第50話 小白

 新聞部の部室が静まるかえる中、小白は社と蓮を交互に見ていた。

 突然よく分からない話をし始めた社。

 そしてその話を理解している様子の蓮。

 この二人がどんな関係なのか、小白には分からなかった。

 だけど嫌な関係がした。二人が自分の知らないどこか遠くへ行ってしまう。そんな恐れがせり上がってくる。

 伯父からは社となるべく会うな、会っても話すなと言われている。

 小白は心配されているのが分かり、それに従おうとも考えたが、社を目の前にするとそんな言葉も吹き飛んだ。

(なにか言わなきゃ。えっと、えっと・・・・・・)

「あ、あのっ! 先輩っ!」

 小白は自分でもびっくりするくらい大きな声を出した。

 みんなの視線が小白に集まる。

 声を出したはいいものの、小白には何のプランもなかった。

 頭を真っ白にさせたまま社と目が合う。顔が熱くなった。

 久しぶりの社だ。夢にも見た社だった。

 小白は混乱しながらも思いついたことを叫んだ。

「お祭りっ! 一緒に回ってくれますかっ!?」

「・・・・・・え?」

「え?」

「え?」

 社、詩織、蓮は順に驚いていった。

 最後に小白が自分自身に驚く。

「・・・・・・・・・・・・え?」

 小白は自分が言ったことに気付き、顔を赤くしていった。

 目をぐるぐる回しながら、あたふたと手をばたつかせる。

 その姿を見て詩織と蓮はひっそり頬を緩める。

 そして社も珍しく少し赤くなっていた。

 だがそれは照れではなかった。自分への羞恥だ。

「・・・・・・そうか。思いつかなかったな。その手があったか・・・・・・」

 社は顎に手を当てて考える。

 だがすぐに小白の伯父が刑事の須藤であることを思い出した。

「いやでも、君は君の伯父さんに俺と会うなって言われなかった?」

「い、言われました・・・・・・」

 小白は俯くがすぐに顔を上げた。

「でもそんなの関係ないです。わ、わたしはっ――」

 小白は前に一歩踏み出した。

「もう子供じゃないっ」

 それは小白なりの決意表明だった。

 もう自分だけ守られるのは嫌だ。自分の世界は自分で決める。

 そんな決意表明だ。

 だが残念ながらそれはあまり他人には伝わらなかった。

 三人が小白の頭の先から足の先へ視線を動かす。

 そしてここにいるのはどう見ても小さく可愛らしい子供だと言わんばかりに顔を見合わせた。

 その行為に小白はがーんとショックを受けて部屋の隅でいじけた。

 それを見て蓮が苦笑する。

「あ、あはは・・・・・・。う、うん。そうだねえ。小白はもう大人だよねえ」 

 蓮は小白の背中をよしよしと撫でてあげた。そして社の方へ振り向き告げた。

「あの、先輩。うちの小白を大人にしてくれますか?」

 それに反応したのが詩織だ。顔を赤くして蓮を睨んだ。

「あ、あなた言い方ってものが――」

「君はそれでいいのか?」

 社は蓮に尋ねた。

「・・・・・・はい。あたしは小白が幸せならそれでいいんです」

 社と蓮はしばらく黙ってまるで腹の中を探り合うように互いの目を見合っていた。

 それが終わると社は微笑んだ。

「わかった」

 社は涙目で振り返る小白に手を差し伸べ、笑いかけた。

「取れる時間は限られてるけど、俺でよければ」

 小白は半ば呆然としながら社の手を見つめていた。

 事態が飲み込めると小白の顔はボッと燃え、その場でコロンと倒れてしまった。

 それを見て蓮が額に手を当てて呆れた。

「やっぱり、まだおこちゃまだったか・・・・・・」

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