第198話 ダンジョンっぽい
そこは大胆にも普通の民家の地下にあった。誰も住んでいない一般住宅街の床板を外し、地下に続く階段を見つけることが出来た。こんなに堂々と入れるのは流石に人目がつくので、拉致した奴隷候補は別の所から運び入れるのだろうか。
ということはここはある意味拠点の一つでもあるが、頻繁に出入りしているような感じでもなかった。家の中は埃っぽく今は使われていないのだろうか。
「薄気味悪い所ですね」
「ああ。しかし魔力で入口ごまかしてない所を見ると、人さらってるの一般人とかなのかな」
前回フラフィーが魔物に連れ去られた時は魔力で入口が分からないようにカモフラージュされていた。今回はそれが無かったので完全に人間の仕業か、全く警戒していないかのどちらかになるだろう。
もしくはこの入口の存在を知らなかったかだが、こんなに大人数を隠している都合上それは考えづらい。今は使われていないだけで別の入り口があると考える方が自然だろうな。
「キミヒト君、声を聴いてる感じこの奥には見張りとかいないっぽいよ」
「おっけー、んじゃさくっと行ってぱぱっと助けますか」
しかしなんのためにこんな地下が作られたんだろうか。一般的な民家をカモフラージュとして作ったのなら何か別の目的があるだろうし、わざわざこんな街中に作る意味も解らない。
結構な範囲に作られているためなんというか蟻にでもなったようなそんな気分。道も整えられているし石造りの場所も多々ある。人の手が入っている形跡はないのにものすごく整っていて少し変な感じがする。
あぁそうか、ダンジョンっぽいんだこれ。それにしては壁を普通に透視できるし魔物の一体も出てこないからダンジョンっぽいというだけだけども。
そんな感じで歩いていく事十分程度、ようやく人のいるところにたどり着いた。そこは鍵が外からかけられていて扉がついていた。のぞき穴の類は無くどうやって中を確認しているのか疑問な感じだ。
反対側にも扉がありたぶんこの中の人たちはそっち側からはいったか入れられたのだろう。両側に扉があって、両方とも外側から鍵がかけられる構造になっているのか。どんな部屋だよ。
「中の人たち動いてないけど……あかねよく気付いたな」
俺の透視で見た時は遠くてどうなってるかはよくわからなかったが、近づいてみると中の人たちは身動き一つしていない。中には寝そべってるか倒れているかしている人もいるため、もしかしたら衰弱しているのかもしれない。
長らく閉じ込められているのならそれも納得出来るが……この人たち結構魔力持ってたっぽい。体力と魔力をひたすらに奪われてこの中に閉じ込められてるとかかなりひどい。
「うん、すんごい弱弱しい声だったから逆に良く聴こえた感じ。大丈夫、中には敵対しようとする人はいないよ」
「でも気を付けてくださいね? いきなり入って襲われるなんてこともあるかもしれません」
「お兄ちゃんは平然とそういうことしそうですね」
しないよ別に。やるとしたらステルスして気配も消して完全にばれない様にするから襲われるなんてことはありません。王女様みたいになにかしらの対策してればバレちゃうけど。
今回は別にばれてもいいというか、中にいる人たちを助けるのが目的なのでそれでいいし。というわけでノックしてから鍵を破壊し扉を開ける。
「助けに来ましたが……ってみんな引け!」
みんなに声をかけ扉を閉めようとすると、扉の感触が無くなっている。というか俺は部屋の中に片足しか入れていないのに完全に部屋の中に入っていて、扉がどこにあったのかわからなくなっている。
罠かこれ。
いやだがさっきの声はたぶん聴こえただろう。それにあかねもいることだし俺がどういう状況に陥っているか分かるはず。中の人たちが身動きできなくなっているのは睡眠魔法のトラップがかけられているから。
どうやら拉致被害とはまた別に変な所に迷い込んでしまったみたいだな。外からなら扉の位置がわかったが、中からだと外の様子を透視出来ない仕様になっている。なんとも変な作りになっている。
この部屋に閉じ込めることが目的みたいなかんじだが……とりあえず中の人たちの状態を確認してみるか。あかねに声が聴こえたってことはぎりぎり意識を保っている人もいるかもしれないし。
「だれか意識のあるやつはいるか? 一応助けに来たんだが」
一人一人に声をかけてまわるが誰に話しかけても意識がない。息はしているようなのでギリギリ生きてはいるけどこのまま放っておけばまず死んでしまうだろう。どうやら助けを求めたのはほとんど無意識か、混濁した意識の中だったのだろう。
というか不屈持ちの俺ですら若干眠気を感じるとはこれかなり強力な睡眠魔法だな。先にこれ止めたほうがよさそうか? みんなに知らせる方法もないしな。
といってもどこからこの魔法が発生しているのかわからない。となればちょっと危ないけど壁ぶっ壊してみるか。上手く扉の場所に当たれば破壊出来るかもしれないし。
俺は体に意識を集中させ、不屈、守護の光、防御を強く発動させる。一応中の人たちは壁際に避難させておいたけど崩落とかしたらすまん。
「せーの!」
思いっきり壁に向かってパンチを放つ。ケンちゃんと追いかけっこした時と同じように衝撃を全て壁に向けてぶつけるようにする。威力に関しては守護の光を発動している分あの時のダッシュよりもかなり強くなっている。
ガンという音と共に衝撃波が周りに発生するが壁はびくともしなかった。片っ端から壁を殴るがどこも同じようになっているようだ。どうやら扉のある所を殴ったとしても、内側からの衝撃は全て消されるみたいだな。
予備の剣を取りだして壁を切ってみても同じ結果。というか剣砕けた。浅い傷はつけられたから死ぬほど頑張れば脱出できるかもしれないけど俺にはその技術がない。
まじかよ。この攻撃力で殴ってびくともしないって事は俺自力脱出できないんだけど。いやもう少し考えてみるか……ふむ、俺は脱出ゲームとかあんまり好きじゃないんだけど、こういう時ってとりあえず壁を調べてみるのが良いんだよな。
……。
はい何もなし。
そもそもここ出られるようになってないんだろうな。じゃないと扉に鍵がかかってる理由もわけわかんないしこんな頑丈なダンジョンみたいな閉鎖空間……あれ、あかねのダンジョンテレポートとかどうなの?
しかし考えていてもあかねがこっちに来ない所を見るとここはダンジョンではないのだろう。なんだかんだ冷静なあかねの事だし、めぐもいる。あの二人がいれば俺の無事はわかるだろうしそうそう無茶なことはしないだろう。
フラフィーが来たところでここはどうしようもないが……あいつなんだかんだで運良いし脱出のヒントとか見つけそうなんだよな。だけどこの状態で突入しようとしてもあの二人なら止めてくれるはずだ。流石に可能性だけで中に来させようとは思わないだろう。
しかしこれだけ頑丈な作り、ダンジョンではないこと、完全に閉じ込めるだけの部屋、どうみても人為的に作られた空間だよなこれ。
元々魔力をかなりもった人たちが詰め込まれ全員が衰弱している。そして透視で見てたから気にしてなかったけどこの中には明かりも何もない。
もしかしてここの人たち何かの儀式の犠牲者なのでは? というか現在進行中なんじゃないのこれ。王都の儀式は大量の魔術師やら王女様の莫大な魔力で発動してたけど、一般人がやるにはこういうことしないと無理そうだもんな。
可能性でしかないけど拉致被害ってここの儀式隠すための隠れ蓑替わりだったりする?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます