Chapter 35 悪態

俺たちは一度ダンジョンから出る事にした。時間的にもう夕方過ぎな事とダンジョン進行の更新をかけた事で報告をしようという事となった。

あの後俺たちはオークの群れを俺とルキナで蹂躙して未到達の5階層へと足を進めた。5階層に到達した段階で転送石を使った為探索はしていない。だが内装は全く変わりはなかった。

4階層には宝箱などは全く見つからなかった。不思議な事に1〜3階層までにあった部屋も無かったのだ。何か意味でもあるのだろうか?それともルキナのシュタルクフランメでぶっ飛ばしてしまっただけなのだろうか。今となっては真偽をつけようがない。ただ、オークを40匹以上始末しても何もドロップしなかった。俺の幸運値は低いのだろうか。


もう1つ気になる事がある。俺のMPだ。魔力に関してはアナスタシアの言う通り俺に魔力上昇の付与があるだけなのかもしれない。だが4階層突破の為ルキナと一緒にフランメをマシンガンのように連射してオークを蹂躙した。にも関わらずだ。全く身体に疲れは無い。よくあるMP枯渇による意識の朦朧なども全く無い。これはどういう事なのだろう。俺のMPはそんなに高いのだろうか?9999とかなのだろうか?それともまさか自動回復も標準装備されているのだろうか?全くわからない。やっぱり神様のチュートリアルが無いのがいかんな。今からでもチュートリアルお願いできませんかね?



「おぉ…無事に戻って来たか…」



転送石を使ってダンジョンから出ると入口の所へと俺たちは現れた。当然ながら兵士たちがいる。俺たちを見て安堵したような顔をしてやがる。



「もう戻って来ないかと思っていた。よくぞ無事であったな。」



なんだおっさん。気安く話しかけんなよ。ワンチャンあっと思ってんのか?貴様らのような奴とアナスタシアやルキナみたいな美少女と可能性なんかあるわけねえだろ。鏡見ろ。



「ありがとうございます。」


「随分と時間がかかったようだがどこまで行っていたんだ?2階層ぐらいまで行ったのか?」


「5階層まで行きました。」



俺がいつものクールな感じでサラっと言うとおっさん2人は目を丸くして俺を見ている。どうせ顔だけのお遊びパーティーだと思ってたんだろ?ナメてた連中が記録更新しちゃったらそらそーなるわな。



「ほ、本当に5階層まで行ったのか…?」


「はい。これがマップです。」



アナスタシアがおっさんにマッピングした紙を渡す。そうなのよ、アナスタシアってマッピングもできんの。ほんと有能だよね。なんか未到達エリアに行ったらマッピングしないといけないんだって。ダンジョンってのは不思議のダンジョン形式なんだけどそれってダンジョンクリアしたダンジョンが対象なだけで未クリアのダンジョンはずっと同じダンジョンらしいんだよ。だからクリアするまではマッピングして他のパーティーにもそれを閲覧出来るようにしてみんなでダンジョンクリアを目指そうって訳なんだって。そんで新エリアのマップを作成すると報酬ももらえるらしい。なんと銀貨1枚。凄いよね?地図作って銀貨1枚だよ?でもちゃんとフロア全部を見ないといけないから結構大変なんだよな。それでも圧倒的に儲けはあるからマッピングするのが一番らしいんだよ。



「信じられん…こんな女子3人で…それにオークジェネラルだと…?こんな低層で上位種が現れるなど聞いた事がない。それをたった3人で…」


「でも本当です。確かに私は役に立ってませんがリンちゃんとルキナちゃんは何の苦戦も無くモンスターを撃破しました。」


「そんな事ないよ。アナスタシアだってしっかり貢献してくれてるじゃん。」


「そうですよ。アナスタシアさんも支援して下さってます。役に立たないなんて言わないで下さい。」


「リンちゃん…ルキナちゃん…ありがとうっ!」



そうだよ。アナスタシアは卑屈すぎる。バフもデバフも回復だって出来る。更にはマッピングだぜ?役に立たない訳がない。それに僧侶がクソみたいに言ってるのここだけなんじゃない?ルキナだって言ってたよ。吸血鬼族の中で僧侶がぞんざいに扱われている事なんてありえないって。他の国とか種族ではどうなんだろう。この国だけなんじゃね?なんか怪しいよなこの国。



