第37話 小白

 夜の町は昼の町とは別の場所に見えた。

 怖かった気持ちはすぐに収まり、変な落ち着きが生まれる。

 夜は人に干渉しない。

 小白も同様の扱いを受けた。それでも暗闇は怖いので、明かりの方へと歩いて行く。

 熱くなった頭はすぐに冷えた。

(・・・・・・どうしよう。わたし、伯父さんに酷いこと言っちゃった・・・・・・)

 後悔はしているが小白の足は家から遠ざかっていく。

 しばらくして小白は昔自分が住んでいた町の南に向っていることに気付いた。

 帰巣本能というのだろうか。磁石に引っ張られる砂鉄のように小白は南へと降りていく。

 社が捕まった時、小白は家族が殺された時に感じた孤独感に包まれた。

 もう会えない。そう思うと心がかき乱される。

 会いたくても会えない。いくら願っても帰ってこない。

 また世界は小白から大切な人を奪い去っていく。

 心にしていた蓋が微かに動き、中身が顔を出そうとする。それを小白は必死に押し込めた。

 蓋の奥にいるそれの目はあまりにも純粋で、見ていると怖くなるからだ。

 どれくらい歩いたのだろう。

 距離にして三キロほどだがもっと遠かったような、あっという間だったような、そのどちらにも思えた。

 気付くと小白の前には、昔住んでいた家があった。

 小白が生まれてから十二年を過ごした家は、見るも無惨に朽ちていた。

 犯人は両親と兄の真一郎を殺した後、火を放ったのだ。

 小白は誰かに抱きかかえられ、外の道路で横たわっているところを駆けつけた近所の獣人に保護された。

 その後消防車による消火活動により、なんとか全焼は免れたものの、火元のリビングを中心に家の半分が燃え落ちた。

 その後家は取り壊され、三人も殺された土地を買う者は誰もおらず、更地の上に燃えた木材が散在しているこの場所は死んだような静けさを保っていた。

 なにもない土地だが、それでも小白には昔住んでいた家が在り在りと見えた。

 優しい母親が家事をして、兄が部活から帰ってくる。父親は誰からも愛される人だった。

 誰もが殺される理由なんて持ってなかった。

 小白の目から涙が一滴流れ落ちる。

「お父さん・・・・・・。お母さん・・・・・・。お兄ちゃん・・・・・・。わたし、また一人になっちゃった」

 小白はその場に座り込んだ。もう歩く気力がなかった。

 生きようとさえ思えないほど小白の魂は疲れ果てていた。

 その時、光が小白を照らした。

 強いライトで小白の姿を暗闇の中から掘り起こす。

 その光はどんどん大きくなり、小白の近くで停まった。

 車から降りてきた男は小白を見て少し驚いたが、すぐに微笑を浮かべ、近くに寄って手を差し伸べた。

「こんなところにいたら危ないよ。もし良いなら送っていこう。家はどこ?」

 穂村蒼一が微笑むのを見て、小白は彼が社に似ていると感じた。

 しかし自然と立ち上がり、彼の方へと向うにつれ、その気持ちは間違いだと分かった。

 社と蒼一とは根本のところが大きく違っているように感じた。

 それでも疲れ切っていた小白は蒼一の車に乗った。

 不思議と嫌な感じはしなかった。

 小白は蒼一から自分と近い空気を感じ取った。

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