しかしMPが足りない

蓬さと子

第一章  ザメハ

「あなたの志望動機を教えてください。」

「はい!私が貴校を志望した理由は二つあります。

まず私の将来の目標は「臨床心理士」となり、様々な人の心の支えになり、結果と世の中を明るくしたいと考えております。そのためには大学・大学院を卒業する必要があります。将来について考えたのは中学二年生からでしたが、大変だとも思っていますが、私はそれでも「臨床心理士」になりたいとどんどん思うようになってきました。

そこで高校進学のタイミングで大学受験に力を入れている学校を訪問致しました。その中で特に輝いて見えたのが貴校「追浜高校」でした。

他の学校も大学受験に力を入れているのは見て聞いてすぐにわかりましたが、「独立自主」を掲げ、実際の在校生たちのテキパキとした行動もそれに沿った動きに感じ、この学校で学ぶことが出来れば学力だけではなく、将来必要となる数多な力も養うことが出来ると心から思ったからです。」

しっかりと二人の試験官(一人はおっさん、もう一人は若そうだけど気の強そうなおば・・・。いや、お姉さんだ。)に目を配りながら目を見て順調に話し始めた。思っていたよりも緊張していない、いい手ごたえだ。なんて思いながら言葉を続けた。

「そして、もうひとつ私は将来の目標を叶えるために法政大学文学部心理学科に通うことを決めています。法政大学は私の尊敬し憧れている秋山先生の出身校であり、私も同じ環境で学びたいと思ったことが何よりもの要因です。貴校は法政大学への合格者も毎年数多くいるので、同じ志を持った人たちとともに学園ライフを満喫することで私のケツイもより強固なものになると考えることが容易く出来たので貴校を私の高校受験の第一志望に致しましたあww」

最後ちょっと含み笑いが入ってしまった。試験管に気づかれていたらどうしよう。でもここまで来て引き下がるわけにはいかない、がんばれ私!



「学習面であなたの中学生時代に頑張ったことを教えてください。」

少し皺が寄ったスーツのおっさんが続けて聞いてきた。よし、練習通りの質問だ。なんて思いながら私は愛想よく答えた。

「はい!私の中学生時代に力を入れていた学習は計画を立て、それを確実にこなしていく。ということです。先ほども申したように私は将来「臨床心理士」になるために今を生きています。様々なビジネス書で読んだのですが、社会人になって一番苦労することは「スケジュール管理」であると思っています。時間は生まれてから今までずっと同じ鼓動を刻んでいますが、高校生になればとか、社会人になれば上手く使えるようになるものではないと思っています。小学生時代の私は少し時間にルーズなところがありました。しかし、そのままではいけないと待ち合わせに遅れた時に感じたのです。携帯電話の普及に伴い現代人の時間の使い方はルーズになってしまっていると思います。そんな時代の波に流されてしまうと社会の波に乗り切れないダメな大人になってしまう。そんな風に感じたことで私はスケジュール管理に力を入れて行動していました。」


我ながらよくこんなセリフが次々に出てくるものだ。張本勲がこのシーンを見ていたら「喝」を私に送ったことだろう。と瞬時に昭和の名バッターの顔が浮かんだのもつかの間、


「では、あなたの中学生時代の学習面以外で頑張ったことを教えてください。」

今度は性格のきつそうなおば・・・。いや、お姉さんが質問してきた。

私はそちらに視線を配りながら落ち着いて答えた。

「はい。私は中学生のころに学習面以外で頑張ったと胸を張って言えることは「人の話の本音の部分は何か」というところにいつも意識を向けるように心がけていたと思います。自分で言うのも恥ずかしいことですが、人の話には本音と建前の部分があると思います。あ、もちろん今この面接の時間の私はすべて本音で話していますよ!で、その本音をツイ廃のようにストレートに言う人もいれば、少し曲がった表現で言ってくる人もいます。具体例を上げるなら私の両親がそれだと思っています。私の家ではよく「ババア」という単語が飛んでいますが、これはもちろん本音ではないことが誰からもわかります。いや、これを本音と捉えてしまう母であれば父と結婚してなかったと思うので。友達や地域の方と話すときも同じです。私のことを「ちーちゃんかわいい」と言ってくれる人もこれは建前だと思います。これを本音と捉えていたら私って相当イタイ奴だと思いますよね。だからその言葉の裏側に隠されたものを理解しようと常に意識をしています。これは意識しなければそのまま通り過ぎて人生を送ってしまい特に影響なく生活が出来るかもしれませんが、私は将来を考えた時に避けては通れない道だと感じたのであえて普段の生活から茨の道を進んでいます。」

