第235話 廃教会

「それでここにくるわけね」


「うん。私がここでさぼってたのはそんな経緯があったんだよね。完全に忘れてたけど」


 めぐに連れていかれた場所は俺と女神様が初めて出会った場所、ボロボロになっている廃教会だった。今見ても完全にボロボロだし修繕も当然行われていない。どうやら前任の神父さんがいなくなったのはもっと前の事だったようだな。


 数カ月程度でここまでボロボロになるわけないから押して知るべしって感じだったかもしれないけど……それでも同じ女神様を崇拝する同士として一度語らいたかったまである。


 というか女神様本当色々雑にもほどがあるんですけど。普通忘れないでしょうよ世界に害がある生物の事とかさ。教会の神聖さがそんな効果あるとかそう言うパターンだろうけど、忘れちゃあかんでしょ。


「ほんとに私たちだけで行くんですか?」


 女神様サボリ癖強すぎてまだ何かあるんじゃないかと勘ぐっていると、フラフィーが不安そうな声を出して聞いてくる。懇願にも近いようなそんな声だが、俺はここで逃げるつもりはなかった。イリスとあかねをたたき起こすのもありだが、せっかく幸せそうにしている二人はそのままにしてあげたい。


 それに俺はどんな状況であろうと戦って勝ちたい。


「正直な所きついかもしれない。ただ、今回に限っては俺一人でも良い位だ。相手が格上の時ビビってるようじゃこれから先やっていけないからな」


「キミヒトさん……」


 フラフィーは俺の心配をしているようだが実際の所そこまで心配する必要はないだろう。不屈に防御に守護の光、相手が魔獣なら属性相性的にはこっちの方が有利ではある。それに魔人っぽいのにやられた時は不屈のみでステータスもいまよりずっと低い。


 どんな形の魔獣かはわからないが、それでも俺は前の世界の魔人と同レベルの奴と戦っておきたい。前みたいに一方的にやられる俺じゃないって言うのをしっかりと実感しておけるだろういい機会になるはずだ。


「フラフィー、キミヒトは珍しく本気で戦いたいみたいだし応援しましょう」


「そう、ですね……」


 どうやら俺の本気を見て取ったのかクロエが応援してくれる。フラフィーは前の世界で俺がボコボコにされているのを見ているし、自分も一度殺されている。そんな相手に立ち向かおうとする俺を心配するのは当然と言えば当然だったか。


 俺の不意打ちをものともせず、イリスの魔法すら全く効かず、一方的に甚振られた相手。攻撃を見ることも出来なかったし体内すら鉄より硬いマジの化け物。だが次あったら必ず倒す。


 今の俺の状態ならあんな風にみんながやられてしまう事もない、ふがいない姿をさらす事も絶対にないだろう。俺がリベンジするのは敵じゃない、弱かった自分自身にだ。


「じゃあ行くか。めぐ、この地下にいけばいいのか?」


「うん。確かここから入れるようになってるはず。といっても私が認めた人しか入れないけど」


 めぐが認めた、つまり女神の加護を所持している生き物であればここに入れると言うことだ。俺達は偶然ではあるが全員がそれを持っている。めぐは本人だから普通に入れる。


 今回はめぐが力を与えたやつは俺たち以外には存在しない。つまり、ここの魔獣を倒す方法は俺達が突っ込んでいくか、封印が解かれて街で暴れている時かのどっちか。まじで危機一髪だろこれ。


「お兄ちゃん、ここに手かざして」


「こうか?」


 教会の奥にあるグランドピアノのような楽器、そこに手をかざすと不思議な音が周りに響く。それはそのピアノのような楽器を中心に発せられてはいるが非常に小さく、どちらかというと魔力の波動の余波で鳴っていた。


 非常に小さいが、どこか懐かしいような心地いいような、しかしちょっと切ない響きだった。


「綺麗な音ですね……」


「私にはちょっと響き過ぎるわね」


 神聖属性を持つフラフィーは純粋に綺麗な音に聴こえているようだが、魔の側の力も持つクロエには少し堪えるようだ。一応俺にも非常に綺麗な音に聴こえるが、たぶんどちらの音も拾っているかんじだろうか。


 なんとなくひどい違和感のような物を感じている。これは、なんというか、ダンジョンを攻略した時に聴こえる謎の声のようなそんな音。ダンジョンはもしかして何かを封印する力があったり……?


 俺が変な思考の迷路に入っているとめぐの声が聴こえてくる。


「この音は魔を退ける力があるの。といってもそんな強いものじゃないけどね。そういえばこんなの作ったなあ」


 めぐが懐かしそうにしているが、いつ頃作ったとか聞いた方が良いのだろうか? 年齢聞いたらめちゃんこ怒りそうだけど。でもめぐに怒られるのはあんまりないし聞いても良いのでは……?


「キミヒトさん、変なこと考えてないで行きますよ」


「ああ」


 気づいたら鳴りやんでいた音の元、グランドピアノは消えて地下へ続く階段が現れていた。その奥は真っ暗だが、階段を下りていくごとにぼんやりと光が灯っていく。ダンジョンの中の明かりというよりも、神聖な感じを受ける。


「めぐ、これってダンジョンか?」


「近いけど違うかな。私が作った特殊な空間だからね。ここはダンジョンになりそうなところだったけど、魔獣が出ちゃったから急遽変更したの。ダンジョン作りはそもそも私の管轄じゃないし」


 あれ? なんかさらっと凄い重要な事言われてるような気がするんだけど気のせいかな? 世界をめぐが管理してるけど、ダンジョンとか細かいのは別の人が管理してるって事?


 えーっと、つまり……めぐ以外の女神様がいるって事なの?


「あ、お兄ちゃん。ダンジョンが他の女神が管理してるって思ってるでしょ。それも少し違うよ。ダンジョンの場所を私が作ってるのは間違いないけど、管理してるのは自動的に動く神の使いみたいなやつ。感情のない天使とかそう言う感じだと思ってもらえればいいかな」


「へー、じゃあもしかしてなんだけど、ダンジョン攻略した時に聴こえる声ってその天使の声?」


「え、お兄ちゃん天使の声も聴こえるの? あー、だからかぁ」


 なんかめぐが意味深な事言ってるけどなんだろうか。ダンジョンの声が聴こえるのは勇者だからじゃなく俺だから、というのはあかねが聴こえてない時点で確定した。トオシのスキルの関係だと思ったけどこの感じだと違ったみたいだな。


「お兄ちゃんにスキル上げる時すんなり過ぎて変だなーって思ったんだよね。お兄ちゃん、元々こういう作業する選ばれた人物だったみたいだね」


「本物の女神の使者だったのか俺は。嬉しすぎるわ」


 現地の人が選ばれるんじゃなかったんかい。でもそんな事はどうでもいい。俺、自称じゃなくて本物の女神様信者を名乗ってもいいって言うのがよくわかったわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る