第209話 ありがとうクロエ

 もうクロエの事をまともな目で見る事は出来なくなってしまいそうなのでそろそろ止めておこうと思う。というかこれクロエがハマってないことを祈るしかない。あかねもクズ思考だしイリスも食のお化けだし、もしもクロエも変な属性持って女王様になったらこのパーティまじで狂ってしまうわ。


 まともなのはたぶんフラフィーだけ。癒しの存在として俺達のパーティの中心に立って最も苦労する立ち位置で支えててくれ。便利なキャラとして俺達をしっかりサポートしてやってほしい。


 俺? 俺のこと常識人だと思ってる奴は病院行った方がいいよ。


 めぐ? 俺が信仰してる女神様がまともなわけないだろいい加減にしろ。


「ところでキミヒト、その子は誰なの。人間ではなさそうだけど」


 クロエは唐突にムチをふるうのを止めこちらを真顔で見つめてくる。うん、結構な迫力があるね。ムチを手に持って真顔で見つめてくるロリ、ぞくぞくきちゃいますね。


 そして流石クロエだ。めぐが人間じゃないことをしっかり見抜いている。あかねもフラフィーもイリスもめぐのことを俺がどこかからさらってきたとでも思っているような反応だったからな。あかねなんて一緒にいたのになんていうひどさだ。


 いやイリスはすぐに納得してたか。


 ちなみにムバシェの方は見ないようにしている。


「このお方はめぐ。元女神様」


「元女神?」


「はじめまして。迷える子悪魔よ。わたしは女神をやっていためぐと申します」


 ぺこりと優雅な一礼をするがクロエはあんまり納得いっていないような反応を示す。じろじろとめぐを見ながら何かを考え込んでいるような仕草をする。


 あごに手を当てて物思いにふけっているクロエを見ると、なんだかとても微笑ましい気持ちになってくる。比べるのはとても失礼だけどやっぱりイリスとすっごい似てるしなんだかんだ幼さ残ってて微笑ましい。


「キミヒト……あなたの妄想じゃないの……? 完全に女神だって信じきってるのが逆に不安なんだけど」


 クロエは俺とめぐを交互に見比べて嘘じゃないことを確認している。そしてめぐがまじに女神様なのは間違いなく真実だが、俺があまりにも信じきってるので怪しんでいる。なんでや。


「神々しさ皆無だけど……」


「元からだね」


「ものすごく親しみやすさも感じるけど……」


「それも元から」


「なんか凄く可愛らしいんだけど……」


「それも大体元からだな」


「魔力も全然ないけど……」


「さっき俺に全力で攻撃かましたからな」


「やっぱり女神じゃないんじゃないのっ!?」


 流石の俺も返す言葉がねぇや。


「お兄ちゃん……ひどい」


「はっ? キミヒト、え?」


 クロエが切れてるけどこれに関しても言葉がねぇや。いつかフラフィーに指輪渡した時みたいになってるわ。


 やっと好きな人に会えたと思ったら幼女連れ。そしてお兄ちゃんと呼ばせながら幼女自身を女神様と言い張り物凄く大切に扱っている雰囲気。


 さらにめぐもめぐでクロエのほとばしる魔力から身を隠すように俺の後ろに隠れて服をぎゅっと握る。そしてそんなめぐに庇護欲を掻き立てられてしまい思わずクロエからめぐを隠すように動いてしまう。


 あぁ、俺死んだわ。良い意味でも悪い意味でもな。


「……ディコンプレッション」


「く、クロエ……お前も……か」


 唐突にめまいがする。吐き気も物凄い。平衡感覚を失いその場に倒れる。さらに疲労感も襲ってきて体の自由すらもきかなくなってくる。この倦怠感によって思考がぐらぐら揺れる。


 これはクロエが使う魅了ではなく別の魔法。前の世界では使用してなかったからたぶん転生して覚えた、もしくは作った魔法。イリスと共に新魔法を覚えてきて迷わず俺にぶっぱするクロエ素敵すぎる。


 あと俺、無敵じゃないわ。


 俺の体は不屈と守護の力によって衝撃や圧力にはかなりの耐性がある。しかしもしもそれが内側から外側に向かって働く力なら耐性はどうなる?


 答えはこの通り。体を巡る血の流れを止められないように、酸素が無いと生きていけないように、人間の体は一定以上の圧力が無いと形が保てない。


 この俺の症状は多分、減圧症とかそういうのだと思う。陸で唐突に起きるのが果たしてそう言っていいのかは分からないけど。


 クロエは俺に圧力じゃなく減圧をかけている。魔法の名前もそのまま減圧。殺意高すぎるんだけどこれ全く防げないよ?


 っていうか喋るのすらしんどいよ? 幼女に殴られて死にかけて、幼女の前で内臓ぶちまけて死ぬのヤバすぎるんだけど?


 イリスに絞殺されそうになり、めぐに殴り殺されそうになり、クロエに破裂させられそうになるとかなにこれ。まじフラフィー嫁なんだけど。


 あかね? ああそうだね。


「……」


「かはっ、ひっはっ……ふぅ、はぁ、はぁ……マジで、ころ、すきか……」


 あまりの苦しみっぷりに魔法を使ったクロエすらドン引きしてるしめぐも青ざめてる。女神びびらせるとかクロエやばすぎわろた。笑う余裕すら今無くなってるけどそれすら笑えるわ。


 毒も麻痺も混乱も睡眠も物理攻撃も魔法もほとんど効かなくなったけどまさか圧力関係でやられるとは思わなかったぜ。そうだよな、空気とかなかったらどんな屈強な戦士でも勇者でも誰でも死ぬよな。


 大切なことに気付かせてくれてありがとうクロエ。やっぱりクロエは俺の嫁だわ。

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