「むうぅ…検証も必要だが恐らく真実なのだろう。エリアの更新をしたのならギルドへ報告しなければならん。もちろん先の階層へ進むのも構わないが報告だけは忘れないでくれ。」


「それって今から行かないとダメなんですか?」


「いや、今から王都へ行くのは危ないだろう。着くのが真夜中になるからな。暗いとドラゴンにやられる恐れもある。明日以降にするのが賢明だ。」



ドラゴン空飛んでんの!?やべぇじゃん!?その中俺らは呑気に来たわけ!?ドビ喰われたりしないの!?アナスタシア言ってよ!?なにお澄まし顔してんの!?



「ふーん。別にドラゴンなんて気にならないけど危ないなら仕方ないね。」



気になるわヴォケ!!お前ドラゴンの恐ろしさわかってねえのか!!バハムートとかいたらどうすんの!?口からメガフレアされたら死ぬわ!!



「とりあえずどうしよっか。安眠屋に戻れなくなっちゃったし、美味屋にも行けないし。」


「そうですね…。この辺りはあまり知らないですからね…。」


「ここから東に1kmほど行った所に宿がある。そこで今日は休むといい。周辺には何も無いが地下にパブがある。そこでメシも食えるぞ。」


「なら今日はそこで休みましょうか。」


「そうですねっ。」



えぇぇ…それ絶対風呂ないやつだよね。マジか。風呂無しかよ。俺は風呂入らないの嫌なんだよなぁ。もうそれだけで鬱になりそう。




********************




宿へとたどり着いたがやはり案の定風呂は無かった。もうそれだけで咽び泣きそうになった。どうやらこっちの世界の”普通”は宿で湯桶をもらって部屋で拭くというスタイルがスタンダードらしい。俺にとっては地獄以外に他ならない。風呂入りたい。帰りたい。


でも腹が減ったので地下にあるというパブへと向かった。場末のスナックみたいな看板が立てられており、『マウンテン』と書いてある。因みに宿の名前は『ガネーシャ』ここにきて初めてのカタカナネームだがネーミングセンスの悪い安眠屋や美味屋を下回っている。

店内は誰もいない。エアストダンジョンに行かないんだからそりゃ人はいないわな。この店やっていけるのだろうか。

俺たちは適当に注文をする。俺はチチチデュとギュルギュルオレンジ。アナスタシアはチチチデュとピキーアオレンジという酒。ルキナはチチチデュとギュルギュルオレンジ。なんでみんなチチチデュを頼んでるかって?それしかメニューにねえんだよ。なんだよチチチデュって。アナスタシアもルキナも知らない料理とか怖いんだけど。やたら安かったんだよ。木貨10枚。まさか虫じゃないだろうな。昆虫だったら無理。それを食べなきゃ死んじゃうってなっても無理。それにギュルギュルオレンジも安かったんだよね。木貨5枚。木貨って1000枚で銅貨1枚だろ?そうすると美味屋のオヤジがぼったくってるって事になる。よし、戻ったらアナスタシアに飲み放題でガンガン飲ませてあの店潰してやる。俺からぼったくってタダで済むと思うなよ。


なんて不満を漏らしていると料理が運ばれて来る。チチチデュだ。見た目はコーンシチューっぽい。黄色味がかっているけどなんか薄い。これ水でかさ上げしてんじゃない?なんか貧乏臭さが出てるぞ。それにこのギュルギュルオレンジ。明らかに薄い。美味屋で出すのが果汁100%ならここのは5%だ。もうオレンジ色じゃなくて黄色だ。だが逆にアナスタシアのピキーアオレンジは色が濃い。赤だよ赤。原色の赤。何アレ。毒なんじゃねえの。飲んで大丈夫?解毒誰か出来んの?



