」


「ちょっと…私のが年下ってどういう事よ…。」


「昨日からの一連の動作で?」


「う、うるさいな…!!それにルナでいい!リンにさん付けされたら変な感じだ。」


「そう?なら遠慮なく。あ。アナスタシアも19だよ。」


「はいっ!ルナちゃんと同じですね!」


「そうね。よろしく。」


「ルキナの歳も聞いてなかったね。いくつ?」



そういえばそうだ。ルキナは15とか14だろ。それは間違いない。中学生っぽいし。



「私は125歳です。」


「えっ?そうなの?」

えっ!?そうなの!?



「ごめんなさい。私の方が年下なのに生意気な口利いてごめんなさい。しかもよく考えたら王女様に無礼でしたよね。これからはルキナ様ってお呼び致しますね。」

ごめんなさい。俺のが全然年下なのに生意気なクチ利いてすみません。これからは女王様って呼びます。



「い、いいですよ!!やめてください!!リンさんはいつも通りでいいです!!」



俺はルキナの耳元まで顔を近づけそっと囁く。



「…そうだよね。ルキナは私のモノなんだから気を遣う事なんてないよね。」



ルキナは顔を赤くして俯いてしまう。指いじりしている姿は可愛いがそんな歳だったのか。そうか吸血鬼だもんな。寿命違うんだもんな。てことはアレか。俺がおっさんになってもルキナは若いまま。爺さんになっても若いままか。ヤベーなそれ。ハッスルしまくりじゃん。子供100人ぐらい出来ちゃうよ。でも俺のが絶対先に死ぬのか。それは悲しいな。龍神に不老不死にもしてもらえないだろうか。

そんな事よりルキナとのレズセックスをどうするかだよな。やり方より何より部屋に2人っきりってもうムリじゃね?ルナがいる以上はムリ。アナスタシアだけなら1人で風呂入らせてその隙にルキナとヤッちゃえばいいけど。ルナとアナスタシアの2人で風呂とかおかしいよな。4人でならともかく。うーん、どうしよう。妙にムラムラしてるからスッキリしたいんだよねマジで。

4Pはムリだよな。アナスタシアはレズセックスを受け入れてくれなそう。秘部触ろうとしたら拒否られたし。

ルナはどうだろうな。めっちゃお願いすればいけるような気もする。恩があるんだからいいよね?みたいにすればなんだかんだでヤれそう。

ルキナは……意外と一番ダメかも。独占欲強いから他の女を絡ませるとまたハイライト無くしそう。

ダメじゃん。ルキナとレズセックス出来ないじゃん。くっそー。2人でどこかに行かれればホテルに連れ込んじゃえばいいんだろうけど全体行動するよね絶対。それにルナをヴィルトシュヴァインでほったらかしには出来ない。えー、まじかよ。レズセックス出来ないじゃん!!


俺が悶々としている間にどうやらキレカワが注文していたらしい。色々と料理やらジュースやら酒がある。


アナスタシアはもう酒のおかわりをしておっさんが嫌そうにグラスを受け取っている。おつまみもたくさんだ。チーズに枝豆、ローストビーフみたいなやつもある。ガンガン飲んでこの店潰してくれ。俺は絶対に恨みは忘れないのだ。


ルキナも今日は酒を飲むのかワインみたいなやつがグラスに注がれている。やはりルキナには赤が似合うな。食事の量は相変わらず凄い。グラタンにピザ(Lサイズ)、ステーキ(500g)×2、フライドポテトにミートソースっぽいパスタがある。これでまだおかわりするんだぜ?ヴァンパイアって食欲凄いんだね。俺の財布空になるよ。ハハハ。


ルナもカクテルを頼んでいる。髪色と同じピンクだ。アレは確かピンク・レディってやつだ。雑誌で読んだ事ある。え?なんでモテないキモ男の未成年童貞がそんな事知ったんだって?だってしょうがねえだろ。大人向けファッション雑誌とかの特集であったんだよ!!モテないからこそ見てんだよ!!悪いか!!

