第200話 いつものお願いします

「じゃあまた振り出しか。イリスが居るからさっきまでより全然気が楽だし少し話でもするか?」


「じゃあキミヒト、女の話を聞こうか」


「よしイリス! 壁が壊せないか試してくれ!」


 イリスが殺気を飛ばしてくるので俺は逃げる事にした。イリスにはきっと何を言っても通じないだろうから話を逸らす以外に手はない。イリスが催眠魔法にやられないように手を握ってるから完全に逃げる事は不可能だが。


 こういう時フラフィーだったらちょっとテキトウな事言っておけばごまかせるんだけどイリスやクロエだとそうはいかない。手ごわい姉妹だぜ本当に。あかね? あいつは煽っとけばいいよ。


「……まあいい。時間はたっぷりあるもんね」


「……はい」


 こわいよ。


「キミヒト、私はこの中が見えない。そもそもどうなってるのここ」


 あ、それ今聞くんですか。ずっと俺と話してるから魔法か何かで見えてるのかと思ってたけど普通に見えてなかったのね。というわけで俺はイリスにここに来るまでの状況を話す。


 変な所をあかねが見つけて俺が突入したら部屋の中に閉じ込められたこと、ちょっと試してみたけど俺の力じゃどうにもならなかった事も。


「なるほど。それなら上のほうがいい?」


「上もありだけど……ここ王都の中だからやめて欲しいかな」


 もし上が壊せたとしてもここはかなり深い地下。イリスがめちゃくちゃ本気出して地上まで貫通するような魔法を使った場合相当な被害が出る気がする。流石に王都を混乱に陥れるのはよろしくないだろう。


 そして壊せるという圧倒的な自信を持ってるのが凄く頼もしいです。頼もしいロリとかもう色々と高まって来るよね。


「じゃあとりあえず下掘ってみる?」


「そっちの方がいいな。やれそうか?」


「私に任せる。一点に集中するような感じで地面を焼いて。あと部屋の温度が上がりすぎないように調節もお願い。あと空気も無くならないように色々調整して。インフェルノレーザー」


 それ呪文なの? と疑問に思うような言葉を言っている相変わらずのイリスだった。たしかにこんな密閉された空間で高密度の火魔法なんて使おうものなら一瞬で酸欠になって意識を失うだろう。


 さらに温度が高まって熱さでも死ぬ。精霊はその辺も上手く調整出来るとか万能なんてレベルじゃないんだが?


 イリスの指からこぶし大のレーザーが照射され、地面を焼いていくのが見える。俺の時と同じように一度穴が開くが、それは徐々に修復されて行き元に戻ってしまう。流石に下は深いって事か。


「深いかも。手応え的に貫通も仕切ってない感じ」


「イリスの魔法でもきついのか?」


「そっちの人たちがいなければ全力でやれる。素手だと微妙な調整が難しい」


 ああそういえばイリスの武器欲しいって思ってたな。全力を出すためには色々と足りないものがあるみたいだしここは俺の出番だな。俺の防御のスキルはそれなりに距離が離れていても使える。


 イリスが全力を出せるようにサポートをしよう。そのために欲した力でもあるし。


「おっけーイリス、そういうことなら後ろの人たちは俺が守ってるから全力でやっちまってくれ」


「キミヒト、耐えられる? 一応範囲は考えてやるけど」


「たぶんいける。いけなかったらすまん」


「わかった。死なないでね」


「え、ちょっと」


 不穏な言葉をつぶやいたイリスに今更ながらにビビり始める。この子はなんだかんだで手加減をする気がほとんどないからまじでやばいんじゃなかろうかと思い始めてしまう。


 俺の心配の通り、イリスは魔力を練り始めていく。高密度の魔力がイリスの両手に集まっていきそれがどんどん圧縮されて行く。雪玉を作ってひたすらに固めて氷にしていくように、一回だけじゃなく何回も何回も魔力を魔力で覆って重ねていく。


 いや、お前、それ、どうみても悪っぽい技なんですが? 倒れてる人たちを遠くにやっておいて守護発動して正解だったし、イリスを支えている俺すらも余波でなんかやばい。


「ふふふ……」


 せめて呪文みたいないつものお願いします。笑うだけでやってるとめちゃくちゃ怖いんですが。豆粒くらい小さな塊だったものが拳大くらいの大きさになると、バチバチと黒っぽい火花を散らすようになる。


 魔力の塊自体は白色だが、その黒い火花のせいで異常なほどの禍々しさ。


「焼き尽くせ、ブラックホール」


 イリスは掌にある魔力をぽいっと地面に向かって放り投げる。非常にゆっくりと地面に吸い込まれるように魔力は落ちていき、触れた瞬間地面が一気に消失した。


 この部屋のサイズはちょっとした体育館くらいあるが、その半分が一瞬のうちに消えた。イリスは消えた地面を見つめたまま浮いて何も喋らないし動きもしない。狂気に満ち溢れてる。


「これなら……仕返しできそう……ふふ」


 これはあれだな。なんだかんだで負けず嫌いにイリスのことだから、前回の世界でぼこぼこにしてきた魔族にやり返すための魔法を作ったってところだろうか。やべーの開発してるしそんな簡単に作れるもんなの魔法って。スキルとは一体なんだったのか。


「それでキミヒト、女の話を」


「すごいなイリス。こんなやばそうな魔法なのにしっかり地面だけ綺麗に消して壁の方に被害が出ないようにしてるとか流石俺のイリスだなまじすごいわ」


 俺は空を飛べないのでイリスにしがみついて浮いている状態。バチバチと音を立てながら消失している地面。真顔のイリス。この状態で迂闊な事を口走ったら……色々と考えたくないね。


「お、開いた……ってなにこれこわ」


 イリスが地面を消した影響か、部屋の中の睡眠魔法もなくなった。そして部屋の機能も死んだようで壁にある扉が出現しあかねが部屋の中へ入って来る。


「うわー……豪快ですねぇ」


 フラフィーも顔を出し部屋の中の惨状に驚きの声を上げている。イリスがこの場にいる事に驚いていないのであかねがみんなに知らせていたんだろうな。知っていなければフラフィーはもうちょっと驚いてくれていただろうから。


 もしくはイリスの魔法の豪快さ加減に驚きすぎてイリス本人に対しての感動を上回ったか。こっちのほうがそれっぽいかな。若干引き気味だし。


「あかね、巨乳、久しぶり」


 こうしてイリスのごり押しにより部屋からの脱出はなんとかなった。あとはこの捕まった人たちをどうにか外に連れ出して、黒幕ぶったたいて終了だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る