よし、茨の道っていう言葉をしっかり言えたw私はやっぱり厨二病だなとか少し思うがそんなこといい。着地点が決まるかどうかが大切だ。体操競技だって着地がしっかりしていないだけで大幅減点されるではないか。


「高校生で学習面で意欲的に取り組みたいことは何ですか。」

少しの間もくれることなく、今度はおっさんの方が尋ねてきた。私はそのおっさんの少し淋しそうな髪の毛に少し目が行ったがすぐに軌道修正し、

「はい、私が高校生活で意欲的に取り組みたいと思っていることは、大学入試に向けての勉強です。具体的に言うのであれば「英語」「国語」「世界史B」です。最初にも申し上げましたが私は将来臨床心理士になり世の中をパァーっと明るくし世界平和に導く事が使命なんです。そこでは大学受験は避けては通れない道です。高校生がゴールであるのであれば今を楽しくハッピーライフ!なんて言って過ごすと思いますが、私にとっては通過点です。将来をバラ色にするための肥しの期間が高校生だと考えています。」

と言った瞬間におっさんの方が私の体をまじまじと見てきたので少しイラッとしたが顔には出さずに続けた。

「大人になった私、おばあちゃんになった私が高校生活を振り返った時に、よく頑張ったえらい!あんたのおかげでこの生活を送ることが出来たんだ!なんて言えるように高校生活を送っていきたいと思っています。そのためには特別新しいことに取り組もうなんて正直思っていません。中学時代から行っているスケジュール管理を高校生になっても怠らず、いや、より精度を上げて実施していこうと思っています。」


途中おっさんの眼差しにイラッとすることはあったがここも乗り越えた。と思う。いや、思いたいのだ。


「では学習面以外で積極的に取り組みたいことは何ですか。」

またおっさんだ。もう少し笑顔を作りながら相手の緊張を解すとかないのか、このおっさんは。毎回真剣なのかまじめなのか、家族の中で浮いているんだろうな。なんて思われていることはきっと知らないでこの先もおっさん続けるんだろう。なんてことを思いながら私は質問に回答した。

「はい、私は同年代だけでなくもっと多くの年代の人と交流を持ちたいと考えています。中学生まではいろいろと制限があり、機会も少なかったですが、高校生になることで自分のために使える時間が増えると思っています。だからこそ地域社会との交流会のようなものに積極的に参加しようと思っています。そこに参加される方たちはどちらかと言えば現状に満足している人が多いと思います。つまり幸せを感じているということですね。その人たちは何を考え、どうして幸せなのかを感じていくことが私の成長につながると思っています。地域の方との交流を深めていくことで私自身の成長のエキスに変わっていき、私自身がグングン育つと思います。そしてそういう場で歓迎されるのも若者の特権であることを知っているので素直に甘えていこうと思っています。」

この質問は練習していなかったな・・・。上手く言えたという風に思っておこう。うん。


「あなたの未来予想図を教えてください。」

お姉さんの方が聞いてきた。私はドリカムか!!と言いたくなったが、ここは試験会場であり、今は試験中だ。そんなこと言える訳ないから笑顔で答えることにした。

「はい、私は将来臨床心理士になります。そのための今の時間であり、これからの時間です。そして自分自身とても幸せだと思える生活を送っていると思います。それがお金なのか、それとも愛なのか何なのか正直今はわかっていません。ただ、その幸せには、この追浜高校で培った友人たちの存在はとても大きいものであることだけははっきりしています。苦楽を共にし、将来に対する不安や嘆きを分かち合いそして共に歩んでいくこの学び舎での出会いを大切にし、私自身成長をしていけると思っています。おそらく今私が思い描いている未来よりも輝かしい私たちの未来になっていると思います。高校生活での出会いは今まで私の中で眠っていた何かを起こしてくれるそんな呪文のようなものであると思います。そして必ず今思い描いている未来よりも素敵な人生を送っていきます。」

言い切った。テン良し、中良し、終い良し。完璧だ。


「では、これで面接試験を終了します。お疲れさまでした。」

「ありがとうございました。」

私は立ち上がり、一礼し廊下に出た。

冷えた空気は生足に刺さったが、でもどこか心地良いものを感じた。

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