ルナが頼んだ料理はたらこスパゲッティみたいなのとピスタチオっぽい豆と焼きおにぎりだ。腹減ってるだろうからたくさん食ってくれ。


んで俺の所にあるのは安定のギュルギュルオレンジ。みんな酒飲んでるんだから飲んでみたいよな。でも飲んだら法律違反。クソだな。まあしゃあない。大人になってからの楽しみって事にするか。


みんなで雑談しながらワイワイ食事を楽しんでいると入口付近で軽くどよめいてるような雰囲気が出る。ケンカでもしてんのか?まあ冒険者御用達の店なんだからある程度は仕方ない。別に止める気もないぞ。こっちは綺麗どころ3人の相手で忙しいのだ。



「ルナのその豆美味しそうだよね。私の枝豆あげるからソレちょっとちょうだいよ。」


「エダマメ?グリグリ豆の事か?リンの故郷ではそう呼ぶんだね。グリグリ豆も美味しいよね。でもこのチオチオ豆も美味しいんだよ。ほら、あーん。」


「フッ、食べさせて欲しいだなんて相変わらずルナは子供だね。」


「ち、違うわよ!!私が食べさせてあげようと思ったんでしょ!!お姉さんとして!!」


「黙ってるとお姉さんっぽいんだけどね。」


「なんで私がリンに主導権取られてんのよ…」



本気モード入ってる時はキリッとしてんだろうけどダメダメモード入ってる時はとことんダメダメなんだろうなルナは。まあこういうドジっ子みたいなのも嫌いじゃない。むしろギャップ萌えが最高だね。



「リン。」



背後から声をかけられた。その時ルナの目が本気モードの鋭いものに変わりフードを深く被ったのを視界に入れながら俺は振り返る。



「ジュノーじゃん。」



立っていたのは俺の第一夫人であるジュノーだ。なんでまたこんな所にいるんだ?



「どうしたの?」


「リンたちがあの長らく放置していたドリットダンジョンの攻略階層更新したって聞いたからさ。アナスタシア、こんばんは。」


「こ、こんばんはジュノーさん…!」



ジュノーがアナスタシアに小さく手を振り挨拶をする。心なしかアナスタシアが怯えているようだ。やはりこの国の貴族は怖いのだろうか。でもジュノーは俺の嫁一号なんだ。仲良くしてくれ。



「その吸血鬼族の人も新しいメンバーの人だよね?初めまして、ジュノー・マグノリアと言います。あれ…?あなた、もしかして…?」


「初めまして。ルキナ・ワタナベと言います。」


「え、ワタナベ?ワタナベってリンと同じ?」


「うん。私の妹。」



ジュノーは訝しんだ目で俺を見る。いやー、咄嗟に嘘ついたけどムリあるだろ。種族違うし。つーか妹って言われてルキナあからさまにヘコんでるし。



「いやいや…リン…それは無理があるんじゃない…?この髪色だよ?吸血鬼族じゃん…それにルキナってスノウフレイクのルキナ王女でしょ…?」


「誰それ?ルキナは私の妹だよ。髪色?それブリーチしたんだよ。」


「えっ?ぶりいち?何それ?」


「あまり気にしない方がいいよ。」



このキレカワ無理矢理話を収めようとしてんな。まあ別にルキナはバレてもいいんじゃねえのかな。特にジュノーだし。



「まあいいけ……どーー」



その時だった。明らかにジュノーの目つきが変わる。目線はルナに向いている。俺とクソメガネがやりあった時と同じような雰囲気がジュノーから溢れ出す。



「あなた……相当強いわね。」



ジュノーがルナを睨むような目で見ている。ピリピリとした嫌な感情が周囲に伝わる。アナスタシアとルキナ、店主のおっさんも固まったようにただ見ている。

だが当のルナからは焦る様子も剣呑な雰囲気も無い。フードを深く被ったから表情は見えないが内心どう思っているのだろう。俺はちょっとドキドキしてる。ここでバトル始まると不味い。せめて明日にして。明日にはこの国から出てくから。そうだよな。この国から逃げるか。なんか怪しいもんなココ。執着する必要なんかねーよ。そもそもルナがいるんだからこの国にいると遠くないうちにバレる日が来る。うん、逃げよう。とりあえず今はジュノーなんとかしよう。

なんて事を考えているとルナが口を開いた。



「ヴィルトシュヴァイン王国聖騎士であられるジュノー・マグノリア殿にそのように思って頂けるなんて大変名誉な事でありますが、私などまだまだです。」



ルナが普通にあしらうように言っている。やっぱり本気モード入ってる時はキリッとしてやがる。ダメダメモードだととことんダメなのにな。



「心にもない事言わないで。私と五分にやりあえる闘気をあなたから感じる。そんな人間は限られてるわ。特に王国内じゃ2人しかいない。他国だって限られる。あなた、名前は?」



……なんなヤバくね?変な雰囲気出てんだけど。ジュノーさ、ガチでルナになんかしようとしてんじゃね?てか正体気づいてるっぽくね?やっべ、どうしよう。



「セレネです。セレネ・ワタナベ。」


「セレネ…?」



打ち合わせしといてよかった。流石にルキナと違ってルナってそのまま言うのは良くない。だからセレネって偽名使っといたんだよ。ちなみにセレネってのは月の女神の名前な?ルナも月の女神だからそれにあわせたんだよ。え?インキャってそういう知識だけはあるよなって?うっせえ!!



