第185話 これが女神様

「信者一号……なのですか?」


 声が聴こえた。いつものように無駄に神々しさと自信にあふれたようなものではなく、ただただ不安な声が。その声色は間違いようがない確かに女神様の物。俺には分かる。信者だから。


「ああよかった女神様。もうお会いできな……い?」


「ねぇキミヒト君。何が起きたの?」


 俺が聞きたい。


 そこにいる女神様は確かに女神様。しかしその姿は神々しさを失い空も飛んでおらず若干やつれている。服装だって貫頭衣のようなものを着せられている。


 女神様というよりも囚人もしくは孤児、そんなイメージが頭に浮かんでしまう。どうしたんだ一体。


「信者一号、仲間を一人取り戻したのですね。良かったです」


 女神様はそう言って慈愛に満ちた表情で俺達に祈る。


「いやいや女神様、その前にその姿について説明してくださいよ」


 俺がそういうと女神様は少し驚いたような安心したような表情を浮かべる。その表情はまるで人間のようでいつもの疲れ切っていたりだらけたりしている女神様の物とは思えなかった。


 ただなんというか、女神様がより近くに感じられて嬉しいという気持ちも一緒に沸いてくる。孤高の存在だった猫がお腹すかせた時にちょっとだけ近づいてくるような、そんな感じ。


「信者一号……あなたは……」


「ちょっと待ってキミヒト君、この人本当に女神様なの?」


 あかねが横やりを入れてくる。確かに今目の前にいる女神様はあかねが初めて会ったときに比べ神々しさを失っている。もはや神聖の欠片もない。


 あるものと言ったらロリ性。何故かはわからないが大人な感じで美しい女神様は多少縮み小学校高学年くらいのお姉さんな感じになっている。フラフィーとあかねよりも下、クロエとイリスよりは上って感じ。


 しかし整った顔立ちや人生の経験が積み重なり、雰囲気だけなら完全に大人というアンバランスな素敵なロリとして君臨している。なので俺があかねに言うことは一つ。


「見た目が変わったくらいで女神様を見間違えるほどの甘い信者じゃねえぞ俺は」


「キモ」


 あかねが何か言ってるが間違いなくこの人は女神様。何があったのかはわからないがそれは今は別に良い。再会出来たことが非常に喜ばしい。


 しかし女神様は泣いていた。え、ちょっと。


「うえぇ……ぐすっ、ありが、ありがとうございます」


「女神様、お礼を言うのはこちらですよ。ほら、良くわかりませんけど泣かないでください」


 縮んでしまった女神様に視線の高さを合わせ落ち着くようにゆっくりと話す。女神様は前から幼い部分があったけどこうして泣いてると本当に子どもみたいだ。


 どうにかこうにか泣き止んだ女神様だが、ここではちょっと目立ちすぎるかもしれない。深夜で人がいなくなった教会とはいえ子どもの泣き声が響いたあとにその場にいたら怪しまれるだろう。


 教会関係者も出てきてもおかしくはない。いやおかしいのは今のこの現状の方じゃないか?


「ぐすん」


「女神様、何があったのか説明できますか?」


「うん、でもここ人が来るから宿屋に行こう? 信者一号連れてって」


「良いですよ。じゃあはい」


 手を差し出すと女神様はためらいなく俺の手をつかんで仲良く歩き出す。まだ目をこすっていて泣いているのか泣き疲れて眠くなったのか、非常に子どもらしい。


 っていうかさ、女神様実体化してるやん。しかも教会から出られるし。まあいいか。宿屋に着いてから色々お話聞かせてもらおうかな。


「これが女神様……うーん信じられない」


 あかねがまだ疑っているが俺はこの人が間違いなく女神様だとわかっている。何か証拠があるかと言われても何もないが、魂で感じる。そういうものだ。


 宿屋に着くと女神様は神妙な面持ちで口を開いた。


「それにしても信者一号、よく私だとわかりましたね。普通はあかねさんのような対応になるのですが」


「信者ですから。あなたがどのような姿に変わろうとも、たとえ人じゃなく魔物に姿を変えようとも絶対にわかります。私は全てを捧げてあなたに尽くしたいと思っています」


「……あはは、やっぱり重いね信者一号は。でも見つけてくれてありがとう」


 女神様は頭を下げてくる。口調が変わったりするのも調子が出てきた証拠だろう。


「ええ、愛にも等しい感情ですよ。それで女神様、そのお姿はどういった経緯なんですか?」


「話せば長くなるのですが……」


 やりすぎた。それが原因だった。


 女神様は俺一人ならばれずに不祥事を処理することが出来るかもしれないと言っていたが、最後の祝福の時、俺に対して感謝を返したいなら今しかないと思ったらしい。


 そして女神の力を盛大に使い切り世界を戻すときに女神の加護を通して記憶の保持も行ったらしい。しかしそんなことをすれば確実にばれる。というか違反行為なので完全に目を付けられた。


 女神様よりも偉い人は女神様の干渉しすぎた行動を良しとせず、女神として存在しているエネルギーを全て奪ってしまったそうだ。そして人間としてやり直すはめになったらしい。


 めちゃくちゃ嬉しくて死にそうなんだけど。女神様と俺相思相愛すぎて世界が祝福してる気がするよ。


 でもこれおかしくない?


「女神様、世界を作り直すのに女神の力を使う、そしてその女神は記憶を失って人間として生きるって言ってませんでしたっけ?」


 そう、本来なら女神の力を奪われたなら記憶も失うはずだ。それなのにこの女神様ときたら記憶も全部残ってる。


「ふふふ、それが私の力ですよ信者一号。私が意味もなく世界中でサボりまくっていたと思っていますね? 残念、実はこの世界のあちこちに記憶や力のバックアップを取っていたんです」


 どうやら女神様、自分の力や記憶を色んな教会に隠していたらしい。それこそ違反行為な気がするんだけどそれはばれなかったのか。がんばるところ色々間違ってませんか。


 なんでそんなことをしていたのか聞いてみると簡単な答えだった。


「だっていつクビになるかわからないんだもん」


「クビにならないようにしてくださいよ」


 女神様は自分がサボりまくっていることに自覚があったらしい。そして自分の世界に落とされるなら記憶をもったまま過ごしたいと考えて教会にこそこそと自分の欠片のようなものを残していたそうだ。


 そういえば初めて会ったときも俺がいなくても来てるみたいな事言ってたもんな。誰も拝む人がいないのに。ある意味すげーなこの人。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る