第273話 どこの悪役ですか

 盛大にフラグを立ててしまったのでケイティが再び俺達の前に立ちはだかる。このダンジョンっぽい感じの所から中々出られないなーと思っていたけど、もしかして何かしら細工でもされていたのかもしれない。


「その闇の魔力、もしかしてお主魔王のお気に入りか?」


 お気に入り? 人質に使うとかそういう話じゃなかったっけ。クロエの父親が強すぎるから娘であるクロエを拉致って無抵抗にしてボコボコにしてやんよ、っていうなんか小悪党的なことを魔王がしようとしていた的な。違ったんかな。


 いやまてよ? もしかして魔王がロリコンでクロエの可愛さにやられて、求婚したいけど部下に示しがつかないから人質として拉致ってことにしているとかそういう流れだったりするのだろうか。


 それは悪いロリコンだな。殺すべし。ロリコンだったらだけど。


「さてね。私にはわからないしあなたにも関係ないでしょう?」


「関係あるな。お主を連れて行けば色んな強いものを引っ張りだせそうじゃ。それはわしにとって願ったり叶ったり。ここに来たのも無駄じゃなかったのう」


 ケイティは楽しそうに笑いクロエをおもちゃを見つけた子どものような目で見ている。バトルジャンキーここに極まれりって感じなんだけどまじやべーなこいつ。だがクロエもクロエでちょっと楽しそうに頬を緩ませる。


「あらそう。でもやっぱり関係ないわね」


「ほう? どういう意味じゃ?」


 クロエが俺達をかばうように前に出てケイティと距離をつめていく。普通に歩くように、そして挑発するようにゆっくりと。その後ろ姿は頼もしすぎる姉貴っていう感じでまじヒーロー。


 あれだ、仲間が悪役に捕まったために敵を攻撃できなくなった主人公。そこに颯爽と現れて目の前の大量の敵をぶっ飛ばしながら登場するライバルキャラみたいな。こんなところで苦戦してんじゃねぇ、こんな雑魚俺が引き受けてやるからさっさと仲間を助けてこいって言ってくれる系のやつ。


 俺に負ける前にやられるんじゃねえって言っただろっていう感じでやたら人気あるキャラとかそう言う感じ。大体最初敵役だけど。


 そしてクロエも悪役のように笑う。


「私が一番強いから。あなたはここで死ぬからその願いは叶わないわ」


「おもしろい」


 二人とも仁王立ちで魔力を放出し合って威嚇する。あまりの激しさに地下が振動し魔力のぶつかりが可視化されてバチバチと音を立てる。これは俺とめぐはさっさと退散したほうが良いかもしれん。確実に足手まといになる。


 だがこのダンジョンもどきの中身がどうなってるか分からない以上、外に逃げようとするのは悪手だ。それならクロエの邪魔にならない距離でこのジャンキー共のバトルを見学させてもらおうじゃないか。


「キミヒト、これ、借りるわね」


 クロエはそう言って俺の収納からやべー剣を取り出す。それはクロエが持つにはかなり大きくめちゃくちゃ扱いづらそうではあるが、悠々と片手で持ち上げ軽く振る。違和感のある光景だがクロエが使えると判断したなら任せて大丈夫だろう。


 クロエは純正魔法少女から撲殺天使にジョブチェンジしたようだ。いや撲殺じゃなくて猟奇殺人的な雰囲気を感じるけどそこはちょっとごまかしておこう。だってアレ刃こぼれしてるから斬るんじゃなくて抉り取るみたいな武器なんだもん。狂人が使うそれ。


「あなたは素手で良いの? おばさん」


「胸を貸してやろうかの、小娘」


 瞬間クロエの姿が消えて真正面からケイティに剣を叩きつけているのが見える。こえぇ。


「あら、歳の割りに頑丈なのね? この剣結構重いのよ? 腰は大丈夫かしら?」


「ほほう、見事なもんじゃな……ぬ!?」


「あら息切れ? 若いのはやっぱり見た目だけなのね」


 なんかクロエがやたらと煽ってて怖いんですけど。透視を使って二人の戦闘をみるとどうやらクロエが魔力を吸収しているっぽい。あの禍々しい感じはエナジードレインじゃなかろうか。


 さらにはケイティの周りを黒いもやみたいなのが渦巻いていて明らかに何かしらのデバフを与えているというのも見てわかる。たぶんあれもバインドなんだろうけどバインドの形色々変わりすぎな。


「む、ぐぐ」


「逃がすわけないでしょ。ダークレイ」


 クロエは片腕で剣を押し込んだまま、もう片方の手で黒いレーザーを照射する。一点を焼き切るような細いレーザーだが、だからこそ相手の動きを止めるのに有効だ。剣で上から押さえつけ、デバフで身動きを封じ、レーザーで焼き殺す。


 どこの悪役ですかクロエさん。


 しかしケイティはレーザーを受け止めながら不敵な笑みを浮かべる。そしてクロエからは焦ったような、困惑したような雰囲気。


「そう来なくてはつまらんよな」


「ただのおばさんってわけじゃないのね」


 クロエは武器を収納にしまい両手を前に出し魔力を爆発させる。その衝撃で俺の近くまで飛んできてふわりと着地する。相手にダメージを与えつつ距離を取る。拘束していた相手に使うのは疑問の残る一手だが、つまりはそういうことだろう。


「キミヒト、あいつ何者なの? 見たとこ魔族っぽいけど」


「あぁ、なんでも四天王の一人でケイティって言うらしい。めぐが言うには破壊と暴虐って二つ名が着くとか言ってたな」


「なるほどね。でもたぶん四天王っていうのは間違いね、あれ魔王クラスよ。前の世界で捕まって魔王城に行った時、魔王と同じくらいやばい気配を感じたんだけどそれと似ているわ」


 あぁ、そうよね。四天王でこんなに強かったら世界征服なんて楽勝だもんね。こいつはクロエの拘束魔法を自力で解けるほどの実力を持っていて、武器も何にもなしに剣持ったクロエと同等のスペックをお持ちと。


 うーん、そんなやべースペック持ってるのにこのやる気に満ち溢れたクロエを見てると安心感しかないな。相当やばい状況なのに笑ってるのはなんでなん?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る