「あなたそんな名前じゃないでしょう?それに人と話しているんだからフード取ったらどうかしら?」



ジュノーから剣呑な雰囲気が漏れ出る。明らかな脅しだ。いつ腰に差してある剣を引き抜いてもおかしくない。ルナにも神魔の剣を持たせてあるからいざって時はどうにかなるけど戦闘は避けたい。俺の第一夫人なんだから仲違いはしたくない。てか俺は丸腰なんだけどどうしよう。



「ジュノー、本当だよ。セレネは渡辺三姉妹の次女だよ。長女が私でセレネが次女。そしてルキナが三女。セレネは人見知り凄くてフード取れないんだ。許してあげて。」



ルナが不満ありそうな雰囲気で私を見ている。ルキナは更にテンション落ちている。

ジュノーは俺に対しても厳しい視線をおくってきた。



「……リン、本気で言っているの?」


「うん。」



ジュノーの圧があるのにお前よくしれっと即答出来るね。お前の根性って尊敬するよ。



「もう一度だけ聞く。リン、この女はセレネって名前じゃないわよね?」


「セレネだよ。私の妹。」



………沈黙が長ぇ。ジュノー睨んでんじゃん。え、コレってもしかしてジュノーに嫌われるパターン?

えぇぇ……でもルナを売ることはできん。もうルナは俺のモンだし。それに仮にだよ?絶対ないけど仮にね?俺がルナ売ったらアナスタシアとルキナに愛想つかされるよ。だもんこればっかりはジュノーに嫌われてもうんとは言えない。仕方がない……ジュノーは諦めるか。



「そっか。わかった。ごめんね変な事聞いて。セレネもごめんね。」


「別に気にしてないよ。ね、セレネ。」


「……うん。」



ルナは別の事は気にしてんだろ。不満ありそうな雰囲気出てんじゃん。



「お詫びにここの払いは私が出すわ。」


「そんなのいいよ。」


「いいからいいから。マスター、リンたちの支払いは私につけておいて下さい。」


「は、はいよ!」



空気になってたけどおっさんいたんだな。



「それじゃ私は仕事あるから戻るね。」



ジュノーが店を後にしようと出入口へ向かって行くとき俺は口を開いた。



「ジュノー、ごちそうさま。次は私がごちそうするね。」



ジュノーは立ち止まり俺の方を向かずにそのまま答える。



「……リン、あなたは私の友達。だから……これは私の独り言として聞きなさい。」


「うん。」


「私は王国の剣。この王国に仇なす者は許さない。そしてその芽となりそうな事も摘み取る。」


「うん。」


「ギュルテルティーア帝国がブルーメを堕とし、そこを前線基地としてヴィルトシュヴァイン王国との休戦協定を破棄し戦争を再開させる腹づもりだと私たちは睨んでいる。そして当初開戦前にブルーメで処刑する予定だった帝国三将軍の一人、ルナ・チックウィードが逃亡したという報せが先程王国に入ったわ。逃亡の手助けをした者は一人の女。相当な剣の技量と、旧王城を半壊される程の魔法を使える手練れらしいわ。」



……半壊してたんかアレ。え、ていうか俺が関わってんのもバレてんの?ジュノーって俺とルナを捕まえに来たわけ?あかんやつですやん。



「ただの逃亡だったら別に構わない。ヴィルトシュヴァインと敵対しないのであれば。でも現状それを証明する術はない。帝国の偽情報として出回った話であり、真としてはヴィルトシュヴァイン内部に侵入しての国王陛下暗殺が目的かもしれない。」



国王なんかに用は無いっす。用はジュノーにしかないです。



「明朝、安眠屋に身柄の拘束へ向かうわ。リン・ワタナベ及びルナ・チックウィード両名を帝国患者容疑でね。」



アナスタシアとルキナが私を見て顔を青くしている。俺も本当なら青くなってる。このキレカワは全然ビクともしてないけど。心音も変わってねえよ。どんなメンタルしてんだお前。



