第272話 深く考えたら負け

「魔法少女の服……出来ていたのか……」


「そこじゃないでしょお兄ちゃん」


 そこに立っていたのはまごう事無き魔法少女クロエちゃん。前の世界で俺のテンションをぶち壊し撮影会まで始めてしまう魅力に満ちロリコンたちを天国という奈落に突き落としあまりの可愛さに意識が混濁してしまうほどの最強の装備。


 そして前回の物をベースにファスナーやらを俺の要望を完璧に取り入れ、さらに足や手に小さな装飾品まで見える。決して邪魔にならないように存在するそのアクセントは魔法少女をより魔法少女らしく飾り立てる至高の一品。


 クロエも魔法少女服を着るのは二度目だからかばっちりボーズを決めてくれているのも非常に高得点をたたき出すファクターとして作用している。構えた指から超凶悪な魔力ビームを出したことは想像に難くないけどとりあえず今は可愛いということだけわかれば充分だろう。可愛い。思わず鑑定。


『クロエ専用魔法少女服:少女という存在は魔法の様。存在するだけで奇跡と言われる生命の神秘をこれでもかと可愛く装飾するために生み出された至高の衣装。魔法少女が唱える魔法はいつの時代でも愛。マジカルパワーは愛の力』


 鑑定さんテンション高いっすね。


「助けに来たわ、キミヒト、めぐ。二人ともずいぶん手ひどくやられたようね」


「助かったよクロエ。ぶっちゃけ死ぬとこだったわ」


「ありがとうございます迷える小悪魔。でもあいつはまだ生きてます」


「ええわかってるわ」


 クロエはめぐに返事をすると同時に詠唱を開始する。


「昏く沈むは闇の中、暗く落ちるは闇の穴、闇の次元に存在する事何人たりとも許すまじ。堕ちろ、ダークフォール!」


 クロエが唱えると同時俺達の前面には暗く深い闇が広がる。闇に呑み込まれた場所は完全に見えなくなり、俺の透視ですら中の形を確認することが出来ない。それはつまり闇そのものに変化させられているか、物質として存在できないほどに分解されているということなんじゃなかろうか。


 クロエの闇魔法は相手を捉えるバインドだったり、相手の命の奪うエナジードレインだったりと中々にエグイ技が多いがこれは……殺意なんてレベルで片付けていい魔法じゃないな。


 確殺。


 あの闇に呑み込まれたら、いや、触れただけでも生きていられる保証何て無いだろう。そのくらいの禍々しさと魔力の込められ具合を感じさせる。こちらの世界に移って魔力制御が出来るようになったと言っていたがここまでやれるのか。


 ピンクピンクした魔法少女が放ったのはラスボスが街を消滅させるような極悪魔法でした。鑑定さん、これが愛の力ですか。


「逃げるわよ」


「ですね」


「マジかい」


 どうやらあれを放ったクロエに手ごたえはなかったようで渋い顔をして闇の中をにらみつけている。撤退の言葉を発したクロエに同調するようにめぐも頷いているなら、まじであいつを倒し切れていないのだろう。やばすぎんだろ。


 クロエに回復魔法をかけてもらって、歩くくらいは出来るまで回復した俺はクロエと共に来た道を引き返す。めぐは神気と魔力を使い果たした影響でまた倒れそうだったので背負っているが本当はお姫様抱っこしたかった。首に手を回してほしかったんだけどそれすらもきつそうだったので断念した。


「しかしクロエよく俺達の場所わかったな。入口バグってて入るの苦労したんじゃない?」


「そうね、見つけづらかったから探すのに手間取ったわ」


 どうやらクロエにも入口はみえたらしい。ということはあのバグってる変なのは女神様の加護が働いてれば見えたってことでいいな。さすめぐ。


「俺も見つけた時は変な感じだったな。透視が無ければ見つけられなかったかもしれない。そういやクロエは引率してたんじゃなかったのか?」


 ここに来る前、クロエはイリスとフラフィーのバトルの引率に行ったとめぐから聞いていた。確かにまぁまぁな時間戦っていたとはいえ二人が満足するような時間籠っていたわけではないと思う。


「途中まではそうだったんだけど、あの子達キミヒトに怒られたからって理由で遠距離攻撃やめたのよ。それで暇だったからキミヒト誘惑用にこの服取りに行ってたってわけ。どう?」


「めっちゃ似合ってる。個室で時間無制限撮影会したい」


 なるほど、どうやらクロエは二人は大丈夫だと考えて別行動をしていたわけか。あの二人なら前とは違って何かに襲われたとしても大丈夫だろう。おもにフラフィーが強化された的な意味で。それがあったから最初は着いていったんだろうな。


 そのあと服屋に行って魔法少女服を手に入れてからこっちに来たと。ナイスタイミングだったとしか言いようがないな。流石クロエ、色んな所に気を回し……ん?


「ええとクロエ、ここに来るまでの経緯はわかったんだけどさ、どうして俺とめぐがピンチだってわかったん?」


 確かに俺達はピンチだった。クロエが来てくれて九死に一生を得たと言っていいだろう。でもこの街にいて俺たちがピンチになる事なんてそうそうないだろうし、だからこそあかねを宿屋に放置しているし、イリスとフラフィーもそのまま外で遊ばせている。


 あずきもめちゃくちゃ強いし外は大丈夫だと思う。だからこそ俺は弛緩して舐めプを行ってこんな体たらくになったわけだが、予測できるような危険じゃあない。それはクロエだって同じだろう。


 もし本当に危機が迫っているならみんなバラバラの行動を許容しているはずがないのだから。


「あぁ、それね」


 そう言ってクロエはこっちを真顔で見る。地味な迫力を感じさせる釣り目に緊張感が増す。こいつ正統派ツンデレな見た目してていつ見ても可愛いな、とか思うし魔法少女服だが空気はシリアス。


 そしてクロエは何もない空間に手を突っ込んで……っておい。


「あの、クロエさん。なんでめぐといいクロエといい俺の収納に干渉してるん?」


「これでわかったのよ」


 クロエは俺のセリフを無視しそこから一つのアイテムを取り出す。それは前の世界で連絡手段として使っていた通信機。そういえば回収したあとずっと入れっぱなしだったなぁ。


 でもそれって相互に持ってないと連絡とれないやつなんだけど。


「これ、もう片方はどこにあると思う?」


「こっちが危ないってわかったんなら、俺かめぐのどっちかに仕掛けたんだろ?」


「そう、文字通りしかけたの。キミヒトの体内に」


 おうジーザス。この子悪魔だわ。いや悪魔だし神は俺の背中にいるけども。じゃあなにか、収納に干渉して通信機をこっそり抜き取って俺がフラフィーとかに持つ抜きされたあとに体内に仕込んで治したってことかい?


 ははは、悪い子だぁ。


 え、まじで?


「というのは冗談だけどキミヒトに仕掛けてたのは本当」


 よかったわ。クロエのヤンデレが肉体的に損傷させて独占させる系のヤバイ奴かと思って冷や汗ながれたわ。『キミヒト、必要な時は生やしてあげるからいつもは手足外しとくわね』的な。


 クロエに飼われるならそれはそれでいいか。いや良くないか。いやわからん、どっちだろう。とりあえず助かったので良しという事にしておこう。深く考えたら負けだ。


 ってこれ凄いフラグっぽいな。


「なかなかやるではないか」


 うん、だよね。

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