第201話 やばそうな単語
とりあえず部屋の中はひどい状況にはなっているが、捕まっている人たちを放置し続けるというのも気が引けるので話を聞ける状態まで回復させよう。ここまで弱っているならあれの出番だろう。めちゃくちゃ水で薄めて使えば問題ないはず。
とりあえずイリスに下ろしてもらい固められた人たちの所へ向かう。意識が無い人が殆どだが一人だけ目を覚ましている人がいた。
「うぅ……」
「大丈夫か? とりあえず水を飲むといい」
「ありがとう……うっ!」
俺が手渡した水を口に含んで飲み込んだ瞬間その人は口を押さえる。衰弱したところに味のついた飲み物は結構刺激が強いからな。
「大丈夫、ちょっと元気のでる薬が混ざってるだけで害はない。ゆっくり飲んで他の人たちにも分けてやってくれ」
「やばそうな単語が混じってるんですが……?」
「気にするな」
大量の水をとりあえず手渡しあとは任せる。全部で十人くらいしかいないしすぐに目を覚ますだろう。目の前の人物も最初は驚いたようだが体に力が戻って来るのを感じて一気に飲み始めた。
やばそうな感じがしたとしても今は活力が戻ってくる方が重要だと判断したのだろう。実際に悪いものでもないから気にせず飲んで欲しい。
「キミヒト君まだ持ってたんだ」
「まぁな」
何百倍にも薄めておいたが、元気の出る薬かつ相手の反応とうっすらと綺麗に色づいた水の色からあかねは察したようだ。あまりの劇薬っぷりに次に使う時は絶対薄めて使うと心に決めて準備しといて正解だった。
それをさらに薄めて手渡したがそれでもこの効力。あの魔女子の薬精製スキルが凄いのかそれとも材料になったものが凄いのかわからないけどとにかくやばい薬なのは確かだな。
そう、渡したのは俺とあかねでダンジョンをフルマラソンした時に使った薬物、精力剤だ。前回は原液のまま飲んでしまったため二人ともハイテンションになり狂ってしまっていた。
だけど今回はその戒めで薄めたので大丈夫だったようだ。正直どのくらい薄めればいいのかわからなかったけどこのくらいが適正なんじゃないか? 用途が違うけどな。ロンドの連中に会ったら聞いてみるか。
「キミヒト、その水私も飲みたい」
「ほいよ」
イリスも欲しがったので渡しておく。ここまでテレポートで無理やり来たならきっと喉も乾いているしお腹もすいているだろう。というかクロエはどこにいってしまったのだろうか。
俺と合流するまではずっと二人で旅をしていたはずだ。しかし今回はこうやって無理矢理合流してきたならクロエも一緒にいなければおかしい。流石にケンカ別れなんてことはないだろうし。
「イリス。聞きそびれてたけどクロエはどうしたんだ?」
「……とりあえずここ出てから話す。あとこの水についても詳しく聞く。あとそこの幼女についても」
「はじめまして、迷え……迷ってない精霊の子よ。私は元女神のめぐです」
イリスが牽制をかけるとめぐは全く動じず優雅に挨拶を返した。おおう、ちょっと場がピリ付き始めているんですがどうしたものでしょうか。なんだかんだイリスは嫉妬深いからな、さっきも相当追求されたし。
その証拠にイリスはめぐの周りをうろうろと周りじっくり観察している。あかねとフラフィーに会えた感動よりそっちを優先する当たりイリスらしいけど。フラフィーはイリスに飛びつきたいけど微妙な雰囲気にしり込みしてるし。
「ふぅん。理解。でもかなり意外」
何かに納得したようにうなずき次はフラフィーの方に向かう。
「巨乳、思ったよりも元気そうで安心した」
「イリスさん……!」
フラフィーはイリスをぎゅっと力強く抱きしめ高ぶっていた感情を全身で伝える。俺達を助けるために相当無理して送り出してくれたイリス。あのあとどうなったかはわからないが会えてよかったよほんと。
イリスもいつもは無表情だがフラフィーを抱きしめてる顔はいつもより優しい顔をしていた。うっすら微笑んでいるように見えるし結構レアな光景だよ。でも名前で呼んであげないあたりイリスらしさもちゃんとある。
「うんうん、良きかな良きかな」
あかねはどこ視点なのかハンカチをだして目元をぬぐうふりをしている。経緯については話してあるけど実際にこの二人の絡みをみたらそれなりに色々あったことを察したのだろう。
「あかねも、生きてる」
「はいはーい、あかねさんですよー」
その輪にあかねも混ざっていく。うむ、可愛い女の子たちが抱きしめ合ってるのを見ると結構高まるものを感じるな。完全に保護者としてみんなの絡みを見ることが出来てとても幸せを感じます。
めぐは手を組み合わせてお祈りしてるし何に感謝を捧げているのか。感謝されるべき女神様はあなたですよめぐ。
そんな感じで再会を喜んでいると衰弱していた人たちがみんな体を起こしそれなりに回復していた。どのくらい捕まっていたかはわからないがあの水を飲んだだけでここまで回復するとは流石の精力剤だ。絶対劇薬。
「助かりました。その、お礼をしたいのですが何分捕まってしまってなにもありません……」
「いいよそんなの。助けたかったから助けただけだし偶然だったからな。そんなことよりなんで捕まったか教えてくれると助かるんだが」
「キミヒト、それエルフ」
さっき水を渡した少年が近寄ってきて挨拶をしてくるとイリスが俺のことを引っ張る。思ったよりも力強く引っ張られ前に出そうとしていた足が止まる。
そして踏み出そうとしたところに魔力の刃が通り過ぎる。
これ引っ張られなかったら当たってるわ。こわ。
ていうかエルフかこいつら。この世界のエルフはまじで人間と区別がつかない見た目してるよな。耳が尖ってるとかそういう特徴が全然なくて、区別する方法が魔力量くらいなんじゃなかろうか。
王都の武器屋のおっちゃんは見た目か何かでクロエとイリスがエルフって見抜いてたけどほんとわからん。見る人が見ればわかるんだろうな。
とするとこの少年は少年じゃなくて青年だったりおじさんだったりする可能性も無きにしも非ず。だからなんだって話ではあるが見た目ショタならなんでもいいだろう。
「助けてくれたことはお礼を言いますが、人間は信用出来ない。死んでください!」
「この人たちは安全。どこのエルフか知らないけどキミヒトに手を出すなら少し痛い目を見てもらう」
イリスは俺達とエルフたちの間に魔法陣を展開する。いつも直で魔法を使っていたイリスらしからぬ行動だが、その魔法陣を見たエルフたちの反応は顕著だった。
「これは森の精霊様の!? じゃああれが例の……」
ざわざわしている所からイリスはこれがエルフたちに伝わる手段だとわかっていた様だ。その証拠にいつもならすぐにぶっ放している所だが魔法陣を展開したまま何もしていない。
痛い目を見てもらうと言ったのはフェイントか、普通にやらかすと思っていたぜ。
「わかった?」
イリスがそう言うとエルフたちは一斉に膝をついて頭を下げ始めた。やっぱ森の精霊ってエルフの中じゃ相当な神様なんだな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます