第236話 強敵の気配

 奥に進んで行くとひたすら長い道が続いていた。一本道で特に魔物に襲われることもなく、ただただみんなで歩き続けていく。これはめぐが道中で説明してくれたが、直接めぐが作ったため魔物を入れないようにしたそうだ。


 魔物はいるだけでその場所を汚染していくし、ここに封印されている魔獣はかなり強いためもしここに魔物がいたとしたら凶悪な状態になっているとのことだった。だから魔物が寄り付かないようにあの謎の楽器で封印していたらしい。


「めぐも女神様っぽいことしてた時期がちゃんとあったんだね」


「お兄ちゃん、もしかしてなんだけど私のことばかにしてる?」


「微笑ましいと思ってるだけだよ」


 めぐがジト目を向けてくるので可愛いが溢れて頭を撫でる以外の選択肢が無くなる。周りは結構魔獣の魔力が漏れ出ていてやばい雰囲気になってきてはいるが全然恐怖を覚えるほどではない。


 フラフィーはかなり警戒しながら歩いているが、クロエも俺もめぐもみんな余裕そう。正直これから裏ボスっぽい魔物を倒しに行くような雰囲気には全然見えない。ちょっと難しいダンジョン攻略しにいくくらいだろうか。


「なんでみなさん平気なんですか……」


 無邪気にじゃれあう俺とめぐ、そしておしとやかに歩いているクロエを見てついにフラフィーが聞いてきた。この小心者の猫ちゃんはほんとこういう役柄が似合ってるよな。というかうちのパーティフラフィー以外警戒心が薄い。


 俺は周りが視えてるから正直あんまり警戒心を持つ必要が無い。なんなら食らっても耐えられるため、あえて初撃を食らってカウンターを叩き込むなんてこともできる。


 クロエはその実力ゆえに、今までイリスと共に旅をしてきて気配を探ったり周りを警戒するなんてことは日常茶飯事だった。そのため自然体でいることがクロエのもっともやりやすい状態なのだと思う。聞いてはいないけど雰囲気に隙がない。


 めぐは……めぐだからな。


「あんまり警戒してても仕方ないしな。めぐがここには魔獣しかいないって言うし、疲れるだけじゃん?」


「そうよフラフィー、気を張る必要のない時は力を抜いて、必要なときに全力を出せるようにしないと辛いわよ」


「私こう見えて冒険者になったの最近なんですよ……」


 そういえばフラフィーは前の世界含めても冒険者としての経験はかなり浅いのか。俺も人の事は言えないけど、不屈のスキルのせいで緊張や焦り、ダメージへの忌避感というものが非常に薄い。拷問もあったしな。


 だからたった数か月だろうと個人的にはかなり慣れた感じがある。しかしフラフィーは冒険者期間よりも探索者としてダンジョンに潜っていた時間のほうが長い。


 フラフィーがいた村での戦闘なんてそれこそ格下を倒して食料にするようなものがほとんどだったろうし。そんな狩りをしていたら警戒心と周囲への集中力がめちゃくちゃに鍛えられていくだろう。


 相手を逃がさないようにする盾のさばき方、逃げられても追いつけるほどの俊敏性、そして万が一逃げられても良く音を拾える耳と暗闇でも見える目。あれ、フラフィー実は初期能力高くね?


「なんですか?」


「猫って強いよなって」


 俺が急に褒めたのでフラフィーは首をかしげていたが、俺がいつも急に変なことを言うのに慣れたのか特に突っ込みはなかった。しっかり目を合わせて首をかしげるあたり俺のツボを押さえてきていると言える。


 しかし最初の頃はちょっと褒めただけて顔赤くしたり驚いていたのにこの慣れようは少し悲しいな。今度いたずらしかけてびっくりさせてあげたい。一瞬毛が逆立つからほんと可愛いんだよな。


 そんなこんなで小一時間も歩いているとようやく厳重に閉ざされた扉が見えてきた。思ったより遠かったし、一本道だったためたぶん街を出てるだろうという距離を歩いた。


 もしくはどこぞのダンジョンにぶつかっててもおかしくないと思うけど、障害物は一切存在せずただただ真っ直ぐな道だった。そんなことを考えていると疑問にめぐが答えてくれた。


「空間少しゆがめてますからねここ」


「なんでもありだなめぐは」


「ダンジョンも結構似たようなものになってるし、不思議空間なんていっぱいあるよ」


 それもそうか、良く考えたら地中にダンジョンがアリの巣のように張り巡らされていたら地上に建物立てたら崩れてもおかしくないよな。それに一つ一つのダンジョンがかなり広範囲だし場合によっては地上の高さと同じくらいのものもあったわ。


 アトラクションのダンジョンなんてフリーフォールあったし地下一階なのに地上突き抜けてたよ。全然気づかなかったけど空間歪んでたんだね。


「じゃあお兄ちゃん、準備はいい?」


「おっけー。クロエ、バフを頼む。そして最初は俺一人でやらせてくれ」


「はいはい。死なないでね」


「頑張ってください……!」


 クロエは俺にありったけのバフをかけてくれる。めぐは封印を解くために力を使うので、今回はクロエのバフだけをありがたくいただく。ロリから何かしてもらうっていうだけでも相当なのに、実際に力がわき出てくるっていいよね。


 メグの力により扉に施された封印が一つ、また一つと外されていく。それに伴い扉から溢れてくる魔力、瘴気に近いものがあたりに充満していく。ここはボスのいる場所。明らかな強敵の気配。


 俺は収納からアダマンタイト製の剣を取り出し心の準備をする。この剣は前の世界では使う機会もなく収められたままだった。破壊力という一点のみに特化しているため魔力の通りも悪いが俺には相性が良い。


 衝撃を通す、透過スキルを当てて相手を破壊する、こういう目的にはかなり強いだろう。剣の形をしてはいるが、殴るような勢いで使ったほうがいいんじゃないかとゴンズのおっちゃんも言っていたくらいだ。材料が足りなかったからそう注文したの俺だけど。


 よし、武器と心の準備はおっけーだ。いつでもやれる。

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