「以上で独り言終わり。じゃあ…おやすみ、リン。」


「うん、おやすみジュノー。またね。」



ジュノーは少しだけ俺の方を向こうとしたのか首だけ傾けたがそれをやめた。そして店の扉を押して出て行った。



「リン。ジュノー・マグノリアと知り合いだったの?」


「うん、友達。親切でしょ?」


「まあね。」


「どっ、どこがですか!?」



俺とルナが呑気な会話をしてるとアナスタシアが激しいツッコミを入れてくる。



「どうしたのアナスタシア?そんなに興奮して。もう酔い回ったの?」


「酔ってませんよっ!?酔えませんよね!?」


「そ、そうですよ!!」


「ルキナまで興奮してどうしたの?あ、もしかして。」



俺は興奮しているルキナの耳元に顔を近づけ囁く。



「…お酒飲んでムラっとしちゃった?」



みるみるうちにルキナの顔が真っ赤になる。髪の色と同じぐらいの赤さだ。



「じょ、冗談言ってる場合じゃありません…!!明日リンさんとルナさん捕まっちゃうんですよ!?」


「そうだね。」

「そうね。」


「何で2人ともそんなに呑気なんですか!?」



俺とルナがしれっと言ってるからルキナが若干イラっときている。俺だってそうだ。なんでこいつらはこんなに呑気なんだ。捕まったら絶対エロいことされる。昨日のルナみたいに手足を鎖で繋がれて絶対入れられる。そして代わる代わる屈強な男たちにマワされ続けるんだ。そんなの絶対嫌だ。



「だって明日の朝捕まえに来るんでしょ?」


「そうです!!」


「それなら別によくない?」


「何がですかっ!?」



ルキナとアナスタシアが怒っている。俺だって怒っている。もうこの馬鹿2人を殴った方がいいんじゃないだろうか。



「だって朝までに逃げればいいじゃん。」


「そんなの………あれ?」


「あ……そっか。」


「親切だよねジュノー。」



ほーん。なるほど。独り言ってのはそういう意味か。俺に友達だから情報リークしてやると。だからとっとと逃げろと。そういうわけか。ジュノーのやつ……やっぱりお前は俺の第一夫人だよ。



「リン、アナスタシア、ルキナ、すまない。私のせいでお前たちに迷惑をかけてしまった。」



ルナが俺たちに頭を下げてくる。別にそんなのいいよ。気にすんな。妻の失態は夫の失態のようなもんだ。それを承知で俺の女にしたわけだからな。



「謝らないでよルナ。別に迷惑だなんて思ってないし。」


「そうですよっ!ルナちゃんは悪くありませんっ!」


「ルナさん、私たちは仲間なのですから気にしないで下さい。」


「みんな……ありがとう。」



嫁ズはみんな仲良しでなによりだ。



「それじゃ色々揃えるもの揃えないとね。一旦安眠屋戻ろうか。そこで会議開いて考えよう。」


「リンちゃんたち、こっから出てっちまうのかい?」



空気のようにずっと息を潜めていた美味屋の店主であるおっさんがここで話に首を突っ込んでくる。チッ、テメェがいたか。ここで通報されたらタイムリミットが朝じゃなくなっちまう。コイツ殺すか。もう俺は8人殺してるからな。躊躇いなんか無い。つーか男なんかどうでもいい。



「そうですね。短い間でしたけどお世話になりました。」


「そうか、寂しくなるな。」



嘘つけ!お前アナスタシアの事少しうざいと思ってただろ。正直もう来ないからホッとしてんだろ?



「よし、ちょっと待ってな!今から一週間分ぐらいのメシ用意すっからよ!それ持ってってくれ!」


「マスター、嬉しいけど一週間分もあったら腐っちゃうよ。」


「アナスタシアちゃんはラウム持ちだろ?ラウムの中は腐らないから保存聞くぜ。」



そうなのか。



「ま、遠慮なんかいらねえよ!ちゃんとマグノリア隊長さんにツケとくからよ!!」



ちゃっかりしたオヤジだ。



「それじゃ食糧もらったら戻って会議ね。あ。アナスタシアは飲み貯めしときなね。どうせだからさ。」




俺の言葉を聞いておっさんはギョッとした顔で見ていた。



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