「ねえコレ大丈夫?」



俺は無遠慮に思った事を口にする。そりゃそうだ。なんか見た目がヤバい。アナスタシアのピキーアオレンジは大概だけどチチチデュだってなんか怪しいよ。食べて大丈夫?店主のおっさんの男汁とかいれられてない?



「ピキーアオレンジの事ですか?それなら大丈夫ですよ。ピキーアオレンジってこんなもんです。」


「いやそれだけじゃないんだけど。」


「あー…リンちゃんは初めてだからわからないんですね。チチチデュだってこんな感じでおかしくありませんよ。似たような料理いつも食べてましたから。」



こんな感じ…?ほんとかよ。ルキナだってなんか微妙な顔してない?『この怪しい汁飲めんの?』って顔してない?



「ふーん。ま、いいや。それじゃ食べよっか。」



よくねえよ相棒。お前の身体は俺のなんだならな。男汁なんて飲まされたら首掻っ切って死ぬからね?



「いただきます。」

「いただきますっ。」

「いただきます。」



仕方が無いからチチチデュを食べる事にする。スプーンですくってみるがやはりとろみが無い。水っぽい。薄めてやがる。でもドロっとしてなくてよかった。イカ臭い感じも無い。男汁は恐らく入ってない。

ある程度の安心は得られたので俺は勇気を出してチチチデュの乗ったスプーンを口へと運び食す。


………まっず。



「何これマズくない?」


「ちょ、リンちゃんっ!?」



あまりのマズさにイラっとした声で正直な感想を叫ぶ。それをアナスタシアがアワアワした感じで俺と店主のおっさんを交互に見ている。おっさんがイラっとした目で俺を見てやがる。なんだてめえ。文句あんのか?ルキナだって明らかにマズいって顔して口抑えてんじゃねえか。俺だけが思ってる訳じゃねえぞ。



「そういう事言っちゃダメですよっ…!!」


「いやだってマズいんだもん。イライラするぐらいマズいよコレ。」



アナスタシアは小声で言うが俺は通常トーンで喋る。マズいものをマズいと言って何が悪い。



「リンちゃんっ…!!」


「ルキナだってそう思うでしょ?」



アナスタシアが俺を嗜めるように言って来るが我慢なんかできん。ルキナに同意を求めよう。



「ちょっと口にあいませんね。種族の違いなのかもしれませんが。」



ルキナは育ちが良いからやんわりとした言い回しでマズいと言っているが俺は火の玉ストレートでいくぜ。



「そういう問題じゃないよ。ほらルキナ、ギュルギュルオレンジ飲んでみなよ。何この薄さ。もうオレンジの味なんかしないから。水だよ水。」


「リンちゃんっ!!」


「うっ…酷いですねコレ。」


「ルキナちゃんまで…もう!!」


「もう夕飯いいや。ルキナは?」


「私もいいです。」


「だよね。アナスタシアは?」


「食べます!!2人とも贅沢ですよ!?」


「だってねぇ?」


「はい。流石に無理なものは無理です。」



俺とルキナが好き放題言ってるとアナスタシアが頬を膨らませている。アナスタシアでもそんな顔するんだな。ちょっと悪態つきすぎたか。



「んじゃ部屋帰ろうかな。ルキナは?」


「リンさんと行きます。」


「それじゃ私たちは部屋戻るけどアナスタシアは本当に残るの?」


「残りますよっ!まだお酒飲んでないですし!」


「それじゃ先に休むね。」



アナスタシアは更に頬を膨らませ一気にピキーアオレンジを飲み干し、おっさんにおかわりを要求していた。


俺とルキナは部屋に戻ると、ダンジョンでルキナに約束した通り少し可愛がってやった。軽く一回イカせてやって後はタオルで身体をふきふきし、血を飲ませてやった。もちろんルキナに俺の身体を拭かせた。ルキナは頬を紅潮させ、息も荒くしながら俺の身体を拭いていた。それを見ていると少し俺もムラっとくる気分になってしまった。安眠屋戻ったらレズセックスやってみっかな。俺もスッキリしたいし。明日帰ったら考えてみよう。

そんな事を考えながら俺は眠りについた。


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