第196話 覚えてる

 というわけでみんなに見送られて村を出る。そして王都まで戻るときにもう一度ケンちゃんを呼んだらフラフィーが腰を抜かしていた。そういえばお礼言いたいとかそんなことを言っていたな。


 ケンちゃんは俺と同士になったので俺には友達のように接してくれる。とても嬉しい。フラフィーは女の子であり獣人なのでケンちゃんからは普通に対応されていたが、フラフィーは感謝を伝えたり恐縮しっぱなし。


 よそよそしくされてちょっと寂しそうな猫が見れて俺はとても満足です。なんだかんだで表情豊かだよね猫って。


 フラフィーはずっとそんな調子だったため王都付近に来たときには緊張で死にそうになっていた。でも俺もめぐのこと肩車しながら王都一周とかしたら……緊張じゃなくて嬉しさで死ぬな。


 そのまま王都に乗り込みたいくらいずっと可愛がっていたいが、目立つので森の中でケンちゃんとお別れだ。獣人の村に来るときにはまた遊びに来るからね。ついでにケンちゃんには結界そのうち壊れるかもしれないから強化しといてと頼んでおいた。


 どうやらケンちゃんはめぐが来なければ移住しようとしていたようで、前の世界で結界が壊れたのはケンちゃんがいなかったせいっぽい。つまり獣人の村はこれで存続することになるだろう。


「神獣様のお背中に乗せていただけるなんて……」


「ケンちゃん可愛いよな」


「あのもふもふなら毎秒可愛がれる」


「自慢のペットです」


 フラフィーは俺たちの言葉に胡乱気な視線をくれるだけで特には何も言わなかった。言っても無駄だと言うのがよくわかっているのだろうな。みんな改める気なんかないぜ。ケンちゃん可愛んだもん。


「さて、それじゃあフラフィーも仲間になったわけだしクロエとイリスを探しに旅に出ますかー」


「ん……? ちょっとまってキミヒト君」


「嫌な気配がするよお兄ちゃん」


 もう王都に用はないと思って旅支度をしようと提案したらあかねとめぐから待ったがかかる。最近結構待ったをかけられるな。だけど実際に待ったをかけられた時は待たなくてはまずいことが起きているので良いだろう。


 というかめぐとあかね両方から待ったがかかるって結構やばい案件な気がするんだけど? あかねはいつもさぼってて気まぐれのようにやるけど情報収集のタイミングとか完璧だし、めぐに至っては超常現象の塊みたいなものだし。


 嫌な予感しかしねぇ。


「な、なにが起きてるんですか?」


 真面目なあかねを見るのはめちゃくちゃ久しぶりなんだろう、フラフィーはめちゃくちゃ警戒している。フラフィーがあかねのマジっぷりを最後にみたのは……え、まじでいつだ?


 モンペリエでは見てないし、その前の盗賊退治の時もみていないはず。……そうかフラフィー救出以来なんじゃないか? え、そこまでずっとあかねの世話してたのフラフィー偉すぎる。


「キミヒト君、そろそろ私も怒っていいかと思うんだけどその辺どう思う?」


「俺に非はないと思う」


「絶対クロエちゃんとイリスちゃんにあらいざらい全部言ってやる。考えていたことまで全部ぶっぱしてお仕置きしてもらう」


「やめてください死んでしまいます」


「おにいちゃん達真面目にやって」


 めぐからお小言を頂く。ロリからの苦言は最高だぜ! ついにめぐからもジト目を頂けて満足感が凄まじいので真面目に辺りを探ってみる。転生して強化されたけど透視はあんまり変わってない。気持ち距離が伸びたかも? みたいな感じ。


 フラフィーも耳をぴこぴこ動かして一生懸命探っているけどあかねには勝てないだろう。適材適所っていうことでまた別の機会で働いてもらうよフラフィーには。あかねの世話とか戦闘面でな。


「あっちのほうで面倒ごとが起きてるね。声が聞き取りづらいというか、乱闘……いや拉致騒ぎかなこれは」


「私には助けを求める声が聴こえます。そう、罪のない子達の助けを求める声が」


 ほう? もしかして奴隷騒ぎか何かかな? 確か王都では奴隷がダメだったはずだけど、奴隷解放している人たちがいる以上は非合法で扱っている連中もいるのだろう。


 じゃなきゃあ王都で活動する意味ないもんな。合法で出来なくて非合法なら声に出せなくても助けを求めるのは当然だろう。祈りを捧げるという行為は神じゃなくても色々な人に届くのだから。


 そして今の王都で狙われやすいのは孤児院の子ども達だ。前の世界では俺が孤児院の院長先生と知り合う前はたまにさらわれることもあったそうだ。親がいなくて国からも支援が間に合わない孤児たちはまさに狙いどころ……行くしかねえな。


「行くぞ!」


 あかねとめぐの言い方ではまだ助けられそうな感じなので人間の速度で走る。街中で全力で走ったら色々とまずいし万が一人に当たったらたぶんその人死ぬ。現地に着くと複数人の男と一人の男が争っていた。


「ちぃ! 新手もきやがった。撤退だ!」


「あ、こらまて! ……また逃がしてしまったか。いやこの子を助けられたんだ、よしとしよう」


 そして俺達が来たことにより複数人の男たちは逃げてしまい、その場にはさらわれそうになっていた子どもと一人の男が残された。子どもは恐怖でがたがた震えていたが、助かったと知っておじさんに抱き着いて泣き始めた。


「よしよし、もう大丈夫だからな。おうちはどこだかわかるかい?」


 見覚えがあると思ったらその男はこの前ぶつかったイケてるじさんで、子どものあやしかたも慣れている感じだった。そういえばこの前も奴隷の情報掴んだからってかなり急いでいたな。


 でもものすごい見覚えがあるのに全然名前が思いだせない。というかなんかこう、こんな知り合いいたっけ? という感じで喉元でずっとひっかかっている。そんな感じで俺達が見つめているとイケおじはこっちに気付いた。


「助かったよ。正直一人で全員を倒すのは難しいと思っていたんだ。その恰好を見ると冒険者だね? わしの名前はヴァスフェノ・ベノプウ、一応貴族だが没落寸前だ!」


 自慢することじゃないとは思うが優しい人なんだろうと思う。奴隷を解放するために護衛を使わず自分で特攻して助ける、相当鍛えているようだし毎日こんなことをしてたらそらお金がいくらあっても足りないだろうな。


 護衛を雇うお金が無くなったから自分で行ってるんだろうか? っていうかベノプゥって言ったかこの人。


 覚えてるわ。


 前回の世界ではたしか人間かどうかあやしいぎりぎりの見た目だったと思うけど、確かに顔に面影がある。なるほど、そらでてこないわけだわ。っていうか一人なの? ムバシェとかいう護衛兼教育係みたいな人いなかったっけ。


「貴族の方でしたか。子どもを助けることが出来てよかったですが、どうして貴族の方がたった一人で?」


 なのでとりあえず聞いてみる。


「恥ずかしい話だが……護衛を雇って移動するよりも一人の方が早いんだ。それにお金もあまりなくてね。あぁ立ち話もなんだからこの子に何か食べさせてあげてからでもいいかい?」


「賛成です」


 懐かしい人物に出会って混乱しているが、見た目の変化以上に柔らかくなった態度に違和感を感じる。もっと傲慢な感じでお金持ちだったと思ったけど……この数か月でどうやったらあんなんなるんだろうか。


 気になったのでついて行き一緒にご飯を食べることにした。

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